book3

□気まぐれ猫のその気持ち
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触れた箇所から熱は広がる。
少しだけ、嫌がる姿を見たかったのかもね。



*気まぐれ猫のその気持ち




夏の日の晴天は、それだけで気分が滅入る。コロニーの調節された気候ではなく、自然の原理ではどうする事もできない。いっそのこと赤道を越えて、反対側に逃げ込んでしまおうかとさえ思うほど。だがしかし、仕事に追われる身ではそれもまた不可能。
そもそも、幾ら夏が暑いとはいえ、空調のきいた部屋の中なら関係ないはずだった。悲しすぎる過去形の原因は、今アスランの目の前にいる。


「暑いーよー」

「……何を言うんだ、この根源め」


わざわざ人の部屋までやってきて、キラはだらりとソファの上で突っ伏している。
セキュリティ万全のはずオーブ政府の官邸で、ハッキングが趣味だと豪語する現オーブの最高権力者の実弟。その弟様は、いつもなら完璧に証拠を残さずハッキングに成功なさる。だが、どこをどう間違ったのか、何かの際にこの官邸の空調を管理するシステムを複雑且つ難解に書き換えてしまったらしい。
もちろん、すぐに気付いて書き換えを試みたらしいのだが、その結果が現在に至っている。ちなみに、カガリに大目玉を食らったらしいが、まったくもって自業自得だ。
アスランは流れ落ちる汗を拭って、左手で団扇の風を送る。温まった風を仰いでいるのだから、たいして涼しくはない。この暑さでは、パソコン等の機械類を使うこともできない。熱に弱い精密機械を何台も使っていては、その熱で機械がやられてしまう。その前に、部屋の中が大変なことになって人間の方が先に参ってしまうけれど。
幸いにも、どうやらあと少しでシステムは復旧するらしいので仕事には差し当たりはなさそうだった。


「あ、いいなぁアスラン。僕も仰いでよ」

「なんで俺が、いやだね」

「アスランのケチぃ!」


ぷくりと膨らんだ頬で、キラは足をばたつかせた。よくもまあ、無駄な体力を使うものだと、アスランは変なところで感心した。暑さには強くないと自覚しているアスランは、暑さによって奪われる体力を温存することに決めた。でないと、こちらが倒れてしまう。
暑い、暑い、と口にしながら、意外と平気そうな素振りを見せるキラを羨ましそうに見つめる。


「ん、なにアスラン?」

「いや、なんでも」

「あ、そう」


ごろんと寝返りを打って、キラは仰向けになる。わざわざ首をそらして天地が逆転するその視線に、アスランを映し出す。ぱたぱたと暑そうに団扇で扇ぐその姿。
元はといえば、その団扇はキラのものだったはず。ハズというのは、この事件の根源がキラだと知ったアスランの手によってブン取られたことによる。ちなみにアスランの手に渡って、最初の使われ方は、キラの頭を叩くことだった。
せっかくイザークからお土産で貰ったものなのに、その使い方はどうなのだろうか。だが、ことの発端がキラの所為なのだから、仕方がない。


「どうした、キラ?」

「それ、涼しい?」

「……あんまり」


ないよりはまし。アスランはそう口にした。もぞもぞとソファの上を動いて、アスランの膝のところまでやってくる。微かにあたる風は、たしかに熱風に近い。それでもないよりは、確かにましだった。


「……キラ、暑い」

「えーダメ?」

「……暑い」


すぐ傍でため息が聞こえる。ソファに座るアスランの膝の上に頭を乗せて、引っ付いてみただけなのに。腰の辺りに手を回してピタリとくっ付く。ちょうどお腹のあたりに顔を埋めて、ぐりぐりと押し付ける。ぱさり、ぱさりと頭に風を受けた。


「あ、涼しい」

「俺は、暑いんですけど」


叩かれているのか、扇いでくれているのかは分からない。ぴたりと密着したそこに熱がこもる。汗で首筋に髪が張り付く。確かにこのままでは暑い。
じんわりと汗をかいて、張り付いたシャツが、頬にも引っ付く。


「……じゃあ、退こうか?」


アスランからの返答はない。ころりと転がって仰向けになる。呆れた顔のアスランは、ぱたぱたと団扇で風を送っていた。汗をかいた額が冷やされる。


「好きにしたら?」

「……じゃあこのままがいい」

「あ、そうですか」


えへへと笑ったら、叩かれた。ふわりと風が心地いい。
ぴたりとくっ付くと、張り付いていた髪が払われる。
持て余しているキラの手に、自分の手を絡めた。
絡められたアスランの指に、悪戯するように逃げだす。


汗をかいたその箇所に、涼しい風が入り込んだ。



End

何をどうやったらシステム書き換える間違い犯すのかは、知りません。
クソ暑い中いちゃつくアスキラです。昨日、ザラってしまったので、糖度高めの話にしてみました。
キャラ苛めは好きですが、なんか可哀想になってきて次の話をド甘くしたくなるのです。
これって、私だけですかね?






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