book2
□見えない世界
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「危ないっ!!」
鋭い声と共に、目の前が真っ白になった。
*見えない世界
「キラっ、大丈夫か!?」
バンと扉を蹴破る勢いで入ってきたカガリを見て、キラは包帯が巻かれた顔をそちらに向けた。
戦火が収まったとはいえ、まだ地方では治安が回復していない地域がたくさんあった。その調査を兼ねて、偵察に出かけた先の事故だった。戦時中に仕掛けられた爆弾を処理しようとしたキラは、誤ってその爆弾を爆破させてしまった。幸いにも、爆弾の威力はそれほど大きなものではなかった。コーディネーターであるキラの運動神経をもってすれば、避けられるほど。しかし、爆破する際の発光の影響で一時的にではあるがキラの目は見えなくなってしまった。
「やだな、大げさだよカガリは。見えないのは一時的ってお医者さんも言ってたじゃないか」
キラが言うように、目を覆う包帯意外に、ほとんど外傷はなかった。にこりと笑うキラはいたって元気そう。そのようすにほっとカガリは肩を撫で下ろした。
「そうか……まあ、一時休暇だと思ってのんびりしていろ」
「うん。そうさせてもらうよ」
「分かっているとは思うが、大人しくしていろよ。しばらくは、部屋から出るの禁止だからな!!」
「え〜」
「えーじゃない!! なんなら、私が監視してやろうか」
「うぅ…分かった」
カガリはポンとキラの背中を叩いた。オーブという大国の元首であるカガリは忙しい。その合間をぬってお見舞いに来てくれたことが嬉しかった。
名残惜しそうに帰っていくカガリをキラは、手を振って見送る。その後すぐに、プラントから通信もあった。もちろん、発信元はラクス。すぐにでも飛んでいこうとする彼女を、イザークが必死に引き止めたらしい。
「本当ならすぐにでも駆けつけたいのですが……ごめんなさい」
「ありがと、ラクス」
「キラ、何か欲しいものはありませんの?」
「え? うーん……特に、ない……かなぁ」
「そう、ですか……お大事になさってくださいね」
ぷつんと、通信は途絶えた。
見えないながらも、心配するみんなの顔が浮かぶ。キラは、目を覆う包帯を触った。目を開けても、視界は白いまま。
なんとなくの気配で、何があるかはぼんやりと分かる。だけれども、むやみに動くのは躊躇われた。見えないということが、こんなにも喪失感が生まれるとは思ってもいなかった。
「…ひま、だな」
ベッドの上に、ごろんと仰向けになった。手元にあるリモコンで音楽をかける。
出かけ際に、カガリがベッドサイドにすべてを用意しておいてくれたのはあり難かった。ベッドサイドを探ると、呼び鈴とパソコン、それに電話が置いてある。そのほかにふわふわとした感触もあった。おそらくは、ぬいぐるみだろう。
「これでを僕にどうしろと?」
そのぬいぐるみらしいものを手に取って、形を確かめてみる。丸いからだと短い手足に、頭には長い耳があった。
「うさぎ…かな?」
それにしてもどこにこんなものがあったのだろうと、頭を捻る。カガリの部屋にぬいぐるみの類はおいてなかったはずだ。けれど、案外とカガリのものなのかもしれない。
「カガリも一応女の子だしね」
つるんとした目と鼻を確かめて、キラは枕元にそのぬいぐるみを置いた。ぱたぱたとトリィが近くに止まったのが分かる。
「トリィ?」
キラの声に反応するかのように、トリィは鳴く。つん、つんとキラの頬を突いて、まるでここにいることをアピールしているようだった。
「そういえば、キミがいたね」
手を向けると、トリィは指にちょこんと乗る。トリィ、と鳴いてぱたぱたと羽を動かした。
「アスラン……元気かなあ」
アスランもまた、内乱が続いている地域に出向いている最中だった。今は、プラントのどこかにいるという事だけ聞いている。
ラクスもカガリもキラとアスランが、危ない地域へ行く事には反対を示す。だけれども、彼女たちだけに、戦争の後始末をさせることは出来なかった。そのため、おもにプラントにはアスランが、オーブにはキラが赴くことが多い。一日でも早く、平和になることを望んでいる。
