basara

□△Cioccolato
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あまい、あまいそれを、長い人差し指で掬った。
とろりと垂れたそれを目で追って、思わずごくりと喉を鳴らしてしまった。






*Cioccolato





ショーウィンドウの中は、きらきらと光るハートやプレゼントでディスプレイされている。女の子たちは、そわそわとしながら甘い匂いが漂う店内で、こそこそとそれを見ていた。まるで、そこ一体が淡いピンク色に包まれているような雰囲気に、幸村の足が思わずうっと止まってしまった。


「旦那、なにしてんのさ。ほら、チョコ買うんでしょ?」


幸村に付き合ってくれた佐助は、躊躇うことなく店の中に入っていった。もっとも、佐助も買うつもりで来ているために、足取りはとても軽い。わくわくとしながら店内をさっそく物色しようと、目をきょろきょろとさせている。


「しかし、このようにおなごの中にはいるのは……」

「あのねぇ、今は男の子もあげる時代なのよ。ほら、ちらほらといるでしょうが」


たしかに、店内には女子達に混じって男子の姿もある。しかし、圧倒的に女子が多いのは間違いない。ニュースや何かでも、今年は男子からチョコをあげるのが流行っていると特集しているのを見た。なのだけれども、どちらかと言うと古風な考えの幸村には、バレンタインといえば女子のイベントとの考えがあった。
毎年、クラスの女子からのチョコを楽しみにしている幸村は、大の甘い物好き。この季節になると、いろんな人からお菓子をもらえると楽しみにしていた。しかし、今年は貰うばっかりではなく、あげたいと思う人が出来てしまった。だから、こうして佐助とこの店にやってきたのだ。


「おーいろいろあるねぇ。どれにしようか…ほんとは手作りでも良いんだけど……」


もちろん、佐助も誰かにあげるつもりで選んでいる。恋人のために何かを選ぶという姿を見るのは、とてもキラキラと輝いて見えた。リキュール入りのチョコを中心に、おとなっぽいチョコを選んでいる佐助は、なんだかいつもと違うように感じてしまう。
それに比べて、幸村の表情はあまり楽しそうには見えない。いろんな種類のチョコはどれも美味しそうなのに、どれも違う気がする。


「よし、これに決めた!! って、旦那はまだ選んでないの?」

「うー…そもそも、甘い物は苦手と言っていたゆえ……」

「あー……まあ、旦那からもらえることに意味があるんだしね!!」

「……もう少し、考える。佐助、先に帰ってもいいぞ」


一緒に選ぶと佐助は言ってくれたのだが、幸村はそれを断って一人で選ぶことにした。
きょろきょろと一人で店内を見回す。甘い匂いはとても魅力的なのに。誰かを思って選ぶことがこれほど難しいものだとは思わなかった。


そして迎えたバレンタイン当日。
幸村は、学校を終えてから幸村は寄り道をしてその部屋の前に来ていた。あとは、チャイムを鳴らすだけ。この部屋にくるのは、別に初めてではないのに、まるで初めてきた時みたいだった。


「で、お前はいつまで部屋の前にいるんだ?」


しゃがみ込んでいた幸村は、突然の降ってきた声におもわず顔を上げた。開いたドアの前で、壁に持たれている政宗の姿はとても様になっている。


「わ、わわ!? 政宗どの!!」


慌てて立ち上がると、思わず逃げ出そうとくるりと背を向けようとして政宗に腕を掴まれた。政宗の顔を見ると、呆れたような顔をしている。本当に逃げたくなった幸村は、腕を振り切ろうとするが、政宗は離すどころか部屋の中に引き込まれてしまった。


「何逃げようとしてる」

「うぅ……」

「お前が部屋で待っとけって言ったんだろうが」

「す、みませぬ」


リビングまで来たところで、ようやく政宗は腕を離した。掴まれていた腕が、じんと痛む。幸村は顔を上がる事ができなくて、ずっと下を向いていた。手にしていた小さな紙袋をぎゅっと握って、逃げ出したくても逃げ出せないこの状況に後悔が溜まっていく。
幸村の視線に、政宗の足が見えた。紺色のスリッパが、幸村のすぐ近くにいる。ぽんと、幸村の頭にふわりと重みがのった。


「なんで、顔あげない?」


幸村の髪をゆっくりと撫でる政宗の声は、とても優しいものだった。二つしか年は違わないのに、いつも政宗は大人に見える。初めて迎えたバレンタインに、勇気を出してこちらからチョコを渡そうと思っていた。だけど、今この袋の中に入っているものを渡していいのか躊躇いが生まれる。


「幸村……」

「わっ!?」

ぎゅうっと幸村は抱きしめられた。身長差から、丁度肩のところに顔が押し付けられて苦しさで、思わず顔を上げる。にやりと笑った顔がとても近くにあった。


「それ、俺のだろ?」

「……政宗どのなら、他にもたくさん貰っておろう?」

「ぜんぶ、断った。だから、ゆきのがいい」


幸村の目が丸くなる。政宗は一房だけながいチョコレート色の髪を救い上げた。クセのあるその髪を、政宗は触るのが好きだと言っていた。髪の先に口付けられて、幸村の頬が赤くなる。気障っぽいその姿も、政宗だからこそ絵になる。
握っていた紙袋の指が一つずつ外される。政宗の手に渡った青色の小さなその箱。幸村は、それを開ける姿を見る事ができなかった。


