basara

□ましろな姫君
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「家康くん。ほら、この子が三成くんだよ。仲良くしてあげてね」


半兵衛の後ろに隠れるようにいたのは、真っ白で小さな女の子だった。触ったら壊れそうで、繊細なガラス細工のように見えた。
俯いていたその子は、ぎっと半兵衛のズボンを握っている。
子供ながらに「ああこの子を守らなくちゃ」と思った。





*ましろな姫君







「なんか、すっごく懐かしい夢……」


あれから十年ほどたって、三成の印象は変わった。というのも、あの初対面の後、手を繋ごうとしたらぶん投げられて、冷ややかに見下ろされたのである。
守ってあげなければ壊れてしまうどころか、あのころは三成の方が喧嘩も強かった。


「……情けないぞ、儂…」


それでもあれが一目惚れで、初恋にはかわりなかったのだろう。しかし、当時はそんなことを思うほど大人でもなく、いわゆるガキ特有の照れもあってよくちょっかいをかけていた。好きな子ほどいじめたくなるあれだ。
小学校に上がってもそれは変わりなくて、でも三成の隣に儂はいた。
もともと人見知りの三成の周りにはあまり友達は少なかった。教室でも、いつも一人で本を読んでいるような女の子だった。
それが変わりだしたのはいつだっただろうか。

ごろりと寝返りをうつと、机の上に飾られた写真が目に入った。
中学に入学したときの写真。その写真には、学ランでピースする自分とセーラー服の三成が写っていた。もともと整った顔立ちだった三成は、どんどん綺麗になっていって周りの野郎どもも放って置かなくなった。
そうなって、やっと気がついた感情。自覚したと言って良いかもしれない。

そっち方面に疎い三成は、まったく気づいていないが、気付いたこっちは気が気じゃなかった。
ベタすぎるが、体育館裏や空き教室に連れ込まれそうになったことも多々あった。


「……まぁ三成なら、儂が退治せんでも一人で何とかなりそうだがな」


たとえ襲われたとしても、三成なら一捻りだろう。護身術を中心に、一通りの武芸を習っている。


「……もしかして、儂いらんことしてる?」


なんだかうだうだ考えていたら、気分がずーんと沈んできた。


「………はぁ」


突然、顔に影ができて銀色のきらきらとした髪が目の前に垂れてきた。切れ長の瞳に写っていたのは、寝起きの自分の顔だった。


「いつまで寝ている気だ、馬鹿者」


相変わらず白くて綺麗な顔。無意識にその身体を引き寄せていた。ふんわりと涼やかな匂いがした。


「な!? なにをすんだ貴様!!!」


捕まった腕から逃げだそうと、思いっきり胸を押される。だけど、簡単には放してやらない。初対面で負けてから、伊達に鍛えていない。


「おはよう、三成」


そのままごろんと転がって、三成を見下ろした。まん丸になった目を見て、やっぱり可愛いなと思ってしまうのはもう末期でしかない。三成はすぐにはハッとして、真っ赤になって暴れられた。見事なアッパーが顎にヒットしたのは言うまでもない。


「まったく、朝っぱらから何をやっておるのだ貴様は」


ぷりぷりと怒っている三成は、気づいているのか、はたまたわざとなのか、儂を跨ぐように乗っている。制服のスカートからすらりと伸びた細い足は、目の毒でしかない。世間知らずのお姫様は、前屈みになっている所為で、ちらちらと襟元から鎖骨が見えている。
とっても良い眺めではあるのだが、朝っぱらから何を、はこっちが言いたい。


「おい貴様、聞いているのか!!」


あ、今ちらっとわき腹が見えた。
すいっとそこに手を伸ばすと、更に白い肌が手に吸い付いてきた。さわり心地の良いすべらかな肌と折れそうなほど細い腰。


「ひゃッ!? ななななにをしているんだ貴様!!」

「いやぁ、つい目の前にだなぁ」

「このタヌキが!!」


バシンとほっぺたを叩かれた。これは見事な手形ができそうだ。
真っ赤になった顔がまたそそられる。まったく朝から刺激が強すぎるのだ。


「三成が可愛すぎるからいかんのだぞ」

「阿呆か……」


ぎゅうと腰に手を回す。力を入れると本当に折れてしまいそうで、そっと抱きしめた。
カーテンの隙間から差し込んだ日差しに、きらきらと銀色の髪が輝く。


「三成……好きだぞ」

「フン、また貴様は私を馬鹿にしおって」


この宝物がなくならないように、やっぱりずっと守らなければと思った。
意地っ張りで、強がりなこのお姫様が傷つかないように。





「………ところで家康くん。うちの可愛い娘に何してるのかなぁ」

「ははは半兵衛!? 儂はまだ何もしておらんぞ!!」

「ふーん、“まだ”ね」


「半べ……お母さま、おはようございます!!」

「うん、おはよう。もう朝食の用意が出来ているよ。早く食べなさいね」

「はい!!」


三成はべりっと儂の腕を引き剥がすと、きらきらと目を輝かせて部屋を飛びだしていった。追いかけようと手を伸ばしたところで、にこにこと笑う半兵衛と目があってしまった。


「家康くん。みっちゃんに手を出したら、承知しないよ?」

「………ハーイ」


目だけが笑ってないのが物凄く怖い。


「ふふ。まぁ、君があの子を傷つけることなんてしないのは分かってるけどね。君だって、僕の大事な子供なんだから」



やっぱり、当分のうち一番の障害はこの人なんだろう。

まぁ、ゆっくりと気長に待つことにしよう。

きっとそのうちに、あの鈍いお姫様も気付いてくれるだろう……多分。



END



あれ……なんだかよくわからん話になった。
クリスマス頃に友人に送りつけた、初家三です。
三成初書きにも関わらず、いきなりにょた化しとるしι
にょた化みっちゃんは、スレンダー美少女です。思春期真っ盛りの家康様には拷問のような日々ですな……
もしかしたら、この設定でシリーズ化するかもしれません。
続編希望があればですが……





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