book3

□不快度数
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このところの気温の上昇とともに、いらないものまで増加する。
苛立ちが募る。
だがこれは、断じて自分の所為じゃない。




*不快指数




車から降りたアスランは、うだるような暑さにくらりとする頭を押さえた。夏の季節に入ってからと言うもの、身体が地球の気温についていけなくなってきている。
ここがまだ砂漠地帯ならば、暑さにも対応できただろう。日陰にさえ入ってしまえば、やり過ごす事ができる。だが、熱帯に属するオーブの国ではそうは行かない。日に日に気温が高くなり、それと共に湿度も増していく。
キラとは違い、外回りも多いアスランにとっては地獄のような季節だった。外交、各地域の視察それらは、もちろん季節に関係ない。が、この時期ばかりは生まれ育ったプラントが恋しくなってくる。
人の手で管理されたコロニーには、季節はあってもそれ程差は感じられない。初めて地球の夏を体感した時は衝撃を受けたほどだ。


「……暑い」

「そうですか? 今日はまだ気温が高くないだけマシじゃないですかね」


部下にあたる男は、平然とそう言う。確かに彼の言うとおり、気温はさほど高くない。だけれども湿度が高すぎる為に、まるで蒸し器の中にでもいるような感覚に陥るのだ。
そういえば、とアスランはこの男の経歴を思い出す。確か、生粋のオーブ育ちだったはずだ。同じくオーブ育ちのカガリも、しれっと過ごしていたなと思い出す。


「まあ、建物の中に入るまでの辛抱ですよ」

「ああ、そうだな」


そう返事を返したことは、覚えている。だが、アスランの記憶はそこからぷっつりと途絶えてしまった。



 * * *




「――ラ……アス……」


誰かに揺り動かされる感覚に、ふっと意識が浮上する。さらりとしたシーツの肌触り。ぼんやりとする視界には、見慣れた天井がある。仄かに温かい右手に視線を向けると、心配そうにこちらを見つめるアメジストがあった。


「やっと、気が付いた」

「……キ、ラ?」

「もう、心配かけないでよ。暑さで倒れるなんてさ」


藍色の前髪をキラは、はらりと撫でる。額には濡れたタオルが当てられていた。少し緩くなったそれを、キラは取り替える。おきようとするアスランに、キラは制止の声を掛けた。
アスランは、少しくらりとする頭に疑問を抱きながらも、大人しく横になる。


「キミ。最近仕事しすぎで寝てなかったんでしょ? そんなんだから、倒れちゃうんだよ」


キラの言うとおり、ここ最近は締め切りの近い案件が多すぎて徹夜続きだった。下から回ってくる外交に関する書類は、最終的にすべてがアスランにたどり着く。そのアスランが、仕事を遅らすことは出来ない。いくら平和になったとはいえ、諸外国との信頼関係が問われてくる。それに加え、合間に入る各地域への視察。今回は、それらが運悪く重なった。何とかして、他の日程にと視察をずらそうとは努力したが、すでにびっしりと書き込まれたスケジュールに、上書きをすることは出来なかったのだ。


「キミ、無理しすぎ」

「すまない、心配かけた」

「……別に。僕はキミが器用に見えて、実はあんまり器用じゃないこと分かってるから言わなくてもいいけど……無理なときは、無理だって言わないと」


握られていた右手が去って行こうとするのを、アスランは引き止める。細い手首を捕まえて引き寄せると、キラは身体を捩った。不機嫌そうな瞳が、じろりとアスランを睨む。


「僕まだ仕事があるんだけど」

「それは、俺の所為?」

「うん。誰かさんがぶっ倒れたしわ寄せ」


キラの腹にまわしていた腕の力を緩める。だが、キラはベッドの上から立ち上がろうとはしない。シーツに付いた手を滑らせて、キラはアスランのほうを向きかえった。見上げた紫色の瞳は何かを堪えているようだった。


「うそ。もうとっくにそんなの終わってるよ。キミ、あれから1日たってること気付かないの?」

「……そんなに?」

「そうだよ、そんなに! どんだけ睡眠欲してんだよ、バカ!!」


振り上げられた手が、ぱしんとアスランの頬を叩く。じんわりと熱くなる左の頬に、その手は重なったまま。


「ごめん、叩いて」

「良いよ。だからさ、キラ……機嫌直して」


つんとその手を引っ張って、抱き寄せる。とんと腕に重みが掛かった。栗色の髪が首筋をくすぐる。起き上がったアスランは、今度はキラを見下ろした。


「……いや」

「じゃあ、どうしたら機嫌直してくれる?」

「知らないよ、そんなの」


するりと頬を撫でると、キラは視線をそらした。キラ、と声を掛けてもキラはそっぽを向いたまま。アスランは、キラの頬を撫でていた手を滑らせてふにふにと唇を押した。ちらりとキラと視線が重なって、すぐにぷいとそらされる。アスランはくすりと笑うと、キラの唇にキスをした。


「そんなんで直るか、アスランのあほ、デコ!!」

「デコって…・・・でも、やっと名前呼んでくれたけど?」


つんつんとアスランは、少し赤くなった唇を突く。薄く開いたそこに指を押し入れると、かぷりと噛み付かれた。


「いたっ!」

「まあ、これで許してあげるよ」


キラはにいと笑うと、アスランの首に抱きついた。


「アスラン。キミが倒れて多分、明日からまたしばらく寝られそうもないから、今のうちに寝といたら?」

「……ああ、そうする」


暑さにイラついていたのは、どうやらアスランだけではなかったようだ。



End


熱中症でぶっ倒れるアスラン。ヘタレ全開です。
キラは意外と暑さには平気そうですが、アスランは弱そうですよね。

皆様、熱中症には気をつけましょう。

そして、これは宜しければ相互して下さったムラさきさんへ奉げます。
返品可です。その際は、ぺいとゴミ箱にでも捨てて下さい。






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