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3月12日。
春の陽気が深まって、あたたかい日。
大切な、大切な、日。
* * *
「誕生日おめでとー」
真一郎たちの部屋の扉を開けた瞬間に、パンといっせいにクラッカーが鳴る。飛び出した色とりどりのテープが直の前に降りかかった。
「おめでと、藤守」
「ふじもりぃ、おめでとー」
「おめでとう、直」
「おめでとうございます、直くん」
「ナオくん、おめでとう!!」
皆から次々とお祝いの言葉がかけられる。
数年前までは、想像も出来なかったこの光景に思わず涙が零れた。どうしてたのって、青は首を傾げている。
「ごめんね、なんかすごく……」
言葉が途切れる。ポンと肩を叩かれた。隣に立っていた羽柴が凄く優しそうな顔をしている。
誕生日を迎えるたびに、思っていたことがあった。相沢に捕まって、置いて行かれて、外に出た後も、皆の枷にしかなっていない自分が時を刻むことに罪悪感を持った。
全部解決して、もういいんだよと言われるたびに本当に?と疑問を持たずにはいられない。
「おめでとう、直。ほら、はやく来いよ」
羽柴が手招きする。リビングには、水都先生と七海先生、青と祭ちゃんが待っていた。紙飾りはきっと青が頑張ってくれたのだろう。
「なーおくん、こっち向いて」
「わ、祭ちゃん!?」
パシャリ、と祭ちゃんがシャッターを押す。思わず目を瞑ってしまって、もう一回とカメラを構えていた。
「今日は、直くんの好きなものばっかり作ったんですよ」
テーブルには、ふわふわのオムライスに野菜たっぷりのスープ、それにサラダ。そして、大きなケーキが乗っている。クッキーやマカロン、チョコレート、たくさんのお菓子も並んでいた。
「ありがと、七海せんせ」
「ほら、俺たちからはこれ」
水都先生に手渡されたプレゼントは、腕時計だった。「こんな高そうなのもらえない」と言ったら、頭を撫でられた。赤色のベルトの腕時計は、銀の文字盤に小さな花が付いている。
「ありがと……おにいちゃん、ななちゃん」
みんなの祝福に胸がいっぱいになった。
みんなの心に、癒えることのない傷を作った。
ここにいても良いんだよって、皆が言ってくれているみたいで涙が出た。
「ナオ、お誕生日おめでと」
「はし……くーちゃん?」
抱きしめられて、手に箱を渡される。手に乗るほどの小さなその箱は、赤いリボンが付いていた。大きな羽柴の手が、そのリボンを解く。蓋を開けると、ピンクの箱。
「あの、これ」
「俺からの、プレゼント」
とくんと鼓動が鳴った。クッションの真ん中に収まっていたのは、小さなルビーが入った銀色の指輪だった。よく見ると、ルビーのまわりにはチューリップが刻まれている。
羽柴はそれを手に取ると、俺の左手の薬指に嵌めた。ぴったりとはまったそれは、すんなりと指に馴染んだ。
「あ、あの……」
「そんな高いもんじゃねぇけど、な」
「お、やるなぁ空ぁ」
照れくさそうに目を逸らした羽柴の端に、皆の顔が見えた。カメラを構えた祭ちゃんが、にこにこと微笑んでいる。
「あ、ああの!!」
ここが水都先生の部屋だったことを思い出して、慌てて離れる。顔が赤いのが自分でも分かる。恥ずかしさに顔を俯くと、羽柴が覗き込んできた。思わずドンと突き飛ばす。
「は、恥ずかしいんだよ、バカ羽柴!?」
「なんだよ、恥ずかしがんなよ」
「う…るさい!! みんな見てるだろ!?」
手を振り上げると、その手を羽柴に掴まれた。左手がキラリと光る。真剣は羽柴のその顔に、動きが止まる。どきりとまた胸が鳴った。左の薬指、銀の指輪に羽柴は口付ける。
その気障っぽい仕草も、妙に決まっていて何も言い返せなくなった。
ああ、俺はやっぱり羽柴のことがこんなにも好きなんだ。
「はしば、ふじもり、仲良いと、青も嬉しいな」
「おーい、二人で雰囲気作るのもいいけどよぉ。兄ちゃんたちを忘れんなよー」
「だーもう!! 兄ちゃん、良い雰囲気なんだから邪魔すんなっつうの!!」
「空、ナオくん。とっても良い写真が撮れたから、後であげるね」
「直くん。本当におめでとう」
また涙が零れた。
こんなにも嬉しくて、幸せで、いいのかな。
うけとったプレゼント。
あたたかい気持ち。
その全部が嬉しくて、心がいっぱいになった。
「みんな、ほんとうにありがとう」
笑顔で迎えられた誕生日。
それは、とても甘く、とろけそうなぼどの一日。
どのお菓子よりも、ずっと大好きな日になった。
end
直くん、HAPPY BIRTHDAY!!!
やっぱりこの子の誕生日は祝わずにはいられないです。大好きな作品の大好きな子。
直くんには幸せになってもらいたいですねえ。
空とお幸せに☆
ひっぱた割には、こんなものでしたが……思っていたものとは違いましたかね?
ルビーを選んだ理由は、赤いチューリップを表したかったからです。それに、なんと3月の誕生石はアクアマリンもそうですが、ルビーも誕生石なんだそうです!!
なんと都合のよいwww
きっと夜はもっとイチャツいてラブラブなんでしょうねー……時間あったら書きたかった><