book3

□でもあげない
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※学パロ




この時期の学校は、どこかソワソワしている。
男子も女子も、甘い匂いがどことなく漂ってくるのだ。




*でもあげない





「あー来たよーこの時期がー。ホントもう勘弁してよー」


机にだらんと腕を伸ばして倒れたキラは、甘い匂いの紙袋やら箱やらに埋もれた。
今日、2月14日は、言わずもがなバレンタインである。学園内でも、いたるところで、チョコを見かける。


「キラ、甘い物好きだろ?」

「好きだけど……お返しとか、考えちゃうと……」


ちらりと横を見ると、優雅に本を読んでいる幼馴染の姿がある。
その幼馴染は、容姿端麗で成績もトップクラス、運動神経抜群と、天は二物どころか偏りすぎて卑怯すぎるぐらいの完璧。噂では、他校にまでファンクラブが出来ているらしい。
アスラン・ザラとはそう言う人物だ。
当然、アスランのところにも、チョコは山のように来ているかと思いきや。どうやら、親衛隊なるものが睨みを利かせているらしく、チョコ及びその他の贈り物を渡すのは禁止されているらしい。アスラン自信が、甘い物は苦手としている為だとも言われている。


「キラは真面目だな。全員に返すのか?」

「だって、貰いっぱなしって訳にも……」

「ふーん、そんなもん?」

「……じゃないの?」


さあと、気のない返事でアスランは本のページを捲る。
クラスの女子やその他、いろんなところでキラはチョコを貰った。だけれども、その大半は、隣にいるアスランにあげたいけれどあげられないから。それならば、隣にいて少しでも近づけられるコイツにあげておこうか、ぐらいなもの。
幾ら、色恋沙汰に疎いといわていても、チョコを渡された視線がアスランに向いていれば、キラにだって分かる。
もちろん、ミリアリアやフレイ、ラクスたちは、純粋にお友達としてくれたものも中にはあるけれど。


「……じゃあ、ラクスたちだけで良いかなー。お返し」

「……貰ったのか、ラクスに」

「うん。ラクスとミリィとフレイとあとカガリ。後は…ルナとメイリン。あ、ステラにも貰ったかな」

「……良かったな」


ぽんとアスランの手が、頭に乗った。グシャリと髪を混ぜるように撫でられて、ちらりと本越しに目が合う。
見慣れている顔だけれども、やはりカッコいい。
美人は三日で飽きるというけれど、それは絶対嘘だ。


「アスラン甘い物好きだったらなー。手伝わせるのに」

「残念だったな。こればっかは手伝ってやれん」


キラは近くにあった紙袋に手を突っ込んだ。
一目で手作りと分かるトリュフチョコ。可愛らしく丸い形をしたそれを、キラは口に放り込んだ。
少し甘すぎだけれども、まずくはない。
本当は、アスランに手伝わせる気になんて更々ない。
どこの誰かも知らない女子の手伝いなんて、誰かしてやるものか。
もくもくとチョコを食べながら、キラはそう思う。自分でも、性格が悪いとは自覚している。


「ほら、これやる」

「紅茶?」

「甘い物ばっかじゃ、つらいだろ?」

「さすがアスラン!」


ペットボトルの無糖紅茶。普段は飲まないけれど、甘いチョコにはこれがいい。
ごくごくと飲むと、口の中がスッキリする。
アスランは相変わらず、本を読んでいる。
字を追う翡翠の目は、本物の翡翠より綺麗なんじゃないかとさえ感じる。


「それ、面白い?」

「まあ、普通」

「ふーん……」


アスランを幼馴染でもはなく友達でもなく、好きになったのはいつ頃だろうかと考える。
気付いた時には、すでに好きで。だけど、男同士で、友達の前に幼馴染だった。
だから、気持ちは伝えられないまま、きっとこのままの関係が続いていく。
四つ目の包み。
アスランの髪の色と同じ、紺色の包装。中身は、ほろ苦いガトーショコラ。
少し焦げてしまったけれど、味は悪くはない。


「あーもう飽きた!」

「無理に今日食べなくても良いだろ?」

「……えい。同じ苦しみを味わえ!」


ガトーショコラをアスランの口の中に突っ込んだ。
驚いたような翡翠の目が、じろりとこちらを睨む。
勢い余って、指まで突っ込んでしまった。こつんと、歯にぶつかって、表面上は冷静を装っても内面は軽くパニックを起こしていた。
どくどくと鼓動が早まって、血が沸騰しそうになる。


「きーらー」

「ご、ごめん。甘いのキライなのに」

「……まあ、味は悪くなかったがな。甘さ控えめで」

「そ、そう? あ、ほんとだ」


もそもそとガトーショコラを食べるけれど、味なんてもう分からない。
思わず顔を背けて、次の箱に取り掛かろうとした。


「さて、そろそろ帰ろうか」

「へ?」

「まさか、それ全部処理してから帰る気か?」

「あ……帰ります」


あけようとしていた箱を紙袋の中に突っ込む。毎年の事なので、持って来ていた大きめの紙袋に全部押し込んだ。
友達から貰ったものは、もちろん別に。


「ほら、早くしろ」

「あと少し!」


紙袋を掴んで席を立つ。
アスランの隣へ行くと、じっとこちらを見られる。


「え、何?」

「そのマフラー……」

「あ、カガリとお揃い」

「似合ってる。かわいい」

「……可愛いって、嬉しくないんですけどー」


今のところの特権は、親衛隊とやらにも邪魔されない、幼馴染で友達だと言うこの位置。
アスランの隣で、こうして一緒に並んでいられること。
わざとぴたりとくっ付いても、誰にも文句は言われない。
ふいに、頭一つ分高いアスランが屈んで、キラの耳元で囁いた。


「あ、あれうまかった。ごちそうさま」

「へ!?」



もしかしたら、案外とバレバレだったかもしれない。
だとしたら、隠そうとしていたこの気持ちは一体なんだったのか。

だけど。
もし、関係が変わっても、この位置だけは誰にも渡さない。
渡してなんかやるものか。





End

バレンタイン過ぎてるとか関係ない。
今、アスキラが熱いから←
学パロでバレンタインです。
……めざせ、少女マンガ!!






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