book2
□ひだまりの日に
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目の前に積みあがった白い山に、キラはげんなりと机の上に突っ伏した。
*ひだまりの日に
もうすぐ迎える新しい期に向けて、調整の時期がやってきてしまった。
カガリを支えるキラには、当然仕事が山のようにあった。姉であるカガリを支えるのは当然のことなのだが、毎度毎度この時期になると何かと事務仕事が溜まってしまう。
「あー、もう嫌だぁ」
「まあなぁ、コレだけありゃ嫌にもなるはな」
フラガは、目の前に詰まれた資料の山を見た。ドンと詰まれた、数日前よりもさらに圧迫感を増している。
国の重要機密に関わるため、フラガはあまり立ち入る事ができない。しかし、これだけの量を決められた期限までに処理する事は到底無理なこと。カガリにも了解を得て、こうして作業を手伝ってもらっていた。
「本当に、すみません……ムウさん」
「良いって。俺も暇だし……とは言っても大したことは手伝えないけどな」
そういいながら、キラが処理した書類を分類ごとに分けていく。そのスピードは以外にも速く、どんどんと仕分けされていく。フラガの前にも、かなりの量の紙の束が出来ていた。
だが、まだまだ仕事は終わりそうにない。
「カガリは、もっと大変なんだし……がんばらないと」
オーブ国の元首であるカガリにしか出来ない仕事も山のように残っていた。今頃は、カガリの執務室でも山積みの書類で溢れかえっているだろう。もう、何日も顔を見ていない気がする。
「……ちゃんと、休んでるのかな?」
「あ、あの嬢ちゃんのことだから、アスランが強制的に休ませてるだろ」
「…そう、ですね……」
徹夜あけだという事がよく分かる充血した紫色の瞳に、空の色が映った。春に近づいた空は、陽気さが増している。ついこの間まで、冬の空が広がっていたのにいつの間にか季節は代わろうとしていた。
ふいとそれた視線に気付いたフラガは、にやりと笑う。
「あ、それともアスランのことか?」
「なっ!? え、えっ!!」
「あーそうか、そうか。キラは寂しいんだな、あいつに逢えなくて」
「え、ちっ、違います!!」
明らかに動揺するキラに、フラガはにやにやと笑っていた。キラはわたわたと資料を手に取ると、それをフラガに渡す。その拍子に積まれていた書類の山に腕が当たって、ばさばさと床に散らばってしまった。
「わ、わぁあああ!! ごめんなさい!!」
「あーもう。ホント、キラは可愛いなあ」
ばら撒いた書類を拾い集めようと席を立ったキラに、フラガはぎゅうと抱きついた。突然抱きつかれたキラは、目を丸くする。はたと気が付いて、離れようとするのだがフラガは離してはくれなかった。
「ちょ、ムウさん!?」
「お、ちょっと痩せたんじゃないか?」
「わ、ちょっと!?」
ぐりぐりと頭を撫でられて、まるでぬいぐるみのように扱われる。腕に抱え込まれてしまったキラは、体格差の生で脱出することが不可能になってしまった。じたばたと暴れていると、バタンと突然ドアが開いた。
「何をやっているのですか!?」
「あ、ああアスラン!?」
はははと笑うフラガは、キラを離そうとはしなかった。それどころか、自分が座っていたソファに腰掛けるとちょんとキラを膝の上に乗せる。そうして、後ろからキラを抱きしめると細い肩の上に顎を乗せた。
「わ、ちょっ!? 離してくださいムウさん!!」
「よう、お前もそうとうヒドイ顔してるな」
「そんなことより、キラを離してくれなせんかねぇ?」
キラと同じように、アスランの目元にはくっきりと隈が出来ていた。いつもはきちんと整えられた髪も、すこし乱れているその様子は、あちら側の大変さが伝わってくる。フラガは、にやにやと笑ってアスランを見ていた。
いらいらとした様子のアスランは、一応年上のフラガに気を使っているようにも見える。にこりと笑ってみせるアスランの目は、笑っていなかった。
「んーどうしよ……つかお前、ほんとにちゃんと食ってるのか? めちゃくちゃ軽いぞ」
