book2

□ミルクティー
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「おい、キラ。何をぼーっとしているんだ?」





*ミルクティー





目の前でひらひらと手を振ったカガリに、キラはハッとした。
ごめん、ごめんと笑って、手元の作業に戻る。時計の針はもう少しで12時を回るところだった。
カガリの机の上には、相変わらず終わらない山のような書類の山がそびえていた。
ぎりぎりになってからしか仕事をしようとしない。これは、カガリとキラに共通する悪い癖。変なところで似ているなあと、半ば他人事のように考える。
手伝うよと言ったのは、キラのほうだけれども、これは流石にうんざりとしてきた。いくらキラでも、これだけの量は溜め込んだ事はない……ハズだ。


「しっかし、終わらないなぁ」

「カガリが悪いんでしょ」

「アハハー。悪い、悪い」


まったく悪いとは思っていないその言い方に、キラはため息を付く。これでも一応、国家元首なのだから、この国は本当に大丈夫なのだろうかと思わざるを得ない。
それでも、世界が平和なのはカガリとそして親友のお陰なのだろう。


「なあ、キラ。そろそろさぁ――「ダメ!!」

「ちょ、まだ何も言ってないだろ!?」

「言わなくても分かります。ダメ!!」


むすっと、見るからにカガリは脹れっ面になる。ダン、ダン、と、書類に印を押すには、強すぎる音がする。いくつかには穴が開いているかもしれない。
まあ、押してあるからいいかと、キラは半ばヤケになってくる。


「キラ……最近、アイツに似てきたぞ」

「え、そう!?」

「キラも、将来ハゲるのかー」

「えーそれは嫌だ!!」

「いやいやー大丈夫だ。ハゲてもキラはキラだから……」

「ちょっと、僕ハゲるの決定!?」


アハハハーと笑いながら、カガリは印を押していく。なんだか、音が軽やかになっている。タン、タン、タターン……え、ちょっと、二回押してないだろうね。


「ハゲても……プッ、私の可愛い弟だ」

「笑ったぁ!? やだよ、ハゲキャラはアスランで十分!!」

「大丈夫だ、ハゲたら秘薬でも探し出して生やしてやるから……」

「カガリ……」


ひしっと、抱き合ったところで、給湯室にいっていたアスランが帰ってきた。ピクピクと米神が動いていている気がする。ぎゅうと抱きついたままの双子は、アハハハとよく似た顔でアスランを見た。


「やあ、アスラン。相変わらずデコ……」

「シッ、ダメだよカガリ。デコのことは言っちゃ!!」

「おまえら……」


ピキピキと青筋が浮かんだアスランのデ……額。さすがにこれ以上はやばいかなぁとキラは、カガリからはなれてアスランの顔を覗き込んだ。キラキラとした紫色の目が、アスランと手元の差し入れを見る。


「わーい。チョコだぁ!!」

「こらキラ……俺は騙されないぞ」

「えー、何のことか僕分かんない」

「私も分かんなーい」

「こんの双子は……」


はあとため息を付いたアスランは、キラの手にチョコと紅茶の乗ったトレーを手渡した。ふわりと紅茶の甘い香りが漂う。透明なポットに入った茶葉が、ふわふわと浮いていた。


「で、あとどのぐらいで終わりそうなんだ?」

「んー…あと、少しかな?」

「キラのお陰で随分とはかどった」


茶葉がすべて下に沈んだところで、アスランは温めていたカップに紅茶を注いだ。透き通った琥珀色が、するするとカップに収まる。ソサーに、ティーカップと角砂糖を乗せた。キラには二つ、カガリには一つとミルクを添えて。


「そうか、頑張ったなキラ」

「ちょ、お前明らかに贔屓だな」

「当たり前だ。元はお前が仕事を溜めるのが悪い」


アスランは二人の前にティーカップを置いた。ゆらゆらと湯気が立つ。
濃い琥珀色の紅茶は、キラの色に似ている気がした。
カガリは角砂糖を一つ、その中に落とした。サラサラと溶けていった砂糖は、モヤモヤと紅茶の中に筋を作る。ティースプーンで掻き混ぜると、そのモヤモヤは消えてしまう。


