book3

□瞳の色
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※突発パロ。
祓い屋アスランと使い魔キラの話





最近の朝の日課は、身体に絡まった重たい腕から這い出すことから始まる。
まるで、逃げ出すことを恐れているかのように絡みついたその腕は、きっとキミが僕に後ろめたい気持ちがあるからなのだろう。




*瞳の色




「お、もい……」


やっとのことで、腕を引き剥がしてキラはふうと息をついた。違うベッドで寝ているはずなのに、いつの間にかアスランのベッドに寝かされていてオマケに抱きしめられている。キラがアスランの使い魔になって以来、それは続いていた。
そんなことしなくても、アスランの支配下に収まった今、勝手に動き回る事は不可能なのに。
キラはやたら整った顔を見た。霊力の高い翡翠の瞳は、今はまだ瞼の奥に隠れてしまっている。その瞳を狙っている悪魔は多い。キラもまたその中の一人だった。翡翠の瞳を食らえば、高い力を得る事ができる。
ただの興味本位で戦いを挑んで、見事に負けてしまった。負けた先に待っているのは消滅しかない。キラもそれを覚悟していた。それなのに、この人間は悪魔を祓うどころか自分の使い魔としてキラを従属させたのだ。
きっと、ただの気まぐれだったのだろう。ちょうど、使い魔が欲しかったところかもしれない。
眠っているアスランは、本当にただの人間の子供に見える。外見的にはキラとそう対して変わらないのだが、悪魔と人間では基本的に時間の流れる速度が違う。見た目は同じくらいの年に見えても、キラは何百年と生きてきた。そう見れば、アスランなんてほんの赤ん坊に過ぎないのだ。


「うーん……確かによく見れば、まだ幼い……」

「だれが幼いって?」

「うわぁ!?」


まじまじと顔を見ていたキラは、突然その翡翠の瞳が開いたのに驚いた。透き通るその瞳の色は、本物の翡翠以上に綺麗に見える。キラは、バクバクと激しく鼓動を繰り返す心臓を押さえ込んで、さささっと後退った。


「な、おっ、起きてたの!?」

「そりゃ、キラみたいな大きな目がこっち見てれば嫌でも起きるさ」

「だったら、さっさと起きろよ!!」


ふわーと眠たそうに欠伸をしたアスランは、ちょいちょいと手招きする。キラはむすっと不機嫌そうに一歩だけ距離を縮めた。藍色の髪を適当に手で整えて、アスランはもう一度手招きする。胡散臭そうな笑みを浮べて。


「キラ、主は誰だっけ?」

「………」

「んー。よく聞こえないけどなぁ」


にこにこと笑う顔は、いっそ清々しいほど爽やかなのに、悪魔以上に恐ろしく見える。手の中でちらちらと見え隠れしているそれが余計に彼を悪魔以上に見せているのかもしれないが。


「あぁあああ!!! キミだろ、アスラン!! アスラン・ザラ!!?」

「うん。よく出来ました」


膝を折ってアスランの前に傅くと、アスランの手がキラの髪を撫でた。悪魔にはないあたたかい体温は、なぜかとても落ち着く。顔を上げると、さっきの黒い影が消えた笑みを浮べたアスランがいた。最近なぜだか、キラはこの顔に弱い。胸が締め付けられるような、痛いような感情に流されてしまう。


「ところでキラ。いつもの服はどうしたの?」

「え? あー、あれ……ね」


アスランはキラをやたらと飾り立てる節がある。悪魔であるキラの服装は、動きやすさを重視したものが多い。今キラが着ているのは、おへそが見えるか見えないかぐらいの黒い裾の短いノースリーブに、同じ素材で出来た短めのパンツ。そこからすらりと伸びた手足は無駄な肉が付いておらず、華奢で白い肌にその黒い衣装は良く合っている。近くにある鏡に自分の姿を写してみても、まあまあだとはキラは思っていた。が、アスランは違うらしい。


「ダメ、キラは露出しすぎ。そんなんで、外なんて連れて行けない」

「えーだって、あの格好暑いんだよ!!」


アスランが命じた服は、キラにとっては動き難くて仕方のないものばかり。やたらとフリルが付いたスカートや袖の長いシャツはばかり。


「てか、僕たちに性別はないけど、僕は女の子の格好は好きじゃない!!」

「どうして、可愛いから良いじゃない」


今日アスランが用意していたのは、フリルとリボンがふんだんに使われた膝丈のワンピース。色はシャーベッドのようなミントグリーンで、胸元と裾に付いたリボンは淡いピンクをしていた。おまけに頭につけるヘッドドレスまである。毎回どこで用意しているのだろうと、疑問に思っているのだがアスランは絶対に教えてくれない。


「可愛くない!! 可愛いっていうのは、カガリとかラクスみたいなことを言うんだよ!!」

「あーキラのお姉さんと友達だっけ?」

「そう、だからこんなの着ない!!」

「といっても、キラに拒否権なんてないんだけどね」


にこりと笑ってアスランが指を鳴らすと、パチンと目の前で何かがはじけてキラの服が一瞬で変わる。ミントグリーンのワンピースを着たキラは、どこからどう見ても女の子にしか見えなくなった。栗色の髪を飾る白いヘッドドレスも、キラにとても似合っている。


「うん。可愛いね」

「うぅ…もうやだ」

「ほら、キラが駄々捏ねてる間に時間がなくなったじゃないか。もう学校に行く時間だ」


そう言って、アスランは自分の支度に取り掛かる。いじけていたキラの首に、アスランは黒いチョーカーをつけた。これはキラの悪魔としての力を制御するもので、最初にかわした契約で外を出るときには人間として振舞う事を誓わされている。


「うー。これもいやだぁ」

「わがまま言わない。置いてくよ」

「それもヤダ」



普通の大学に通っているアスランがどうやったのかは知らないが、キラも一緒に大学に通うことになっている。人間の勉強に興味があるわけではないが、一人で部屋において行かれるのも退屈なので仕方ない。


「つまんない……」


とはいっても、大学の講義とやらはキラにはまったく理解できず、ぺたんと机に突っ伏した。隣のアスランは真面目にノートを取っているし、静かな教室では音を立てることも出来ない。仕方なく大人しくしているしかないのだが、気が付くとキラは居眠りをしていた。





to be continue...


 

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