book2

□穏やかな日に
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満開の桜。
ピンクの花弁が、ひらひらと舞っている。
そんな最高のロケーションの中、はぁとシンは一人深いため息を付いた。





*ある晴れた日に





ことの発端は、キラがひょっこりとプラントにやって来たことだった。
なんでも、わが国の最高評議会議長であるピンクの悪m……女帝様のお呼び出しらしい。今までの戦争が嘘だったかのように、トップが替わったことによってプラントとオーブの間は、それはそれは良いものとなった。だからこそ、こうして気軽に行き来できるようになったのである。それは、ひとえにこの目の前でにこりと笑っている人物の働きがあってこそなのだろう。
だがしかし、シンには納得できない事もある。


「どうして、わざわざ休みの俺まで呼び出されなきゃならないんだ!?」

「え、なんで?」

はいと、手渡されたコップを律儀に受け取ってしまったて、シンはがくりと肩を落とした。この目の前で繰り広げられているドンちゃん騒ぎは、夜勤明けにはキツイものがある。仮眠もしっかりとってあるので、寝不足ではないにしろやっと出来た休みをむざむざ潰されては、貯まったものじゃない。


「あのですねぇ、俺は疲れてるんですよ……花見だったら、俺がいなくてもいいでしょうが」


そう、春爛漫のこの時期。桜も良い感じに満開を迎えていることは、認めよう。だけれども、国のトップや要人がこんなにもそろいに揃ったお花見兼宴会なんて、どう考えても場違いにも程があるのだ。シンは、ずらりと並ぶ顔ぶれを見て引きつるしかなかった。
ラクスによって集められたのは、この平和の立役者たちばかり。


「えー僕はみんなでお花見したかったのにぃ」

「……まあ、別にキラさんが言うならいいですけど」

「こら、キラ。シンを困らせるな」


さも当然のように、キラのとなりに陣取っているアスランはぷくりと頬を膨らませているキラに花見団子を食べさせている。キラもまた、当然のように横から現れたお団子をぱくりと何の疑いもなく食べた。じろりとこちらを睨んでいるアスランは、どう考えても「邪魔だからどっか行け」オーラを出している。
ちなみに、シンの目の前にはもう一人の根源であるラクスがいた。


「まあ、キラなんて可愛らしい……デコが邪魔ですが」

「あ、ラクスもお団子食べる?」

「あら、頂きますわ(キラを食べてしまいたい……うふ、うふふふふふ)」


笑顔でかわされているはずの会話に、なにやら幻聴のようなものまで聞こえ始める。やはり、疲れているのだろうかとシンはコップのジュースを飲んだ。程よい甘さが、なんとなく気持ちを落ち着かせてくれた気がした。


「はい、キラにはこちらですわ」

「ちょ、ラクス!? キラを餌付けするのはやめてください!!」

「相変わらず、器のみみっちい男ですわね貴方は」

「じゃあ、堂々とキラに何か盛ろうとしないで下さい!!」
「チッ……なんのことですの。私にはまったく分かりませんわ」


「……やっぱ、帰りたい」


国を動かしているはずの、しかも一般的には崇拝するものまでいるともいうはずの人物が、よもやこんな性格をしていたとは。崩れかけていたシンの中の英雄像がことごとく破壊されていく。
少しはなれたところでは、イザークとディアッカが飲んでいる。しかし、何故だかディアッカがボコボコにされているのが目に入ってしまい、さっと視線を逸らした。


「ごめんね、シン」


いきなり現れたキラのドアップの顔に、シンはバクバクと早くなった心臓を押さえる。
どうやら、言い合いを始めてしまったラクスとアスランの間をすり抜けきたらしい。


「……キラさんが謝る事じゃないですよ。半分は、あの人たちの所為です」

「あはは、まあそうだね」


隣に腰を下ろしたキラは、シンが飲んでいたコップに口付けた。あっと、声を掛ける間もなく、キラは残りを飲み干す。


「それ、俺のなんですけど」

「いいじゃん、べつに」


「いや、俺が気にします」とは口に出せず、シンは空になったコップにジュースを継ぎ足した。
はらはらと桜の花弁が落ちてくる。最近は、デスクワークばかりで、久しく昼間に外に出ていない。桜が満開になったことすら、実は今日始めてシンは知った。
落ちてきたピンクの花弁が、栗色の髪と肩の上に乗っている。男にしては華奢すぎるで、二つ上にしてはその顔はお世辞にも大人だとは言えない。むしろ、いまだ女性に間違えられるほどの可愛らしい容姿をしている。あの戦場で、最強のパイロットと恐れられていたとは、想像もできない。
栗色の髪に乗っていた花弁を取ると、「ありがとう」とキラは微笑んだ。


「元気そうでよかった」


ぽそりとキラは呟く。その言葉が誰に向けられたのかは、言わなくてもシンには分かる。
キラは手に取ったコップの中身をごくりと飲んだ。


「桜、綺麗ですね」

「うん……そう、だ―――」

「わ、ちょっと、キラさん!?」


肩にかかった温かい重みに、シンは驚く。少し赤らんだ顔のキラが自分の肩に寄りかかってきたからだった。伏せられた長い睫毛と、薄く開いた唇から漏れる寝息。どうやら寝てしまっただけのようだった。


「まあ、ぐっすりですわ」

「最近、疲れてたらしいからな」


いつの間にやら、激しい口論を終えたらしい二人がキラの顔を覗き込む。てっきり、こんなところを見られたら、ぶっ叩かれるかねちねちと何か言われるかと思っていたのだが、少し拍子抜けする。
ぱしゃりと聞こえたシャッター音に、「あ、やっぱりラクス様だ」と思わずにはいられなかった。


「カガリさんに休みを頂いて正解でしたわね」

「まあ、今回は貴女方に感謝しますよ」

「同然ですわ。私達は何よりキラが可愛いのですもの」


キラを眺める二人の眼差しは、とても穏やかなものだった。
アスランはキラの肩の上に乗った花弁を手に取る。すると、寝返りをするようにキラはアスランの方へ倒れた。くすりと笑ったアスランは、キラを膝の上に寝かせる。
その一連の行動はとても自然で、どうしてなのか絵になっている。


「まあ、キラったら。膝枕なら私のほうに来てくださればいいのに」

「貴女に、キラは渡しませんよ」


アスランはキラの頭を撫でていた。
安心しきったキラの顔と、上官の顔を一切はがしたアスランとラクス。
平和じゃなければ見るとこが出来ないこの光景を、もしかしたらキラは作ってくれたのかもしれない。明日には、カガリもこちらに来るらしい。

まあ、たまにはこんな時間も悪くないのかもしれないと、シンは思った。



「……ところで、さっきの写真譲ってください」

「黙れ、このヘタレ」


「やっぱ、帰ろうっかな……」




End


アスキラですけど、密かなシンキラも好きです!!
アスキラに巻き込まれることで、シンの平穏は崩れ去る運命なのです……

ディアイザも好きなんですけどねぇ……ただ、いまいちキャラが掴めていないι







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