book3
□幸福論
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幸福な時間は続かないというけれど、
それはきっと努力次第なんじゃないかなと、キミは笑った。
自分の上げる嬌声と耳に入ってくる水音は、とてつもなく恥ずかしい。耳を塞ぎたくても、掴まれた手によってそれもままならない。
「も、やぁ……あっ!! んっ、ああ…っ!」
「キラの嘘つきっ!!」
「はっ、あぁ……あすぅ、ら……んッ!!」
なだれ込むように行為にはしって、身体を繋げる。苦しかったのは最初だけで、今は快楽だけが身体中を駆け巡っていた。空気を求めて口を開けば、アスランによって唇を塞がる。息苦しさも、一つのスパイスとなって身体が熱くなる。
呼ばれた名前に反応できずに、キラは繋いでいた手をぎゅっと握った。
「はぅ、はあっ、ああぁ……っ!」
「キラっ、時計、見える?」
「はぁ、ん……み、えっ…るぅ」
部屋に飾られた時計は、もうすぐ12時を回ろうとしていた。
日付が変わる。5月18日、キラと双子の姉カガリが生まれた日。この日は、キラにとっては忌むべき日であり、懺悔の日でもある。だけれども、アスランやまわりの人たちは、そうは言わなかった。「おめでとう」と心からの言葉と祝福をくれた。そうは言っても、心の中では素直に喜べない。
「キーラッ!!」
「は、あっ!! やめっ、やだぁ、あすっ、あぁああああ!!」
いきなり激しくなった動きについていけなくなって、身体が仰け反る。キラの奥深くをえぐってはギリギリまで抜かれて、また挿し込まれる。パンと弾けるように白濁が注ぎ込まれて、それを感じてキラ自身も弾けた。頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなる。
意地悪く微笑んだその顔に、仕返しがしたくて腕を伸ばすとその手が捕まった。突然引き寄せられて、アスランの上に乗りかかるように倒れ込む。よりいっそ深くなった繋がりに、内蔵が圧迫される。
「やぁ、くるしっ、あすらっ!!」
「キラ、好きだよ……愛してる」
耳元で囁かれて、抱きしめられる。繋がったままのそこは、限界まで開いてじんじんと痛む。視界が潤んで、時計もまわりの景色もぼやけていった。それが生理的な涙なのかはキラには分からなかった。おずおずとアスランの背中に腕を回してしがみ付く。
こうしていられる時間は、長いようでとても短い。
「キラ、生まれてきてくれてありがとう」
溜まった涙を拭われる。顔中にキスされて唇に重なった。どこかしょっぱいキスは、いつもより優しい。積極的に舌を絡めると、それに答えるようにアスランはその舌を絡め取った。飲みきれなくなった唾液が唇の端から零れ出す。とろりと意識まで溶けてしまいそうになるほど気持ちがいい。
「ほら、日付が変わってもう2分もたった」
「あ、ホントだ……」
「キラがこの日を嫌っても、俺にとっては大切な日だから」
アスランの手がキラの髪を撫でる。幼い頃もこうしてよく撫でてもらっていた。キラを慰める時、いつもこうして撫でてくれる手。キラはその手をそっと包み込んだ。
「ありがと、アスラン。本当に、みんな僕に優しすぎるんだよ」
「キラだからだよ」
するりとアスランの手が離れて、キラの頬に当てられる。大きくて温かくて、軍人なのに綺麗な手をしている。頬を撫でた手が顎を伝う。擽るように指がそこを撫でた。
「ちょ、くすぐったいよ」
「キラ、かわいい」
「う、うれしくないっ!!」
ふいと顔を逸らすと、耳たぶを噛まれる。ねっとりと耳の奥に舌が入り込んだ。くすぐったさに身を捩るが、アスランはやめようとしない。その奇妙な感覚に、ひたすら身を縮めた。
「ほら、赤くなってホント可愛い」
「あっ……バカじゃないの!!」
「バカで結構。キラバカなら自覚あるし」
「なんだよそれ」
くすくすと笑うと、つられるようにしてアスランも笑った。抱きついてアスランを押し倒すと、入りっぱなしだったことを忘れていたことに気が付く。
「ちょ、抜いてよ!」
「えー、なんならこのまま……」
「だめ、いやだ!」
「そんなに否定しなくても……」
名残惜しいというように、ずるりと抜ける。とろとろと零れ出てきた白濁が太ももを伝うと、ふるりと身体が反応した。じっと見られていることに気が付いて、慌てて足を閉じる。アスランを睨み付けると、咳払いが返ってきた。
「じゃあ、お風呂用意してくるよ」
「うん、ありがと」
ベッドの上に倒れ込んで身を丸めると、身体の中に残った白濁がまたとろりと出てきた。その感覚が恥ずかしくて、顔が赤くなる。それを拭い去るように頭を振ってシーツを手繰り寄せた。裸の肌にシーツの感触が気持ちいい。ほうと落ち着いて時計を見ると、もう随分と時間が経っていた。
「誕生日、かぁ……」
夜から開かれていたパーティーはとっくに終わっているだろう。朝起きたら、カガリとラクスに謝らなければいけない。伝言はしたが、勝手に抜け出して最後まで戻らなかったのだから。ラクスなら察してくれているかもしれないが、それはそれでなんだが気恥ずかしい。
「こういうの、幸せって言うのかな?」
誕生日に好きな人と過ごす。多分、恋人なら当たり前のことなのかもしれないが、改めて考えてみるととても贅沢な時間なのかもしれない。戦時中に多くの人の命を奪って、その奪った命の数は、こうした時間を送ることができなかった人の数なのだから。
しかも、その争いの火種をつくったのは紛れもなく、キラ自身に他ならない。
「キラ、準備でき……キラ?」
「ねぇ、アスラン。幸せって長く続かないって言うよね」
「まあ、そう言う奴もいるな」
「だったら、この幸せも続かないのかな」
続かないのではなく、続けてはいけない気がした。多くを奪った原因が、こんなにも幸せでは奪った命が報われない。
「続くも続かないも、自分達次第だろうな。続けたかったら、努力すればいい。ただそれだけのことだろ?」
「キミ、すごい前向きだね」
「まあ……キラが続けたくないって言っても、俺はありとあらゆる手段を使って続くようにするよ」
シーツをはがされて抱き起こされる。横抱きにされると、アスランは歩き出した。顔を覆っていた手をアスランの首に回す。振り落とされないように掴まって、首筋に顔を埋めた。
「なにそれ……そんなこと言われたら、どうしたら良いか分からないじゃないか」
「べつに、キラが何かする必要はないだろ? 俺が勝手にしてる事だよ」
「……なんか、すごい愛されてる?」
「なにを今更」
お湯を張った浴槽に落とされた。ぱしゃりと水しぶきが飛ぶ。
程よいその温かさは、今さっきすごいことを言ってのけたその人と同じ心地よさ。
その心地よさを知ってしまったら、続けずにはいられない。
end
珍しく、エロ終盤から入ってみました。キラ誕第3弾!!
一応、言葉に出来ないの続きっぽい感じです。にしても、珍しくアスランがよく喋ってくれたなあ……