「おまえ、猫舌なんだから火傷するなよ」

「大丈じょっ!? ……やっぱり熱い」

「だから、言っただろうが。ったくお前は」


カガリは、頬杖を付いてキラたちを見る。
すべてを押し殺して、自分さえ犠牲になればそれでいいと思っていた。
そんなカガリを掬ってくれたのは、キラたちだった。自分こそ押し殺しているんじゃないかと、カガリは言いたかった。だけど、言えなかった。本当に、へんなところだけ似てしまったなと、なんだか可笑しい。
あの時のキラは、何もかも諦めたような、無理やり大人になっていしまったかのようだった。だけど、本来のキラは今目の前にいる。
あれから長いようで短いような時間が過ぎて、その所為もあったけれど、多分アスランが傍にいるからだろう。

カガリは紅茶の中に、ミルクを入れた。白い筋が琥珀色にくるくると縁を描いて混ざり合う。カガリはゆらゆらと水面を揺らした。
ちょうど自分の髪の色と同じようなその色合い。

ミルクティーとストレートティーでは、ストレートティーの方が甘い。
コレがきっと、お互いの差なのだ。


「あーあ。私も早く、いい人見つけよ」

「え、カガリ?」


アスランの隣に座っているキラを、後ろから抱きしめた。「ちょ、胸当たってる!」と顔の赤いキラを無視して、カガリは手を伸ばしてアスランの前にあったチョコを取る。
甘い物がキライなクセに、なぜかアスランはビターチョコを食べているのをよく見かけていた。キラの前にあったのは、キラの好きな甘いミルクチョコレート。


「おまえに見つかるのか?」

「おまえには言われたくない、このデコ!?」


いけしゃあしゃあと言うアスランに、カガリはがつんと拳をくれてやった。
残っている書類は、明日にはほぼ終わる。終わった事を奇跡だと、キサカは言うだろう。
時計の針はとっくに12時を回って、もう少しで2時になろうとしていた。


「おまえら、そろそろ休んでくれていいぞ」

「でも、あと少しで終わるよ?」

「明日の朝またやればいいさ。お前も疲れてるだろ?」


叩いた箇所を押さえながら、アスランは言った。目の下の隈を指摘されて、カガリは顔を背ける。一緒にキラの首まで回してしまい、「イタイ」とキラは抗議する。
サラサラの紅茶色の髪に、カガリは顎を乗せた。こりこりと口の中に入っていたチョコを噛み砕く。下からまた抗議の声が出た。見上げてきた紫色の目に、ぴたりとカガリは目隠しする。すると伸びてきた手が、ミルクティー色の髪を撫でた。


「カガリ。疲れたらちゃんと言うんだよ。カガリはもっと人に頼ってもいいんだから」

「キラぁ〜。ホント、お前は可愛いなぁ。どっかのデコとは大違い!!」

「悪かったな」


苦しがっているキラを開放して、カガリは伸びをした。
あちこち固まってしまった筋肉を動かすように、ぐりぐりと腕を回す。ついでに、傍にあった出来立ての書類を放り投げた。ばらばらと書類が散らばっていく。


「ちょ、おまっ」

「じゃ、それ片付けたら帰っていいぞー。じゃあなー」




“甘いかおり、苦い味”


本当は、どちらとも苦手で、だけど大好き。





End


戯れる双子が書きたかったんです。
相変わらずの、意味不……もうここでは通常ですね(キリッ←←
カガリは、やっぱりアスランのことは好きなんです。が、それ以上にキラと一緒にいる時のアスランが好きなんです。キラは無条件で、家族だし大好き。そんなカガリたん大好き!!

要するに双子好き!!
彼女には幸せになってもらいたいです。で、アスキラの良き理解者に……
で、最近まともな扱いを受けないアスランww






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