basara

□春をまつ
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しんしんと降り積もる雪は、上田の城も白に変えていた。部屋の中から外を見ていた弁丸は、らしくもなくふぅとため息をついた。







*春をまつ






「どうしたんです、弁丸さま?」

「佐助…」


茜色の忍を見上げた弁丸は、手元の包みを見て一瞬目を輝かせた。漂うにおいは大好きなお団子なのだが、何故かしゅんとしている。いつもは、早く早くと急かすのに、ぼんやりと外を眺めていた。


「食べないんですか?」

「……食べる」


焼きたてのお団子は、甘辛いタレと、あんこ。今、城下で一番繁盛している店のお団子だった。


「やけどしないで下さいよ」

「うむ……」


ほこほこと湯気の立っているお団子を、ぱくりと口にする。もごもごと口を動かすが、いつもの元気はない。


「おいしくないですか?」

「そんなことないぞ」


いつもの弁丸は、本当においしそうに食べるのだが、まるで苦い薬を食べているようだった。


「だけど、梵天丸どのと食べた時のほうが、おいしかった」


ほそりと呟いた声が、佐助の耳に聞こえる。
冬の初めに、信玄と共に奥州へ行ったときに出会った男童がいた。その子が米沢城主の嫡男であることは、あとから知ったとこだったのだが、滞在中ずっと一緒に遊んでいた。
年の近い子と遊ぶ事の少なかった弁丸は、とてもよく懐いて、上田に帰る時はわんわん泣いていた。


「文、書いたでしょ? 春になったら、会えますよ」

「ほんとか? 弁丸の文は、あちらに届いているか!?」

「当たり前じゃないですか。ちゃんと、届いてますよ」


大きな茶色い目が、きらきらと輝く。ぎゅっと結ばれていた唇が、ふわりと和らいだ。


「そうか!! 佐助、雪を消すことはできんのか?」

「いやぁ、流石の俺様もそれは無理ですよ」

「むぅ……」

「で、このお団子はもう食べないんですか?」

「食べる!! 食べるに決まっておる!!」


ぱくぱくと両手で頬張る弁丸に、佐助はくすりと笑った。やっぱり、元気すぎるぐらいのほうが弁丸らしい。
冬はまだまだ続く。奥州の冬は、とくに長いと聞いている。


「さあ。これ食べたら、お勉強の時間ですよ」

「むぅ。じっと座っておるのは苦手だ」

「まあ、がんばって下さいよ。わが主サマ」


しんしんと降り続く雪は、まだやみそうもない。
きっと、今頃奥州に弁丸の文が届いている頃だろう。
早く、春が来ればいいのに。

春が来たら、小さな主たちの為にまたお団子を買おう。
仲良く食べるその姿を想像して、佐助はクスリと笑った。




end


「雪解をまつ」の弁丸サイドです。
弁丸ちゃんは、上田のアイドルですね。
そのうち梵弁の出会いの話も書きたいです!!
頂いたネタも、ありますしね。







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