basara

□姫椿
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※オリキャラが登場します。嫌いな方はお戻り下さい。




ある日、政宗の元に上田から文が届いた。
差出人は、もちろん真田幸村からのもの。熱血が絵に描いたような性格の幸村の字は、それに似合わず流麗なもので、初めて文を貰った時は、本当にお前が書いたのかと疑ってしまった。季節を感じさせる香を焚き染めたその文に書かれていたのは、幸村らしい手合せの申し出であった。


「ほう、これは……おもしろいじゃねえか」


にやりと口角を上げた政宗は、その文を懐にしまうと意気揚々と城を飛び出したのだった。





*姫椿




単独で馬を駆け、上田への道を進んでいく。書置きは室に置いては来たが、今頃頭の固い重鎮たちが血眼になって政宗を探しているだろう。その様子を想像して、政宗は苦笑いする。きっと、帰ったら大目玉を食らう事になるだろう。


「Wait for me……my, honey」


文に記されていた約束の日はまだ三日ほどある。今こちらに向かっている幸村を待ち伏せしてやろうと、考えたのだった。
ざわざわと葉の擦れる音がする。紅葉した葉が、風に揺られて散っていく。道に降り積もった落ち葉は、愛馬がそこを駆ける踏みたびにかさかさと音がした。
幸村がどの道を通ってくるかは、大体の予想は付いている為すれ違う事はないだろう。

日が傾き始め、あたりが茜色に染まり始めた。山の中は暗くなるのも早く、すぐに暗くなる。愛馬を降りた政宗は、川沿いまで出て木に馬を括り付けた。
見上げると、丁度赤と青が交じり合ったような空がある。逢魔が時、その言葉がぴたりとくるようなそんな空だった。
愛馬は草を食んでおりとても大人しい。周りの気配も特に変わったものもない。火を起こして、愛馬の傍に腰を下ろした。木と木の隙間から不思議な色合いの空が見える。


「おい、いつまで隠れていやがるつもりだ」


政宗は後ろに声を向けた。がさりと草を掻き分けて、紅い衣をまとった影が顔を出す。
いつもの戦装束とは違い、袴姿の幸村は少し驚いた顔をしていた。


「いつから、気付いていたのでござる?」

「俺が、お前の気配を逃す訳ねぇだろ?」


幸村は、政宗の隣に腰を下ろした。完全に日が沈んで、辺りが闇に包まれる。炎の光に幸村の横顔が照らし出される。幼さの残った顔に大きめの瞳、細身の身体は、紅蓮の鬼と例えられる男だとは思えないであろう。政宗は、その細い腕を掴んだ。するりと袖が捲りあがる。


「政宗どの?」


幸村の大きな目がこちらを不思議そうに見つめる。影になった政宗の表情は、幸村からはよく見えない。引き寄せられた幸村は、そっと政宗の胸元を掴んだ。政宗の薄い唇が、耳元に寄せられた。


「Who are you?」


低く響いた政宗の声は、とても冷たいものだった。政宗の首に匕首が当てられる。射抜くような視線が突き刺さった。相手の懐に匕首を当てていた政宗は、にやりと笑う。
パンと、焚き火の薪が爆ぜた。


「俺に刃を向けるなんざ、いい度胸だ」

「オレが幸村じゃないって、身破ったことは褒めてやるよ」


するりと政宗の手から逃げる。幸村そっくりの相貌が叫ぶ。


「だけどな……貴様はここで終わりだ!!」


親しいものでも、この変装を見破るのは難しいだろう。それ程までに、幸村にそっくりだった。おそらく、幸村に使えている忍なのだろう。鋭い視線が政宗を射抜く。一房がけ伸ばした髪が風にゆらりと揺れた。その瞬間、目の前から忍が消える。政宗の間合いに入った忍が手にした刀を振り上げた。しかし殺気のこもったその攻撃は、政宗にとって掴む事は容易いものだった。


「真田の忍がこんなにも未熟だとはなぁ」


忍の腕を掴んだ政宗は、手に持っていた刀を叩き落して、忍の首を掴んだ。思いのほか細みの首に政宗の指が食い込む。苦痛で歪んだ顔がこちらを向く。政宗の刀がその首に振り下ろされた。


「政宗どの、お許し下され!!」


政宗の刀が、紅い槍に弾かれた。肩で息をする幸村が、政宗を見た。胸元で六連銭がちりんと揺れる。槍を引いた幸村が、政宗の前に膝を付いた。手を付いて頭を下げる幸村に、忍は慌てた。いつの間にかいたのか、幸村の隣には佐助も頭を下げている。


「なんで、どうてゆっちゃんが謝んの!?」

「何を言うか!? 一国の主に刀を向けるとは、その場で首を切られても仕方ないのだぞ」

「俺様からも頼んでいいですかね? 小介を見逃したのは俺様の責任なんでね」

「ハッ!! 小物なんざ、俺がわざわざ手を下すまでもねぇ」

「かたじけない……誠に…誠に申し訳ござらん」


顔を上げようとしない幸村に、政宗は手を伸ばす。栗色の髪を撫でると、そっと顔を揚げた。大きな瞳が揺れている。部下を大切にしているのは、幸村の性格上よくわかる。きっと、多くのものに慕われているのだろ。


