book2

□囚われの宝石
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※キラが王子な、よく分からないパロ。





あの日。

あの時から、キミは僕にとってただ一人の主となった。




*囚われた宝石






温かい人々と、美しい街並み。

この国の王の子として生まれたキラ。
決して豊かではなかったけれど、美しいこの国が好きだった。
小さな国だったけれど、みんな幸せだった。

ぼんやりと荒廃したかつての故郷を、アメジストの瞳は見ていた。
人影はない。
朽ちた家屋と、枯れてしまった庭の草花。美しかったこの場所は、見る影も亡くなってしまった。
争いが一瞬にしてすべてを奪い去っていった。


人も、街も、国も、何もかもを失った。



「どうして、僕だけ生き残ったの?」


泣かないと決めていたのに、涙が勝手に零れ落ちる。
仲の良かった友人も、両親も、すべて奪われた。
崩れ落ちるように膝を付くと、さわさわと風がそよぐ。ここに吹く風だけが、唯一変わらない。
砂埃が舞う。風の合間をぬって、じゃりと踏みしめる足音が聞こえた。


「どうして……どうして、助けたんだ!!」


アメジストの目が、振り返る。鋭くなった瞳には、止まらなかった涙が流れていた。


この国の繁栄を支えた一族が持つ、その宝石のように美しい瞳。その神秘の紫は、一瞬にして一人の男によって滅ぼされてしまった。


「どうして……ひとり、だけ」


ダンと、華奢な腕を地面に振り下ろす。握り締めた砂を、その男に向かって投げつけた。
優しかった父と母はもういない。
この男にすべて、奪われた。
友達だと思っていたのに。


「信じてたのに……!?」







川辺で倒れていたところを、助けたのが出会いだった。
目の色も髪の色も、違うけれど、すぐに仲良くなった。

他国とのかかわりがほぼなかったこの国の、
珍しい異国の友達。

記憶をすべて失っていた彼を招きいれたのはキラだった。
異端の色は、国を滅亡させると古い家臣たちは騒いだけれど、キラは信じなかった。
彼の持っている、翡翠のような瞳。寂しそうなその色に、惹かれたからかもしれない。


「なのに……どうして、アスラン!?」


翡翠の瞳に問うた。血に染まった服を身につけ、手には剣が握られている。鈍く輝く剣から、ぽたり、ぽたりと緋色の雫が垂れていた。

よくつまみ食いして、一緒に怒られた料理長のおじさんや、勉強を教えてくれた先生も、その手が殺した。

緋色に染まった手が迫る。キラは、隠していた短刀を構えた。手が震える。白い喉元に鋭い剣先を向けると、ぱんとその手が払われた。そのまま腕を囚われると、翡翠と視線が重なる。

歪んだ口元に、ぞくりと背中に寒くなった。
彼は、こんな風に笑っただろうか。いつもの優しい笑顔ではない。それでいて、子供が見せる独占欲のような無邪気さもある。


「………た」

「え?」


投げ捨て去れた剣が、からんと乾いた音を経てた。アスランの手が、小さめの顎を捕らえた。いとおしそうに頬に当てられた手は、よく知っているその手と同じ。


「俺の、アメジストだ……」

「あ……す、らん?」

「これで、キラは俺だけのもの」


強引に重ねられた唇。するりと進入した彼の舌に、すべてを犯される。
暴れようとした腕はその手に捕らえられ、逃げ出すことは出来ない。


「愛おしい、キラ」


歪んだ唇が紡ぐ。
すべてを奪い去ったその手で、ボロボロになった服が剥ぎ取られる。


「俺だけの、キラ」


壊れたかつての王宮で。
ここは、共に過ごした僕の部屋。
よく寝坊をしては、キミに起こしてもらっていたね。


いつも優しいけれど、怒ると怖い爺や。
温かい匂いをいつもさせていた婆や。
厳しい顔をすることもあったけど、それは国を思ってのこと。家臣や国民から慕われていた自慢の両親。


「あっ、ああ……や、だっ―――!?」



どうして、みんな、赤くなっているの?


どうして、みんな、顔がないの?




どうして、みんなこっちを見ているの?



「やぁああああああ!!」


暴かれた身体が悲鳴をあげる。
縛られていなかった足をばたつかせる。絡み付いていた手がそれを封じる。


「キラが悪いんだよ?」

「やだっ、やだぁ……ひぃ、あぁっ…」


優しい声で囁く声。
その声は、いつもと変わらない。その変わらない声が、残酷な言葉を紡ぐ。


「だって、キラが俺を見つけたんだから。だから、キラがこいつらを殺したんだ」


顎が捕らえられ、首の並んだその場所に向けられた。
閉じられる事のない瞳が、キラを見る。濁ったアメジストの瞳。


「あっ、あ、あぁッ!!」

「ほら、よーく見て。キラのここがこんな風になってるところ。みんなが見てるんだよ」

「やっ、やめッ!! 見なっ、い……やだぁああああ!!!」


弾け飛んだ白濁が、緋色を汚す。
カタカタと震え出した、キラの瞳には再び涙が溢れていた。


「どうしたの、キラ。さむい?」


アメジストから流れる涙は、それすらも美しい。
アスランは、その涙を舌で掬った。どの甘露より甘く感じる。
華奢な身体の震えが止まった。薄く汚れたシーツを掴む手が強くなる。


「一人ぼっちのキラ。かわいそうなキラ」


乱れた栗色の髪を整えるように、アスランの手が撫でた。
少し大きめの手で、すべてを奪ったその手で。
だけど、その手は温かくて優しいと、そう勘違いしてしまう。


「だから、俺が助けてあげる」


優しく呟いた唇が重なった。
さっきとは違う、優しい口付けだった。


「キラ……俺だけを写して、そのアメジストの瞳で」



アメジストと翡翠。

瞳に囚われたのはどちらなのか。







END



4月10日は主従の日らしいので、そんなパロを書いてみよう。
と思ったのですが……何がどうなって、こうなったのか、なんだかおかしなことになりました←←
歪んだアスラン…これって、ヤンデレなんでしょうかね?
結局アスランが何者だったのか、よく分からないが、私も分かりません←

い、一応……王子キラと、従者(?)アスランが下克上!!






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