book3

□青春まっさかり
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※にょたキラ。現代設定。




「ぐふふ。今日も、仲良いんだねぇあの二人」

「あー、そうだなー」


さくらんぼのような唇から零れたその言葉に、アスランは投げやりにそう答えた。




*青春まっさかりにつき





爽やかな朝。雲ひとつない青空。
そんな空の下に響くその声は、鈴の音がなるような綺麗な声だった。
アスランの隣にいるのは、学校でも評判の美少女がいる。サラサラの栗色の髪が風にたなびけば、ふわりといい香りが漂う。くるんとした大きめの目は、にこにことどこか楽しそうだった。足取り軽やかに歩を進めると、膝上にしたスカートがひらりと揺れる。黒いニーハイからちらりと覗く真っ白い太ももは、まさに絶対領域と言える。
男子生徒のみならず、女子生徒までもが振り返るその美貌の持ち主が、キラだった。
ちなみに、アスランも所謂イケメンと称される部類に入るらしく、美男美女カップルと通っている。


「ほら見てよ。シン君のことすっごく心配してる!! どうしたのかなぁ、昨日の夜何があったの!!?」

「あーそうだなー」


キラがキラキラと目を輝かせてみる方向には、一つ下の部活の後輩達がいた。黒い髪のほうがシンで、金髪の方がレイという。二人は幼馴染で、家も確か近所だったはず。眠そうに目を擦っているシンに、レイはシンのほうを見てため息を付いている。たったそれだけなのだが、彼女が持つフィルターに掛かれば、それはたちまち違うものへと書き換えられてしまうのだ。


「シン君。昨日は大変だったんだね……あんなことやこんなこと! 朝まで離してもらえずに登校だなんて、鬼畜だよレイ君!!」

「おまえの頭がな」


いつからこうなったのか、定かではないけれどキラはオタクだ。しかも、腐女子と呼ばれる存在らしい。男同士の恋愛を描いたマンガやら小説やらをこよなく愛している。ちなみに、最近のお気に入りは、可愛い後輩で妄想を繰り広げること。アスランにはさっぱり理解できない世界だった。


「酷いなぁ、アスランは、僕の妄想にケチつけるの!?」


可愛らしく口を尖らせるその姿は、文句なしに可愛い。それこそ、近くを歩いていた男子学生が思わず顔を赤らめるほどに。だがしかし、こんな恐ろしい事を妄想していたと知れたらどうなのだろうか。


「はいはい。ご自由に」

「うん! 可愛いよねぇ、シン君。ツンデレやんちゃ系なんて、萌え要素入りまくり。その上、レイ君は綺麗系で寡黙な少年……まさに王道まっしぐら!!」


キラキラと輝く紫色の瞳が、アスランにはとてもまがまがしく見えてならない。ほう、とうっとりとしたキラはため息を付いた。頬が少し紅葉して、薄く開いた唇から漏れるそのため息は、一体何人の男どもを虜にするのだろうか。はっきり言って、アスランにとっては気が気じゃない。しかも、キラは自分が人目を惹く容姿だということをまったく理解していない。そのため、用心という言葉がまったく通じないから、よけいに性質が悪い。


「キラ、ほら行くぞ」

「あ、うん!」


うっとりとキラを見つめる男子生徒の目を遮るように、アスランは手を差し出した。キラは恥ずかしがることなく、手を繋ぐ。幼い頃からの習慣とは、とても便利なものだ。
嬉しそうに手を繋いでアスランの隣に並ぶ。ぴたりと制服同士が触れ合うほど近いその距離。


「頬を赤く染めたシン君がいやいやしながらも、レイ君に身をゆだねて行く。ツンデレだから素直にならなくて、レイ君も言葉少なく攻め立てて……もしかしたら、鬼畜攻め!? やばいよ、やば過ぎるよー!!」


きゃあと可愛らしく声を上げているが、その内容は本当に酷い。
自ら生み出した妄想で興奮したキラは、バシバシとアスランの腕をたたく。それでも収まりきらないのか、その腕をがっしりと抱きしめて、ぶんぶんと振り回す。そして、がしっ抱きつかれてぐりぐりとキラは顔を押し付けていた。その間、アスランはずるずるとキラを引き摺るように足を進めた。キラの妄想に付き合っていたら、学校に遅れてしまう。
そう、キラがぴったりアスランに張り付いているのは、妄想が外に漏れた時に周りに悟られないようにするため。と、キラは豪語していた。
まわりには迷惑をかけない。曰く、それが真の腐女子らしい。


「おーい、段々声がでかくなってるぞ」

「おっと、危ない」


腕に抱きついていたキラが顔を上げる。にへへとアスランを見上げたキラは笑った。
無邪気すぎるその笑顔。ぐいぐいと押し付けられる胸。幼い頃から抱きついてくるのは変わらない。けれど、身体が成長した今、同じく程よく育ったキラの胸は凶器に等しい。
アスランだって男なのだという事が、キラには激しく欠けている。幼馴染の延長線ゆえ仕方がないのかもしれないが。


「ちくしょ、羨ましいぜアイツ」

「キラちゃんの胸ぇ!!」


聞こえてくるその声に、「この胸を堪能できるのは俺だけだ!!!」と無言の圧力をかけることを忘れない。幸いにも妄想に浸るキラには、外野の声はシャットアウトしている。


「キラ。歩き難いだろ」

「あ、ごめん、ごめん」


傍から見れば、羨ましい事この上ないカップルに見えるのだろう。
だがしかし、実際のところは―――



“妄想拡がり放題”




「ちょ、やばいよアスラン!? シン君がレイ君に甘えてるぅううう!!」


何故、キラが道を外す前に阻止できなかったのか、それが悔やまれてならないのだった。




End


腐女子キラに振り回されるアスランの図。
この設定思ったよりも気に入ったので、また書きたいかも。いろんな設定が、浮かんでは消え、浮かんでは消え……






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