book2

□あいいろ
1ページ/1ページ




「これ……き、み、の?」


「あ…あの……むかし、大切な友達からもらったんだ!!」



手を伸ばせば届く距離にいるのに、届かない。
すぐ近くにいるのに、名前を呼ぶこともできない。
手の中のトリィは、無邪気に鳴いていて首を傾げた。
背中を向けて、去って行く藍色の髪が遠く、離れていく。
あの翡翠の瞳の中には、もう僕はいない。






*あいのいろ




「ア、ス、ラ、ン……」


保志は、口に出してその名前を呼んだ。
これは作品の中の話で、現実ではない。だけれども、このシーンはどうしても深く心の中に残っていた。
たった一枚隔てた場所にいるのに、アスランとキラの距離はとても遠いところにいる。幼い頃に分かれたときにはなかった、その一枚の壁はとても高く越えることは難しくなった。

収録が終わって、家に帰ってからもぼんやりと考えていた。どのくらいそうしていたのか分からないけれど、すっかり部屋の中は暗くなっていた。窓から差し込む街の明かりが、チカチカとしている。


「……ラン…」


ふいに頬を涙が伝った。こんなに感情移入したことは、今まであっただろうか。友達の中にいても、どこかやっぱり一人だけ違うような感じがしていて、一人浮いていたキラ。大切な友達は、傍にいない。指し伸ばしてくれた手を、キラ自らが否定してしまったから。
くるりと部屋の中を見回す。当然だけれども、部屋の中には誰もいない。
静かに流れる涙。あとからあとからそれは、あふれ出してきて自分ではとめることは出来なかった。
顔を伏せて、目を閉じる。耳を塞いで、静寂を消したかった。




「……ん、……し、くん」


ふいに肩を叩く気配がした。誰かが呼ぶ声が聞こえる。
ゆっくりと顔をあげると、部屋の中が明るくなっていた。


「……し、くん、保志くん」

「アス…ラ……」


そこにいたのは、エメラルドグリーンの瞳ではなく、吸い込まれるような漆黒の瞳だった。心配そうな顔をして、保志の顔を覗き込んでいた。


「保志くん。だいじょうぶ?」

「い、しだ、さん?」





顔を上げた保志を見て、石田は目を見張った。
暗い部屋の中、もしかしたらまだ帰っていないと思って、部屋の明かりを付けたら、ソファに小さくなって蹲っている保志を見つけたのだ。何度か呼んでも、反応を返してくれない。揺さぶって、やっと顔を上げたと思ったら、ぼんやりとした瞳から静かに涙を流していた。こんな表情初めてで、それでも名前を呼んだ。


「そうだよ。どうしたの?」


頬を伝う涙を拭うと、保志が胸の中に飛び込んできた。しっかりと抱きついて、まるで離れていくのを恐れているかのように。小さな嗚咽が聞こえる。震えている背中をそっと撫でると、ふっと肩の力が抜けていった。


「ご、めんなさい」

「どうして?」

「だって、服が……」

「こんなの、洗えば平気だよ」


泣きやんだ保志の目は赤くなっていた。長い間一人で泣いていたようで、目が腫れぼったくなっている。泣いた所為で、いつもより少し掠れた声だった。
温かい紅茶を入れて、保志の目の前に差し出した。ゆらゆらと湯気と一緒に紅茶の匂いが広がった。こくんと、小さく喉がなるのを聞いて、石田は切り出した。


「で、どうしたの?」

「え……あ、あの……」

「ゆっくりでいいから、話して」


かすかに頷くと、ゆっくりと話し始める。
キラのこと。アスランのこと。これからの話の展開のこと。
どうしても重ねてしまう、自分とキラ、そして石田とアスラン。
黙って話を聞いていた石田は、話を終えるとくすりと笑った。


「なっ!? なんで、笑うんですか?」

「あ、ごめん。別にそう言う意味じゃなくてね。あまりにも、微笑ましくて……」

「……バカにしてますか?」

「全然。むしろ、役者冥利に尽きるというか……」


ぐいと保志の腕を引っ張った。すとんと胸に収まった保志の髪を梳く。普段は、ツンツンと立てている髪だが、もともとストレートで癖がつきにくい。すっかり元に戻ってしまった髪は、触り心地がとてもいいのだ。


