book2

□Espero por el alba
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真夜中に聞こえた悲痛な声に、アスランは目を覚ました。身体を起こして隣のベッドを見る。苦しそうに何かを叫んで、身体を丸めるて、まるで身を守るかのようにキラは、泣いていた。


「キラ、キラッ!!」

「や、……だ…や…… やだやだやだ、来るな……ッ!!」


悪夢にうなされているキラを起こそうと、アスランは身体を揺さぶった。耳を塞いで、泣いているキラは、とてもじゃないが見ていられなかった。





*Espero por el alba...




あの時、あのオーブでの戦いで、キラを殺してしまったかと思っていた。あれだけ大切で、かけがえのない存在だったはずなのに。
キラが生きていると分かった時、ほっとしたのと同時にキラに会うのが怖かった。自分を殺そうとした存在に、どの面を下げて会えばいいのかと。
しかしキラは、代わらずに自分を殺そうとした奴を迎え入れた。仕方ないと、敵を撃つのは当たり前だと。
だけど、それは違った。殺されそうになった経験は、そう簡単に忘れ去る事はできない。どんなに取り繕っても、心が悲鳴を上げるのだ。
軍人としてのアスランの行動に、非はない。しかし、取り返しの付かないとこをしてしまったのには代わりはないのだ。


「キラ、キラ……起きて、キラ」

「や…あ、わぁあああああああ!!」


キラの叫びが、胸に突き刺さる。キラだけではない。今まで殺してきた人間の叫びのような気がして、軍人として成果を揚げれば挙げるほど、それは積み重なっていく。
泣き叫ぶキラ見ているのが、辛くてアスランはその身体を抱きしめた。反射的に暴れるキラをそれでも抱きしめて、震える背中をなで続けた。
あまりにも軽くて細いその身体は、また壊してしまいそうだった。


「あ…す、ら……」

「キラ……」


うっすらと開けた口から漏れた声に視線を向ける。涙で腫らした紫色の瞳が、アスランを映していた。


「キラ、ごめん。ごめん……」

「……で…、な、んで、あす、ら…が、あやまる、の?」

「ごめん、キラ……」


頬に温かなぬくもりを感じた。アスランよりも一回りほど小さな手が、頬を包み込んでいた。涙で潤んだ瞳が真っ直ぐに、アスランを見つめている。その瞳は、にこりと微笑んでアスランを抱きしめた。


「ごめんね、アスラン。ごめんね……」


細い腕が、背中にまわる。温かいその身体は、キラが生きていることを教えてくれた。


「どうして、キラが謝るんだ…」

「・・・だって、アスランがつらそうな顔、してるから」


ふふっと、キラは笑った。とん、と胸元に重みを感じる。寄りかかったキラは、静かに目を閉じた。


「生きてる。生きてるよね、僕も、アスランも」


キラの鼓動と共鳴するように、心臓が揺れている。
背中に回されていた腕が、ぎゅっと強くなった。キラの顔を覗き込むと、静かに涙を流していた。


「キラ?」

「怖い…、怖いんだ。眠ると……今まで殺してしまった人たちと、守れなかった人たちが、苦しいって叫んでる。どうして、死ななきゃいけなかったのかって。僕に問いかけてくる」


キラの言葉は、軍人なら誰もが通る道だった。しかし、キラは焦がれてMSに乗ったわけではない。訓練もろくに受けず、突然巻き込まれて。誰よりも前線に立たされてきた。そうしなければ生き残れかなかった状況を作り出したのは、紛れもなくアスランと周りの大人たちの所為。キラの所為ではない。
誰よりも優しくて、争うことを嫌っていたキラが、どれほど身を引き裂かれる思いをしただろう。
キラの所為ではないと、言ってやる事も出来るが、それも違う。それを言うには、キラは戦い過ぎた。


「俺だって同じだ。キラの倍、それ以上に、俺は人を殺した。おまえすら…殺しかけた」

「それは……仕方がないよ。僕だって、アスランを殺していたかもしれない」

「やらなければ、やられる。それが戦争なんだよ」

「……悲しいね。どうして、戦わなければいけないんだろう」


その問いかけは、きっと皆が思っている。終わらない争いは、悲劇しか生まない。それでも、人は争う事をやめない。やめない限り、誰かが死に、誰かが殺し続けるのだ。


「もう…戦いたくない…」

「そう、だな……」


しかし、戦わなければ今の状況は変わっていかない。
戦いをやめた瞬間に、この船に攻撃が向けられるだろう。


「いつか…くる、よね。戦わ、なくても…暮ら……る、とき、が……」


また寝入ってしまった栗色の髪を、アスランは撫でた。その寝顔は、先程よりも穏やかなもので、ほっと胸を撫で下ろした。

今は戦うしか道はない。きっと、これからもキラはこうして泣くのだろ。
誰も知られないところで、泣いているのは見たくはない。
あの時、ヘリオポリスで誰よりも先にキラを見つけられていたら。
もしも、出会う前にキラが脱出していたら。
現状は変わっていたかもしてない。
しかし、現実には“もしもの世界”は無意味なものなのだ。

今を、後悔が残らないように。考え、行動する事しかできないことを、誰もが知る時なのかもしれない。



End


初、アスキラ。アスキラ書くなら、まずはここからだろうと思いました。
10年ほど前の作品なので、はっきりいって曖昧な点はたくさんあります。だけど、アスランとキラとの関係は、オーブのあたりの話が切っても切れないものじゃないかなと……うろ覚えながら思いました。

……もう一回見直さないといけないですねι
ほんと、記憶が曖昧すぎてorz
見直したら、この話は即刻削除しそうな気がします←←

※「Espero por el alba」は「夜明けを待つ」のスペイン語です。





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