book3

□おもいで
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久々の共演。
最近は、現場が一緒になることが少なくなった。
それは、少し寂しいことだけど、仕事なのだから仕方がない。かわりに、一緒の現場が新鮮だと感じていた。




*おもいで




「うふ。ぬふふ」
「ほ、保志さんが最初からおかしい!!」
「ちょっと、ひどいよームラケン!?」


隣に、鈴村くんがいたことを忘れていた。
共演者なのだから当たり前なのだが、ついうっかり一人の世界に入っていた。
今は、石田さんがブースに入っている。
こちら側からは、後ろ姿しか見えないけれど、その姿はやはり格好いい。


「おーい保志さーん」
「あ、ごめん。何だった?」
「まったく聞いてなかったんやな・・・・・・」
「あははー」
「だから、なんで保志さんと石田さんってそんな仲良いんです?」
「あーそれは・・・・・・」


それは、声優としてやっと仕事が忙しくなってきた頃のこと。
この頃にはすでに、石田さんは売れっ子だった。
少し取っつきにくい人。同期の間ではそう言われていた。


「よ、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」


石田さんの第一印象は、やっぱり取っつきにくそうな人。
そして、黒い眼。すべて見透かすようなその目に、引き寄せられていた。
今までも、それなりに多くの先輩と現場で会ってはいるが、何故か今まで以上に緊張していた。
それはきっと、密かにあこがれていた存在だったから。
声の幅が似ていて、受けるオーディションすべてに石田さんの名前が挙がっていたからだ。
噂でしか聞いたことがなかった本人に、直接会うことができた。そんなことも思っていた。
そんなごちゃごちゃした感情のまま、本番に入った。

当然、台本はきちんと読み込んできたし、役作りもしてきた。
のだったが・・・・・・


「そこもう一回ね」
「はい、すみません」


何回やっても、監督からのOKが出ない。
言い方をかえてみたり、間を変えたりしてみても、どうしてもうまくいかなかった。
石田さんの役に、お礼を言うシーン。

「ありがとう・・・ございます」

それだけの言葉。
もうすでに、10回以上つき合わせてしまっている。この所為で、ほかの共演者やスタッフも進行が遅れてしまうだろう。
そう考えると、余計に演技できなくなってくる。
な、泣きそう・・・・・・
隣に立つ石田さんは、文句を言うことなくずっと台本を見て集中している。それが逆に怒っているみたいにも見えた。


「仕方ないから、このセリフは別撮りしよう」

ヘッドホン越しに聞こえた監督の言葉に、ふっと肩の力が抜ける。
別撮りならば、少なくとも共演者には迷惑をかけないですむ。
はい、と口を開こうとしたその時。


「すみません、少し休憩はさんでもう一回やりましょう」


石田さんの声だった。
声の主のほうを仰ぎ見ると、じっと石田さんがこちらを向いていた。思わず後ずさりそうになったところで、ヘッドホンを外される。

「ちょっと来て」
「え!? あ、あのっ!!」


有無をいわさずスタジオの外へ連れ出された。


「もっと肩の力抜いたら? キミ、力み過ぎなんだよ」

「・・・はい、すみません・・・・・・」


真っ黒い目が、まっすぐにこちらを向いている。にこりと微笑んだその顔に、自然と固まっていた身体が綻んでいく。
いつの何か握りしめていた台本が、手のひらの中で広がった。


「あ、ありがとうございます・・・」
「なんだ。言えるじゃない」
「・・・こんな感じで良いんすか?」
「うん。もう大丈夫だね」


そう言って、石田さんに頭を撫でられた。
もう一度、にこりと笑ったその顔に、多分僕は恋に落ちたのだ。


「・・・・・・ノロケですか!? ただのノロケだったのか!!」
「えームラケンが知りたいって言ったんじゃん!!」


ぐいぐい腕で突っついてくる鈴村くんに、ぷくっと膨れる。
いや確かに、ノロケだったかもしれないけれど、この現場に着たときその気持ちを思い出したのだからしょうがない。
ちなみに、あの現場の後からちょくちょくと石田さんと仕事をする機会が増えて、現在に至る。


「石田さん、ホントに優しいよねー。新人に付き合ってくれて、わざわざアドバイスまでくれるなんて!」
「・・・・・・やっぱまだ分かってないんだ、この人・・・・・・」
「ん、なにが?」


首を傾げて鈴村くんを見ると、彼の視線は違うほうを向いていた。その視線を辿ろうとしたとき、ふいに頭に誰かの手が置かれる。
温かい空気に、ふわりと包まれたような気がした。


「何話してたの?」
「あ、石田さん!!」


別撮りが終わった石田さんだった。
声のトーンが、思わず上がるのが分かる。今すぐにでも、飛びつきたい気分だったけれど流石に人目は気になる。


「なんでもないですよー。うふ」
「何その笑い・・・・・・鈴村くんこの子に何したの」
「何にもしてないですって! はい、席どーぞどーぞ!! お座り下さいませー」


立ち上がった鈴村くんが、石田さんに席を譲ろうとする。


「あ、いいよ俺は空いてるところ座るし」
「いいえ! 俺があっち行きますのでどーぞお座り下さい!!」
「えームラケン行っちゃうのー寂しいー」


石田さんと隣なのは嬉しいけれど、何となく気恥ずかしい。
鈴村くんに向かって手を伸ばすと、彼は首を横に振っていた。


「(うわーあからさまに石田さんの機嫌下がってるー)いやー俺もうすぐ出番なんで!!」

「うん頑張ってね鈴村くん」


スタスタ行ってしまう鈴村くんを見送ると、石田さんが隣に座った。
思わず顔がにやけそうになって、台本で顔を隠す。


「で、なんか良い事でもあった?」
「石田さんには内緒ですよー」

いくら何でも、恥ずかしくて言えない。
あれから随分と時間もたっているけれど、変わらないどころか、どんどん好きになっている。


「ふーん・・・・・・じゃあ今日は保志くんご飯作ってね」
「え!! どうしてそうなるんですか!?」
「意地悪な子に、ご飯はつくりません」
「えーちょっと、意地悪なのはどっちですかぁ!?」


ぷくりと頬を膨らます。
石田さんはくすくすと笑っていた。

石田さんと出会わなかったら、もしかしたらこの仕事も続けていなかったかのしれない。
久々の共演に僕はそんなことを思った。






「怖っ、石田さん怖い!!」
「まぁ・・・基本的に保志くん以外とはあんな感じだもんなー石田くん・・・・・・」
「つか、ある意味保志さんのが怖いかも・・・・・・」
「あー俺もそう思うわ」


噂の二人のほうを覗き見ると、邪魔するなと言わんばかりに黒い瞳が笑っていた。




End




我が友人からのネタ提供です。
最近また石★がやばいです。
どうしてあの方は、あんなに可愛いんでしょうねーもう存在自体が可愛いですね!!



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