「こんなにも、自分を思ってくれるキラをアスランは嫌えないよね。キラもきっと……例え殺しあう展開になっても」

「キラは強い……僕がキラみたいな境遇になったとしたら、きっと手を伸ばして付いていったと思う…大切な人と離れ離れになるなんて、たえられない」

「……そう、だね。でも、これは物語の中のことだから」

「ちょ、元も子もないじゃないですか!?」


いつもの調子に戻った保志を見て、くすくすと笑った。ふくふくと膨らんだ頬を撫でて、唇を塞いだ。驚いた顔に啄ばむように口付けして、しっかりと抱きしめた。


「あれは作品で、こっちが現実。分かった?」

「…は、い」


もう何度もキスもしたはずなのに、恥ずかしそうに保志は下を向いている。その可愛らしい反応に、もう一度口付けする。さっきよりももっと深く、甘いキス。
へたんと保志の腕から力が抜ける。火照った身体が、恥ずかしそうに石田のシャツを掴んだ。


「ベッド、行く?」

「…ここ、で…いい、です」


消えそうなくらい小さな声が聞こえた。



狭いソファの上に重なり合うように倒れ込んだ。行き場のない熱を持て余すように、何度もキスをする。服を脱ぐのももどかしくて、早く一つになりたかった。


「ねえ……なまえ、呼んでよ」

「い、しだ、さん」

「違うよ…」

「…あ、き…ら、」

「そう。よくできました」


汗で張り付いた前髪をどかすと、嬉しそうに笑った。
薄く開いた唇がやっぱり魅力的で、吸い寄せられるように口付ける。歯列を割って、びっくりしている赤い舌を追いかけて捕まえる。口元から零れる唾液に構わず貪るように。苦しそうに眉根を歪ませるのを見て、そっと唇を離すと、二人の間に銀糸が伝った。互いの息使いだけが、部屋の中に木霊する。
もじもじと視線を彷徨わせる保志を見て、くすくすと笑う。
しっかりと反応を示すそこに口を這わせると、ビクリと保志が反応した。真っ赤になった顔を無視して、口にする。少し苦いそれは、それでも甘くて丁寧に舐めた。


「アッ、やあ……や、放しッ!!」


引っ切り無しに漏れる嬌声。ぴちゃぴちゃと水音が響く。
限界が近いのか、いやいやと首を振る。口に出すのをはばかっているのをしていて、わざと無視して追い込んだ。一際高い声をあげると、口の中で蜜が弾ける。苦くて甘いそれを、ごくりと飲み込んで保志を見た。
くったりと疲れた顔が、こちらを向いていた。


「あ、ごめ…な、さ……」

「なんで? おいしかったよ」

「あ、うぅ……」


恥ずかしそうに下を向く。
ぼそぼそと何か呟いているが、その呟きもまた可愛くて、ぎゅっと抱きしめた。


「今度は、いっしょに達こうね」

「……はい」




そうして身体を繋いで、戯れているとぽそりと保志が呟いた。


「でも、やっぱり。もし、離れ離れになったら……」


ぴったりとくっ付いたままだった身体をそっと離す。ほんの少しの隙間が出来ただけなのに、そこだけがやけに冷たかった。


「ないよ」

「え?」

「もし、なんて未来はないから」


引き寄せて抱きしめる。腕の中のものを逃がさないように、しっかりと。
もともと低い石田の身体に、温かい体温が移る。不安げだった瞳が、ふんわりと弧を描いた。

あの話の結末がどうなるか、それはわからない。だけど、優しい彼が悲しまないような結末がまっていると良い。
きっと、みんな彼のことを好きだから。




end



アスキラからの、石☆。
友達からのメールから妄想した産物です。冒頭の台詞は、実際とは違うかもしれないです。なんせ、思い出しながら書いてますんでι
SEEDシリーズが終わってかなり経ってますよね……リアルタイムではまってたんで、年月の速さに恐ろしさを感じます><
今でもアスキラ好きだし、種と運命のキャラは大好きです!!
ツイッターの所為もあって、再熱がハンパないwwww
そのうち、アスキラも書いてみたいと思ったりwww







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