book3

□傍らで眠る、暖かな存在
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*傍らで眠る、温かな存在




 まだ外は暗く、夜の帳に包まれている時間。
 ふ、と目が覚めて隣を見れば、あどけない顔をして眠っているキラが目に入る。

 少し前まではこの部屋で寝る時はアスラン1人だけだった。
 それが当たり前の事でなくなったのは、一時的ではあるがプラントで生活していたキラがオーブに帰国してからだ。
戦争が終結し、カガリがオーブをまとめ、ラクスが評議会の代表という形でプラントに渡り、オーブとプラントの間には停戦条約が締結された。キラとアスランはそれぞれオーブとプラントの間を文字通り行ったり来たりを繰り返す日々に追われていた。専ら、キラはプラントで、アスランはオーブで処理に追われることが多かったせいか、なかなか会えずにいたのがつい最近までのことだ。拡大した戦禍の爪痕は、今もまだ至る所に残っている。復興へ向けての手続きは、もどかしいと思いながらもいつの時代もなかなかスムーズに進んではいかない。各所の被害状況等の現状把握に始まり、支援物資の調達、各国への提出書類、そこへ割く人員の采配…。挙げればきりが無い程に残された膨大ともいえる事後処理に追われながらもそれを片付け、自身がプラントで出来る限りのことを済ませてキラよりも一足先にオーブに戻ってきた。後はプラント住まいのイザークやディアッカが引き継いで進めてくれるはずだ。
 自身に遅れること数ヶ月、そのキラもつい先日オーブに戻り、2人での生活がようやく落ち着いてきた。キラがオーブに戻ってきてからは、この寝室のダブルベッドで寝るようになった。2人で、互いの温もりを感じながら。

 振り返ってみれば、小さい頃もよくこうして一緒に寝ていた。
 だから、なのだろうか。自分の中に一緒に寝ることに対しての違和感というか、そういうものが無い。 こうして一緒に住み始めた時は多少戸惑いもしたが、今となってはこうしての状態で寝るのが普通で、日常的になっている。目を開ければ目の前にキラが居て、手を伸ばせばすぐに触れられる。そんな近い距離に自身が愛おしく思う相手が居る。
昔からキラはそうだったと記憶してはいるが、いざ思い返してみると、いつ頃から一緒に寝ることが始まったのか、どんな理由でこうなったのか…。そんな事を考えてしまう辺り、わりと昔の話のようだ。


 確か、まだ自分もキラも情勢が悪化して引っ越してしまう前、月に住んでいた頃だ。キラの家に預けられて過ごしていた頃だった。
 俺の場合は両親の仕事の関係上ひとりで夜を迎える事はよくあった。普段はキラの両親は家にいる事が多いが、その日は俺の両親とキラの両親が揃って出掛ける事になったため、子供2人を残して家を空けていた。
 食事が終わり後は寝るだけになった頃、キラが何を思ったのか、怖い話が嫌いなのに心霊番組(だった気がする)を見始めた。普段なら誰かがリビングに居て一緒に見ているけれど、両親は居なくて、その時俺はそろそろ寝る準備をしようと、キラの母親に用意してもらった部屋に居た。
 『怖い』と思ったその時点で止めればいいのに、何故かキラは見続けていて…。止めておいた方がよくないか、と聞いてはみても「続きが気になる」と見続けていた。案の定、1人で居るのが怖くなったらしく、半分泣きながら部屋に駆け込んできたんだっけ。



「…っ、アスラン、…」
「…どうかしたの、キラ…?」
「あっ…あのねっ! さっき、テレビ見ててねっ…それでね…それで……うー…」
「…大丈夫か?」
「…うぇぇ〜…やっぱこわいよぉ〜…」

 駆け込んできた時点でやっぱり、とは思ったが、キラをそのまま放っておくことも出来ず、落ち着かせるようにゆっくりと話し掛けた。忠告はしたのにだったら何で見たんだ、という当たり前のような突っ込みは辛うじて押さえた。

「キラがこわくなくなるまで、ここにいていいから。 もう泣き止みなって」
「うんっ……。…う〜…。  …あのね、アスラン…ここに、いても…い?」
「うん。いていいから。 大丈夫」
「い、一緒にいてねっ…! いなくなっちゃ、ヤだからねっ! ……いなくなっちゃやだよ…ッ」
「いるから…平気だって」
「……ぜったい?…ぜったい、いてくれる?」
「いるってば。 キラ、いつまで泣いてるんだよ。だから心霊番組見るのは止めとけって言ったのに」
「……だって…、アスラン……」

 身を乗り出して何度も念を押してくるキラに呆れながらも、それでも自分が頼られることが何故だか嬉しくて、守ってやらなければ、と感じた。今のキラにとって頼れるのは自分だけで、普段は、自分の方がお兄ちゃんなのに!と言うキラが、その時はどうしようもなく小さな存在に見えた。

「……………はぁ…仕方ない。…一緒に…寝る?」
「…うんッ!寝るっ!!  ……へへっ、アスラン、あったかぁい…。……おやすみぃ…」
「おやすみ…」



 そういえば、あのときもベッドに潜り込んで安心しきった顔で寝てたな…キラのヤツ。
 それまで泣いていたせいで、目尻に涙はあったけれど、その寝顔は至極安らかで幸せそうだった。ちょうど今みたいに。寂しくないように、怖くないようにと手を繋いで眠ったあの頃と変わらず、同じように幸せな寝顔で、俺の隣で眠っている。泣き虫で、甘ったれで、我が儘で、どうしようもない。けれど、そんなキラだからこそ可愛いと思う。

「…っん〜…アスラン……?」
「悪い…起こしたか?」
「…んーん……どうか、したの…?」

 眠いのか、少し舌たらずで甘えたような声に、思わず苦笑を漏らす。寝ぼけ眼で目を擦りながら見上げてくるキラの顔は、あの頃とあまり変わらない。戦争を経験して甘えたな部分は少し無くなり、変わりにどこか大人びた考えをするようになった。一方で、ラクスやカガリといった心を許した相手と一緒にいる時の、どことなくふわふわした雰囲気を持つキラとは、また違う。このキラを知っているのは、恐らく自分だけ。身体は成長していても、昔の面影が少なくなっていても、こういう所は昔のままだ、なんて思いながら苦笑した。実際、今でもキラは心霊番組とかお化け屋敷なんかは未だに駄目で、昔と同じように恐いもの見たさで最後まで見て、恐くなって眠れなくなる事がよくあるのがいい証拠だ。


「何でもない…。ちょっと、お前の寝顔見てたら昔の事思い出しただけだ」
「ん、昔の事…? なぁに…?」
「また後で…な。 まだ寝てな、まだ夜中だし」
「…ん」

 まだ、とろん、とした虚ろな目に軽く口づけて、眠りを促す。
 再び目を閉じたキラを抱きしめて、昔からキラに弱いな、なんて事をそのあどけない寝顔を見て思いながら、夢の誘いに導かれるままに、その身を委ねた――――。





あとがき。
 柚那ちゃん、ごめん。またも送りつけ。良かったら貰ってー。短くて&微妙な小説でごめんよ。
 …これってアスキラ? アスラン→キラのアスラン独白になってしまった。
 心霊番組を恐がるチビキラって可愛いよね!という話から膨れ上がって出来ました。チビキラは、恐い話気になって見たくなるけど、最後まで見て、やっぱ見なきゃ良かった!となるタイプだと思います!!で、チビアスランにだから言っただろ、と呆れられる。そんなアスキラが好きです。
大人キラほとんど出てこなくてごめんなさい。寝てるだけになっちゃった。
お題:rewrite






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