book3

□奇跡じゃない普通の日
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クリスマスのこの時期は、毎年必ず雪が降る。
そう調節されている事は分かっているのだけれど、それでもなんだか心が騒ぎ出す。




*
奇跡じゃない普通の日




争いが終わって、平和になって、人々は思い思いの時間を過ごしているだろう。

ここ、プラントの政治の要であるラクスの邸宅で催されたパーティは、彼女の趣向を凝らした素晴らしいものだった。各国の要人たちも招かれての、あくまで一個人としてではなく公の人間としてのパーティだったのだが。
それでも、親友とはいえ中々会うことが出来ないカガリに会うことが出来て良かったと、ラクスは言っていた。

華やかなパーティから抜け出して、キラは一人でバルコニーから外を眺めていた。
華やか過ぎる場所は、やっぱりあまり馴染めない。


「探したぞ、キラ」

「あー仕事サボってる」

「おまえもだろ」


アスランもキラも今日は、ラクスに招待された身ではあるのだが、やはりラクスとカガリ双方の護衛も兼ねてのことだった。
とはいっても、事前にキラが組んだセキュリティーは万全で、下手な国家機密のセキュリティーよりも遙かにすごいもの。
万が一にもありはしないが、用心するにこしたことはない。


「雪、綺麗だね」

「まあ、そうだな」


クリスマスイブから二日間は、プラントは必ず雪が降る。
遙か昔の誰かの誕生日にちなんだイベントを、毎年必ず祝っているのだそうだ。


「寒くないか?」

「平気だよ」

「だからって、それじゃ風邪引くだろ? 上着ぐらい着ろ」


預けてあったコートを、アスランはわざわざ取りにいってくれていた。肩にコートが掛かると、ほっと身体が温まる。
部屋の中が暖かく、むしろ少し暑くなってきていたから外にいたのだけれど、少し外にいすぎたみたいだった。


「ありがと」

「にしても、寒いな」

「えー冬いいじゃない」

「俺は寒いのは苦手だ」

「アスラン暑いのも苦手だよね」

「……うるさい」


キラがクスクス笑うと、アスランはぷいとそっぽを向いた。
昔、小さい頃も、寒さが苦手だというアスランを無理やり引っ張って、外で走り回っていた事をキラは思いだす。

雪が積もって、はしゃいでいたキラは面白がってアスランに雪玉をぶつけ始める。
二、三度ほどはアスランも我慢していたみたいだったけど、良い加減にいやになって、アスランも雪玉を作り始めて反撃に出始めた。
服も髪も雪でびしゃびしゃになるまで雪合戦して、ふたりして母に怒られた。
風邪を引くから早くお風呂に入っちゃいなさい、と。
クリスマスは、家でいつもより豪華な料理とケーキがあって、それにもはしゃいでいつの間にか夜になる。
二人で一緒に眠って、朝になるとプレゼントが置いてあった。


「あ、そうだ。プレゼントちょうだい」

「おまえな……ムードも何もないな」


アスランは呆れたように笑う。
平凡なパーティだったけれど、今日よりもずっと楽しかった。
温かい料理と甘いケーキ、そして何より大好きな人たちだけのパーティだった。


「……わかったよ。はい」

「……え、なに?」


差し出した手の上に、アスランは手を重ねてきた。
まったく意味が分からない。
きょとんとアスランを見ると、何だか少し頬が赤い。


「やっ、だからプレゼント、俺」

「……」

「……無言は止めろ」


完全に顔を赤くしたアスランは、わざとらしく咳払いする。
別に、キラは意地悪で黙っていた訳じゃない。だが、アスランはキラが呆れているのと受け取ったらしい。引っ込めようとする手を、キラは捕まえた。


「キザだー。アスランキザ過ぎるー」

「すまん、俺もそう思う」

「だけど、やっぱそれで良いや」


キラはアスランの手を更に引っ張った。
ここが部屋の中と防犯カメラの死角になっているのは分かっている。わざとこの一ヶ所だけ、そう設定したのはキラだった。
思いっきりアスランに抱きつくと、冷えていた身体がぽっと温まる。


「キラ……」

「僕ばっかに言うけど。アスランも風邪引くよ」

「俺は鍛えてるたら風邪引かないの」


アスランの腕が背中に回ると、更に温かくなった。
もう、昔のようには過ごせないのは分かっているけれど、大切な人が傍にいるだけで十分だった。


「メリークリスマス、アスラン」


油断しているアスランの口唇にキスをする。
驚いたアスランの目は、それでも嬉しそうだった。
こっそりと、キラはアスランのコートのポケットにプレゼントを仕込んだ。多分、アスランにはバレバレだったけれど、それはそれで良いのだ。


「メリークリスマス、キラ」


お互いに同じようなプレゼント交換もう終わった。
アスランにコートを着せてもらったときに、右側だけが少し重かったのはキラも気付いていた。はみ出した赤いリボンも。


「アスラン」


キスを強請ってつんと口唇を尖らせると、ふわりと口唇が重なった。
こういう日ぐらい積極的になって、少しは普通の恋人同士のクリスマスを過ごそう。


ちらちらと降る雪と、大切な恋人と。
奇跡じゃなくて、普通のありふれたクリスマスが良い。



End


クリスマスになんとか間に合いました!!
ツイッターのアスキラbotちゃんのいちゃつきっぷりに、居てもたっても居られなくなりそのノリのまま書きました。

皆様、メリークリスマス☆
そして、良いお年を〜




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