今回のことは、アスランには黙っていてもらうようにラクスには伝えた。余計は心配をさせたくなかったから。一時的なことゆえに、アスランが帰ってくる頃には見えるようになっているだろうと思ったからだった。
「……一時的、ね」
ころんと寝返りを打つと、トリィはパタパタと飛んでいく。ぎしとスプリングが揺れて、その拍子に枕元のぬいぐるみがベッドから落ちた。
「あっ…」
思わず声が出る。腕を伸ばして床を探る。だけれども、なかなか見つけることが出来ない。ベッドから降りようとして手を付くが、そこには何もなくてガクンと身体が落ちる。何とか踏ん張って落ちることはなかったが、背中が冷やりとした。
「あ、ぶなかった……」
手探りで周りを確かめて、ベッドから降りる。這うようにあたりを探す。ガンと頭をぶつけた。ベッドサイドのテーブルにぶつけたらしい。ぱたぱたと探して、ようやくふわふわとした感触に当たる。
「あった……」
「何が、あっただ」
ひょいとぬいぐるみが奪われる。少し低めの声と、人の気配にキラはそちらを向いた。
「あ、すらん?」
手を伸ばすと、ぴたりと温かいものに触れる。サラサラとしてて少しクセのある髪が指に当たった。
「まったく、大人しくしていろとカガリに言われなかったのか?」
脇のところに手を入れられて、まるで小さな子供みたいに抱き上げられる。そのままベッドに座らせられて、膝の上にぬいぐるみを置かれた。
「な、んで、キミがここにいるのさ」
「ラクスから聞いたんだよ」
「……黙っててって、言ったのに」
ぼそりと呟いた声はしっかりと聞こえていたらしい。アスランはキラの頭をこつんと叩く。パタパタと天井を飛んでいたトリィがキラの肩に止まる。
「キラ、何か欲しいものは?」
アスランの手がキラの頬に触れた。包帯越しに体温が感じられる。髪に触れられる感触と、彼の匂いに自然と力が抜けた。
「……もう、ない」
「そう」
アスランの肩に身体を預ける。膝の上に乗っていたぬいぐるみがこてんと倒れた。
「もし、このまま見えなくなったら、どうしよう」
「…キラ?」
「そしたら、キミの綺麗な目も、髪も見えなくなっちゃうね」
アスランは、とんとキラの肩を押した。ぱたんと仰向けに倒れると、すぐ傍にアスランの気配を感じる。ぎしりと顔のすぐ傍で音がした。
「もし、そうなったら。キラの目の代わりぐらいなってやるよ」
包帯に何かが触れる。顔が熱くなるのが分かった。
「キザッ!! アスランのたらしー」
「なっ!? 人がせっかく励ましてやってるのに、おまえは」
離れようとする腕を捕まえて起き上がる。そのまま腕に抱きついたままでいると、アスランはぐりぐりとキラの頭を撫でた。
「すぐに見えるようになるよ」
「……うん」
「ラクスから、しばらく休みを貰ったんだ。どこか出かけようか」
キラは小さく頷いた。
気を張っていたのも、強がっていたのも、結局は全部ばれていた。
治ったら、カガリとラクスに何か返さなくてはいけない。
「ねえ、アスラン。外に出たい」
「分かった」
アスランの腕につかまったまま、バルコニーに出た。ふわりと風が吹いて、潮の香りが微かにする。鳥の声と、風に揺れる葉の音がした。
手すりを見つけて、キラはそこにつかまって、身を乗り出した。
「落ちるなよ」
「……落ちないよ」
片方の手を伸ばして、アスランの服を掴んだ。
「落ちそうになったら、掴むから」
「俺を巻き添えるなよ」
包帯を解いて目を開けた。やっぱり、ぼんやりとしか認識することは出来ない。だけれども、なんとなくなら人影を写すことは出来た。
「コラ、むやみに取るな」
包帯を引っ手繰られて、アスランはくるくると器用に包帯を巻いた。アスランは巻き終えると、キラの手を引く。
「ほら、身体が冷えるから戻るぞ」
「はーい」
もう少しだけなら、見えないままでもいいかもしれない。
密かにそう思ったのは、誰にも内緒にしよう。
End
やっぱり、設定生かしきれずorz
夜中にふと思い浮かんだ設定だったんですけどねー。妄想の中ではえらい萌えられたんですけど……
ラクスがアスランを危険なとこに行かせたくないのは、キラが心配するからです!!
みんな、キラ至上主義なんだ!! と主張してみる←←
タイトル……やっぱりつけるの苦手だコノヤロー