book3

□泣き顔
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反射的に身体が動いたのだから仕方がない。
その姿がおまえとダブって見えた所為。





*泣き顔





ふと気が付くと、ベッドの上に寝かされていた。真っ先に目に入ってきたのは、真っ白い天井。身体を動かそうとすると、全身に鋭い痛みが走る。仕方なく目を動かすと、右の視線の端に栗色が見えた。


「キ…ラ……?」


ゆっくりと右手を伸ばして髪に触れる。さらさらとして触り心地のいい髪は、間違いなくキラのもの。それにほっと息をつく。
地方視察にいった先で、襲撃にあった。未だに現政権を認めていない集団の犯行。襲撃自体はたいしたものでもなく、反勢力も規模はかなり縮小している。たが、今回のテロ行為は街中で、一般市民も巻き込むものだった。もちろん、すぐに制圧にかかったのだが、ほんの少し気がそれたことを見透かされ、俺は銃弾をくらった。致命傷は避けたが、出血が多かったらしい。気力で何とかホテルに帰った後に、倒れたらしい。
頭の中で整理しながら、どうしてここにキラがいるのだろうかと考える。倒れたことは、連絡するなと部下には口止めしたはずだったのだが。


「……あいつ、喋りやがったな」


今回の視察に同行した奴らの顔を思い浮かべて、ため息をつく。完全に命令違反なのだが、これでは怒るに怒れない。傷を庇って身体を起こす。時計を見ると、丸一日以上寝ていたことになるらしい。キラにいらない心配をかけてしまった。
キラの髪を触ると、サラサラと前髪が流れる。綺麗なアメジストのような瞳は、目蓋に隠れて見えない。


「ん……っ!?」


微かに目蓋がうごいたのちに、ゆっくりとキラの目蓋が開いた。ぼんやりとした眠そうな目がこちらに向けられると、すぐにアメジストがまん丸と大きくなる。キラは弾かれたように身体を起こした。


「ちょ、アスラン!?」

「あ、やあ……っ、いッ!?」


情けない姿を誤魔化すように笑うと、勢いよくキラは抱きついてくる。そのままの勢いで、ベッドに倒れ込むと、ずきずきと傷口が傷んだ。首筋に抱きついたキラの頭をそっと撫でる。びくりとこっちにも伝わるほど、キラの身体が跳ねた。


「キラ?」

「バカ!! キミ、バカじゃないの!?」


抱きついていたキラが離れる。見下ろされる形で、キラは顔のすぐとなりに手を付く。ぽたりと涙が落ちていた。涙に潤んだアメジストがこちらを写す。思わずその涙に手を伸ばして、目元を拭った。しかし、涙ははらはらと溢れ続けて止められない。


「ごめん。もう、泣くな」

「だれの、せい……っだ!!」


顔に落ちた涙が、口元を辿ってシーツに落ちた。両手を伸ばしてキラを抱き寄せる。キラは堰を切ったように泣き出した。ごめん、と呟いて背中をあやす様に撫でる。もう、泣き顔は見たくないと思っていたのに。


「ごめん、ごめんな……キラ」

「ゆるっ、さ、なっ……あす…ら……っ!」


泣き顔のまま、キラは唇を重ねた。嗚咽の混じった呼吸が伝わる。涙の味のそのキスは、しょっぱくてズキンと胸が痛んだ。細い腰に腕を回して抱きしめる。身体に乗りかかった重みと温かさに、生きている実感が生まれる。もしもあの銃弾を交わし損ねていたら、今以上にキラを悲しませる事になる。
唇を離すと、キラの涙は止まっていた。涙のあとが伝った頬に唇を寄せる。その痕を辿るように舌を這わせた。


「キミが倒れたって聞いて、心臓が止まるかと思った。命に別状はないって、聞いたけど……確かめずには、いられなかった」

「キラ……」

「部屋に入ったら、青白い顔で寝てるし……呼んでも、目覚まさないし……」


再びキラの瞳が潤みだす。キラを抱き寄せて、目蓋の上にキスをした。それ以上言わせないように唇を塞ぐ。力を入れると微かに傷が痛んだが、それでも強く唇を押し当てる。歯列をなぞって、舌を絡ませると、喉の奥からくぐもった声が漏れる。
隙が生まれたのは、反勢力の中にキラと似た茶髪を見つけたから。瞳の色は紫に近い青。その瞳がこちらを向いたとき、引き金を引く姿がキラと重なって見えた。まったく似ていない顔だったけれど、フラッシュバックしたその姿に、一瞬手が止まってしまった。


「キラ、心配かけてすまない」

「もう、いい。キミが無事ならそれで」


少し怒った顔が笑う。
ふっと力を抜くと、とたんにまたずきずきと傷口が痛み出す。なんとかキラに悟られないようにしようとすると、ハッとキラはわき腹を見た。


「アスラン!?」

「いや、まあ大丈夫……」

「ちっ、血出てるっ!?」


じんわりと包帯から血がにじんでいる。薬が切れたからなのか、傷口が開いた所為なのか痛みが広がる。


「もしかして、僕の所為!?」

「い…いいから、医者呼んで」

「わ、分かった!!」


備え付けの電話を使うでもなく、キラは部屋を飛び足していく。思い立ったら一直線なその性格は、姉のカガリとそっくりだった。変なところで似なくてもいいのに。
痛む傷口を押さえて横になった。帰ったら、きっとカガリとそれにラクスにも嫌味たっぷりに小言を言われるだろう。二人の姫を思い浮かべるだけで、気分が重くなった。



“キラを泣かせたら、承知し(ませんわ)ない”



どこからともなく聞こえてきそうな声に、大きく息を吐いた。



「ホント、あんな顔……みたくない」






end


5月23日は、キスの日らしいです!!
それを意識したはずなんですが……あら、なんか違うものが出来ちゃった?まあ、キスしてるし良いか←←←
そんな話でございます。だから、私は天邪鬼なのですよ←









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