「ひゃっ……み、耳元で話さないで下さい!!」
「おーなんだ、キラは耳が弱いのか」
「い、いい加減にしてください!!!」
「わ、ちょ―――ッ!?」
アスランは、無理やりフラガの腕からキラを奪う。ばさばさと仕分けられていた書類が崩れていく。あーあーとフラガの声を上げるが、アスランには届いていなかった。
ぎゅうとキラを抱きしめると、フラガから隠すようにキラを背に追いやる。
「ちょっと、アスラン!?」
「からかうのはよして下さい」
「あ、はいはい」
フラガはひらひらと手を振ると、ばらばらになってしまった書類を集めなおした。そうしてすっと立ち上がると、威嚇するように睨むアスランの頭をぐりぐりと撫でる。
「お前さんも、ちゃんと寝ろ。今は、お嬢ちゃんも仮眠とってるんだろ? お前ら、少しは休みなさい」
「でも、まだ仕事が」
「俺だって、終わる目処も立ってないのにですか!?」
「はいはい、わかりました。じゃあ、おやすみ」
そういうと、フラガは二人を仮眠室に押し込んだ。
「あ、二人だからって、疲れるようなことするんじゃないぞ」
「ちょっ!? 何言ってるんだ、あんたは!?」
はははと笑ってフラガはバタンと扉を閉めてしまった。ご丁寧に鍵まで掛けられてしまっている。カーテンが閉められた仮眠室は少し薄暗く、隙間から日差しが差し込んでいた。
はあとため息を付いているアスランを、キラはじっと見る。アスランの顔を見るのは本当に久し振りだった。お互い仕事の所為で一ヶ月以上、会っていない。少し痩せたように見えるアスランの頬に、キラは手を伸ばした。
「アスラン。ちゃんと、寝てる?」
「それはキラも同じだろ? 目元、隈が凄いぞ」
「アスランもだよ」
くすくすと笑いあう。お互いに相当ヒドイ顔をしていた。いつもよりぼさぼさになった藍色の髪をキラは、ゆっくりと撫でる。充血した紫色の目がアスランを写した。藍色の髪を撫でていた腕をアスランは掴んで、ちょいとキラを抱き上げる。
「ちょ、アスラン!?」
そのまますたすたと進むと、アスランはベッドの上にキラを寝かした。隙間から差し込んだ光がキラの顔に当たる。その眩しさに目を細めると、すぐに影ができた。
「キラ」
近づいてきた翡翠色の目に、キラは目を閉じた。久し振りに感じるそのぬくもりは、とてもあたたかい。キラの唇にアスランのキスが降りる。すこしカサ付いた唇は、軽く触れただけで離れていった。
翡翠色の瞳に、キラが写りこむ。キラの腕が背中に回った。少し痩せたその腕はぎゅっと背中に抱きついて、ネコのように擦り寄ってくる。抱きしめ返すと、よりいっそう痩せたのが分かった。
「キラ、ちゃんと食べてたか?」
「う…うん……まあ、ちゃんと?」
「なんで、疑問系なんだよ」
あははとキラは笑う。もぞもぞとキラは身じろぐと、アスランの胸のあたりに張り付いた。どくんどくんと鼓動が聞こえる。目をとじると、よりいっそうアスランを身近に感じた。
「ねむい……けど、まだ話したいな」
「寝ろよ。また起きたら、いくらでも聞いてやるよ」
栗色の髪を撫でる。温かいぬくもりはゆっくりと眠りを誘った。うとうととし始めたキラの顔に、すっと日差しが当たる。アスランはカーテンを引きなおそうと手を伸ばした。
「良いよ、このままで」
「どうして? 眩しくない?」
「ん、いいの。こうするから」
アスランの胸に顔を押し付ける。ふっと笑みが零れた。アスランはキラの背中をゆっくりと撫でた。
「おやすみ、アスラン」
やがて聞こえ始めた寝息に、アスランも目を閉じた。
やげて、二人分の寝息が聞こえ始める。
カーテンから零れた光が、やわらかく二人を差した。
end
初登場、ムウさん!!
……むっちゃ似非くさいムウさんになってしまったorz
事前にアスランを呼びつけていたムウさんに、ころっとはめられたアスキラです。
言わないと分からない設定ww
ムウさんは大人なので、大人の観点でアスキラを見守って欲しいですよね。
ムウさんにとってはどっちも、子供なんです!!
そんなアスキラどっかに落ちてませんかね(゚д゚=゚д゚)