book2

□ありがと
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その日はとても穏やかで、春めいた気候だった。







*ありがと





日差しは温かくぽかぽかとしている。執務室にこもって仕事をしていてもそれはとてもよく分かった。キラは椅子に座ったまま、グーっと背を伸ばす。長い事同じ姿勢でいた所為で身体が固まってしまったらしく、バキッと肩がなった。


「すごい音だな……」

「仕方ないでしょ、あーもう、こんな天気も良いのになんで部屋の中にこもってなきゃならないんだよー!!」


机に突っ伏したキラに、アスランはクスクスと笑った。確かにキラが言ったように、窓から見える空はとても綺麗で、少し開いた隙間から吹く風はとても穏やかなものだった。
カーテンを揺らすその風は、春の陽気を含んで部屋の中を満たしてくよう。


「ほら、あと少しなんだから、頑張れ」

「うー…アスランの鬼ぃ」

「カガリと同じこと言うなよ」


さすが双子だと関心して、アスランはキラの机の上から資料を手に取った。文句を言いながらも、キラの仕事はかなり速い。もしかしたら、カガリよりもペースが速いかもしれない。キラの伸ばされた手は、つんつんとアスランの服の裾を引っ張っていた。


「なに?」

「あーすーらーんー」

「だから、なんだよ」


ツンツンと引っ張るその手を、アスランはそのままにしてキラに近寄る。突っ伏していたキラは、顔を上げるとぎゅっとアスランの腰の辺りに抱きついた。


「ちょっと、休憩」

「なんだそれ」

「んー……なんでかな、落ち着く」


栗色の髪を梳く。指どおりのよいその髪を撫でるのが、アスランは好きだった。昔から変わらないその感触を楽しむ。頭を撫でるのは、もうクセみたいなものだった。
多忙を極める執務と、国を背負っている重圧、身内であるカガリを支えるためにキラは一緒にそれをこなしている。キラはカガリのように、幼い頃から帝王学を学んでいる訳でも、アスランのように軍に属していたわけでもない。普通の学生だったキラから、その普通の日常を奪ってしまった。あの日、あの時、巻き込まれなければとなんども考えただろう。
甘えたがりで、泣き虫だったキラ。甘えられる存在は、もうあまり存在しなくなった。


「キラ、疲れたら休んでもいいんだぞ」

「うん。でも、大丈夫」

「ダメ、休め」

「アスランって、ホントさ……」


なんでもない、とキラは口にした。ぎゅうと抱きついた力が強くなる。アスランは、キラの栗色の頭を抱きしめた。


「キラは、本当に甘えたがりだな」

「…………だけだよ」


ぽそりと呟いた声は小さかったけれど、アスランにはきちんと届いていた。しゃがみ込んで、視線を合わせる。紫色の瞳に、漂う雲が映っていた。


「ひと段落したら、カガリとシンたちも誘ってどこかに出かけようか」

「アスラン、わざとラクスの名前飛ばしたでしょ」


顔を背けたアスランに、キラは笑った。はははと声を上げる。久し振りに笑った気がした。
キラはアスランの頬を手で包む。少し拗ねた翡翠色の目に、キラが映った。ちゅっと唇が重なる。驚いたアスランに、キラはクスクスと笑った。


「ねぇ、海にいこうよ」

「海か……」

「お弁当もって、皆でピクニック!!」

「いいんじゃないか?」


柔らかい日差しと、海風が吹く海岸。

波の音と、鳥の声。

きっと、のんびりと過ごせるだろう。



「じゃあ、カガリと何か作ろっかなー」

「……食べられるもので頼む」

「し、失礼だなぁ」





春の陽気と、おいしいお弁当。

みんなの好きなものを詰め込んで。



「楽しみだなー」

「だから、はいこれ。頑張れよ」

「鬼だ……」


積み上げられた書類の山の一番上が、ぱたぱと風に吹かれて舞った。



end


3月9日はありがとうの日だそうです。
タイトルとあってない?
……気の所為です←←
ほのぼのアスキラです。アスキラの日常ってこんな感じかなと……
多分、照れくさくてありがとうって言い難いんですけど、傍にいてくれてありがとう、みたいな感じですかね


アスキラ好きだぁああああ!!!






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