book3
□悔しいけれど
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「あの……俺、何かしたか?」
先ほどから感じる視線。アスランは、その主に向かって問いかけた。
*悔しいけれど
「いや、別に」
ふいと顔を逸らせたキラの頬は、ぷくりと膨れている。
何故だかご機嫌斜めのキラに、アスランはふと何かしただろうかと考えてみた。朝起きてから、今まで特に代わったことはなく、むしろ朝はニコニコと機嫌が良かったくらいだ。
オーブの白い軍服に身を包んだキラは、執務室でむくれたまま仕事をしている。
カタカタとキーボードを叩く速度はいつもと変わらないのだが、どこかいつもと違う。これは、付き合いの長いアスランだからこそ、気付いたことなのかもしれない。
執務室の立派な椅子に座るキラは、位をいえばカガリの次に匹敵する。つまりはこの国のナンバー2にあたるのだが、今のキラはどう見ても臍を曲げた子供にしか見えない。
「だったら、この顔はなんだ?」
むくれた頬をつんつんと突く。そっぽを向いていたキラがちらりとこちらを向いた。
「なんか……」
「なんか……なに、キラ?」
「ムカつく!!」
「はぁ――いっ!?」
言うなりキラは、アスランの両頬をみにょーんと伸ばす。
唐突すぎるキラの行動は、今にはじまったものじゃない。それこそ長い付き合いの中で、キラの行動はほかの人とはどこか違うことも分かってはいた。それでも、今なぜ自分の頬がこんなにも伸ばされているのか、アスランはまるで分からない。
「ぷっ、あははははは!!」
ぽかんとするしかないアスランに、キラは我慢できないと笑い始める。頬を引っ張られたまま笑い出すキラに、アスランは目を丸くする。それもキラのツボに入ったのか、余計にキラは爆笑し出した。
「…はは、だめっ、おなかぁ……いたッ、あは、あははは」
キラが手を離すと、引っ張られた頬はみごとに赤くなっていた。ひりひりとする頬を押さえると、キラは腹を抱えて笑い始める。
「あす、ら……っが、アカ、赤いー、あはっはははは」
「ちょ、キラ……笑いすぎだって」
「だって…か、お、顔がぁ…っ、あははははは」
泣くほど面白かったのか、キラは涙を流している。赤くなった頬がそれ程面白いのか、これ以上見られないとキラは机に突っ伏しながら笑い続ける。ひぃひぃと酸欠になりながら言うキラに、アスランはハイハイと投げやり気味に答えた。
しばらく笑い続けていたキラの声がぴたりとやむ。流石に疲れたのだろうか、肩が激しく上下している。
「おーいキラ、生きてるか?」
「な、なんとかぁ……」
机に突っ伏したまま、キラはだらんと腕を伸ばして手を振った。アスランはその手に、水の入ったボトルを握らせる。握られたボトルが、ずるずるとキラのほうに引き寄せられる。
キラはひんやりするボトルを目に当てて、アスランのほうを向いた。
「で、なにかあったのか?」
「……アスランはさあ、やっぱりモテるよね」
「俺が?」
「……自覚ないのがよけいに性質悪い」
子供のように口を尖らせる。キラはくるりと後ろを向くと、ボトルに口をつけた。ちゃぷんと水が音を立てる。椅子の上で足を抱えたキラは、やっぱりボトルで顔を隠す。
「アスランのこと狙ってる子が多いのに」
「はぁ?」
「キミは、顔・だ・け・は・めちゃくちゃいいことなんで自覚しないのさ!!」
「だけって……で、だからそれが何?」
「アスランのアホ、バカ、デコ!! ホント、顔だけのクセにィイイイ!!」
顔を隠したまま言い切ったキラは、はあと息をつく。ボトルを机に置くと、顔を膝に隠して右手を伸ばす。アスランの頬にピタリと手を当てると、熱を持ったそこをさすった。
「ごめん、痛かった?」
「いや、それ程は」
「そう」
冷たいボトルを持っていたキラの手は、ひんやりとしていて気持ちよかった。アスランは椅子の肘掛のところに腰掛ける。茶色い髪をぐりぐりと撫でて、キラにもたれかかった。
「重いんだけど」
「デコはないだろ?」
「気にするの、そこ?」
あははと笑うと、キラは顔を上げた。アスランは頬にあったキラの手を自分の口元へ持っていく。指先に軽く口付けると、ぼそりとキラは呟いた。その言葉は上手く聞き取る事が出来なくて、アスランは「なに?」と聞き返した。
「だから、キザっぽいって! そういうところがモテるって言うんだよっ!!」
「ふーん……まあ、誰にモテようが俺には関係ないけど」
じっと見つめると、キラの目元が赤くなる。茶色の前髪を掻き分けると、額に口付けた。
「……女の子たちが騒いでるの気付いてる?」
「まあ、多少?」
「キミが誰かと付き合ってるか、とか、好きなタイプは、とか……聞かれる僕の身にもなれ!!」
「はあ?」
紫水晶が再び隠れる。アスランの服に顔を押し付けたキラは、腕を伸ばして抱きついた。ぎゅうと抱きついたキラの姿が、幼い頃と重なる。
甘えたり、拗ねたりすると、キラはこうして顔を隠すように抱きづいてきた。アスランは栗色の髪を撫でる。昔と同じように。
「言えばいいじゃないか」
「なんて?」
「好きなタイプは、僕。アスランは、僕と付き合ってるって」
「…っ!? 言えるか、バカぁ」
「なんで?」
ぎゅうと腕の力が強くなる。
くるくると天井を飛んでいたトリィを呼ぶ。アスランが人差し指を差し出すと、トリィがとまった。首を傾げて、トリィと鳴く。メタリックグリーンの羽を広げて、トリィは持ち主の頭に飛び移る。どうやら、製作者よりもキラのほうがいいらしい。
キラを慰めるように、トリィはつんつんとキラの頭を突いた。
「……言えたら、こんな気持ちにならないよ」
「それはそれは……愛されてるな、俺」
「自意識過剰!!」
「でも、そうだろ?」
「……知らない!!」
悔しいけれど、やっぱり好き。
誰にも言えなくても……
誰かがキミの噂をしているたびに。
“嫉妬深いので、たいへんなことになります”
「じゃあ、俺が言ってやろうか?」
「……やめてよ、恥ずかしい」
でも、実は……このヒミツの関係に少し酔っている。
end
モテるアスランに嫉妬するキラたん。
アスランはモテることは自覚してるけれど、嫉妬するキラも可愛いなとか思ってたら良い。
最近、アスキラが足りません……
アスキラを、もっと、アスキラを……