「もういいから。立ちな」


地面に座り込んだままの幸村の腕を掴んで、立ち上がらせた。
幸村に扮していた小介は、佐助に髢を取られていた。肩までの髪がざんばらに散らばった小助は、幸村よりも幼く見える。パンと、乾いた音が響いた。頬を叩かれた小介は、泣きそうな顔をしていた。


「佐助、そのくらいにしてやってくれ。政宗どの、良いであろうか?」

「ああ、別にいいぜ」

「かたじけない」

「にしても、お前。忍にしては未熟過ぎやしねぇか?」


忍にしては、感情が豊か過ぎる。どちらかと言うと佐助も忍らしくはないが、ひょうひょうとした顔は感情を隠したもの。己の感情のまま動いている小介は、およそ忍らしくない。
何故襲ったのかと尋ねられても黙ったままの小助は、幸村に促がされて渋々話し出した。


「あんたが、どういうやつなのか知りたかったんだよ」


つんと唇を尖らせた小介が言う。
あまりにも、稚拙すぎるわけに佐助はあんぐりと口を開けた。


「あーなんか。頭痛くなってきた……」


茜色の頭を押さえた佐助は、深いため息を付いた。佐助の態度に納得が行かないのか、小介はぷくりと頬を膨らませていた。幸村よりも少し明るめの色の頭がこつんと叩かれる。叩かれた小介は、幸村の顔を見るとしゅんとしていた。


「小六は、某の従兄弟でござる」

「どおりで、顔立ちが似てるわけだ」


従兄弟といっても、小介は傍系にあたるとのこと。将来、幸村の下に付くために忍の里で学ばせているのだそうだ。幸村よりも二つ年下で、幼い頃はよく一緒に遊んでいたらしい。


「なんで、ゆっちゃんはこんな目つきの悪い奴が好きなのさ!?」

「なッ、なななな、なにッ!? 何を言っておるのだ!!」

「What?そりゃ…勿論、すべてだよな」

「どんだけ、自信あんだよおまえ!!」


幸村によく似た顔立ちでも、よく見ればまったく違う。幸村をさらに幼くさせたその行動に、政宗はくすりと笑った。小助の首には、紅く手のあとがはっきりと付いている。政宗は、その首筋に手を伸ばした。


「それ、冷やした方がいいな」

「このくらい、たいした事ない。てか、心配される筋合いはないんだよ!!」

「こら、小介。仮にも一応、一国の主なんだからさあ」

「てめ、猿ッ!! つか、おまえら…いい加減空気読みやがれ」

「おまえ、まさか! ゆっちゃんにイヤラシイ事するんじゃないだろうな!?」

「は、破廉恥でござるぅ……」


政宗に突っかかっていく小介に、佐助はため息を付いた。幸村を見ると小六に政宗との関係が割れていた事に、顔を真っ赤にさせている。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ小介は、政宗にからかわれている事にまったく気が付いていない。仮にも忍の里で学んだ者なのだから、そのぐらいは察してほしいものだ。


「ねえ、ゆっちゃん!! これから、こいつの城行くんだよね? ぜったい、やめたほうが良いって!? オレのゆっちゃんが怪我される!?」

「オイ猿。こいつ、鬱陶しいから早く連れて帰れや」

「残念でしたー。今回はオレも付いて行って良いって、御館さまから許可もありまーす」


ひらりと政宗の前に差し出されたものは、甲斐の虎信玄の手のものだった。お互いの友好の為に幸村をしばらく奥州に預けるとのこと。使者として、佐助の他に一人もよろしく頼むとの旨が書かれていた。


「ちょっと待ってよ。今回は、旦那が竜の旦那と手合せが目的だったんじゃないの!?」

「某も、何も聞いておらぬぞ!!」

「えー御館さま、文は送ったって言ってたよ?」

「入れ違いだな……」


おそらく幸村の文の後に送られたのだろう。今頃、城に信玄からの文が着いているかもしれない。これは、小十郎の小言が増えるのは確実だろう。


「お前がゆっちゃんに相応しいかどうか。じっくり見極めてやるからな!!」


びしっと小介は、政宗を指した。政宗に対して、これだけ遠慮もなく接する者は珍しい。
なによりも、小介に対する幸村の態度が新鮮で、新しい収穫ができた。
これから奥州は賑やかになるだろうなと、政宗はにやりと笑みを浮べた。




end


姫椿は、山茶花の別名です。
完璧オリキャラな、真田十勇士の穴山小介です。
設定もオリジナルですので、悪しからず……
そして、これからちょくちょくオリキャラを出していきたいと思います!!
この話、続けてもいいですかね?
そのうちオリ×オリとかもやってしまうかも……
ご意見、お待ちしております←切実






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