「……空っぽ?」


青色の箱の中身は、何も入ってない。幸村が悩んで、悩んで決めたその中身だった。
甘い物が苦手な政宗は、きっと何を選んでもおいしいと食べてくれるだろう。だけど、それではこちらの気持ちを押し付けているだけ。では、お菓子以外のものはとも考えたのだけれども、物にあまり執着のない政宗になにを送っていいのか分からなかった。バイトもしていない幸村があげられるものはとても少ない。


「あの……政宗どのにはモノではなく、その……あの……」


いつもはきはきと物事を言う幸村が珍しく、口ごもっている。あわあわとしながら、懸命に伝えようとしている姿に、思わず政宗の顔が緩む。紅葉した顔が、いつも以上に可愛らしくて、今すぐにでも抱きしめたくなった。


「某の、き…もち、を……その……あぁああああ!!! ですので、某の気持ちを貰ってくだされぇええええ!?」


言い切った幸村は、言った後でああと床に崩れ落ちた。政宗はその様子をぽかんとして見ていたが、ぷっと吹き出して珍しく声をあげて笑い始める。


「な、何ゆえ笑うのですか!?」

「いやあ、これはクるだろ? なんだそれ」

「政宗どの!!」

「あーわりぃ。うん、可愛い。めっちゃ可愛い」


うんうんと頷きながら、政宗は幸村の頭をポンポンと撫でた。ソファに座った政宗は、手招きする。すとんと幸村は政宗の隣に座った。政宗の手が幸村の腰に回されて、引き寄せられた。


「拗ねんな」

「拗ねてなど、いません」

「じゃあ、こっち向け」


そっぽを向いているふくれっ面を、くるりとこちらに向かせた。ぷっくりと膨れた顔の唇に、甘い塊が押し付けられる。幸村は、反射的にそれを口に含んだ。ふんわりと甘くて甘酸っぱい香りが口の中に広がった。


「生チョコにラズベリーを入れてみた。うまいだろ?」

「これ、手作りなのですか!?」


甘ったるくなく、とろんと溶けていくそのチョコレートは、プロが作ったようだった。幸村のために、よくごはんを作ってくれるが、これは初めて食べた。


「さすがは、政宗どの!!」

「もっと、食うか?」

「はい!!」


あーんと口を開けて待っている姿に、政宗はクスリと笑った。まるで、餌付けしているようでとても楽しい。ココアをまぶしたチョコを幸村の口に入れる。
何度かそれを繰り返していると、政宗の指ごとぱくりと口に入ってしまった。にやりと政宗の口角が上がる。


「そんなにうまいか」

「あ、すみませ、んッ――!?」


少し大きめのチョコが口に押し込められる。長い指ごと幸村の口の中に入り込んで、舌に押し付けられる。熱ですぐに溶けてしまう生チョコが、じんわりと口の中に広がって、それと同じタイミングで幸村の舌が捕まえられた。


「なあ、気持ちって、ゆきは何してくれるんだ?」


にいと笑う政宗。長い指が邪魔をして、話すことができない。つままれた舌を撫でられりと、びくんと身体の奥が疼いた。長い二本の指がゆるゆると舌を撫でる。閉じる事ができない口元から、つうっと唾液が零れた。すっかりとチョコは溶けてなくなくなるまで、指はそこに居座っていた。
ゆっくりと長い指が引き抜かれると、物足りなさそうに幸村はそれを目で追う。唾液に濡れたその指を、政宗はゆるりと舐めた。


「あまい……」


幸村は噛み付くように、政宗の唇にキスをした。幸村からキスをすること自体が珍しいのに、たどたどしいながら舌を絡ませてくる。それに答えるように政宗も幸村を絡め取った。
ほのかに広がるチョコの味は、政宗の好まない味。しかし、この甘ったるいキスは政宗を夢中にさせた。
ちゅっという音と共に、唇が離れた。整わない息が肩を揺らす。紅葉した頬が政宗を見つめた。薄く開いた唇の端から零れた銀糸を掬い取る。赤みの増した唇は、政宗を誘っているかのようだった。


「これが、気持ちか?」

「まさ…ね、どの……」


幸村の制服のボタンを外して、肌をさらす。ツンと赤くなった乳首に目が止まる。幸村は恥ずかしそうに身を捩った。


「触ってねぇのに、感じたか?」

「あっ…まさむね、どの……ッ!?」


ひやりとしたチョコが胸に当てられた。体温でとろりと溶けたチョコがそこを染める。政宗の舌が、舐め取るように押し当てられた。小さな粒が潰されて、あま噛みされる。


「やっ、もったいなぁ……っん!!」

「気持ち、くれんだろ?」


すべて舐め取った政宗の舌が下肢に降りていく。器用に片手でベルトを外すと、下着ごとスラックスが脱がされた。臍のあたりにもチョコが塗られる。


「やあっ、あぅ…政宗どのぉ……」


溶けたチョコと混ざった唾液が下に流れて、茂みを濡らす。際どい箇所まで舐められて、幸村がびくびくと反応した。
顔を上げた政宗は、顔を真っ赤にした幸村と目が合った。


「ああ、欲しいのか?」


甘いチョコレートを口にくわえた政宗が幸村の口に運んだ。舌の上で溶かすように、政宗の舌が絡む。ラズベリーよりも甘いそれは、ミルクの味がした。政宗には甘すぎるそれも、幸村には丁度良かったようで、積極的に舌が絡んできた。





 * *
 




「なあ、いい加減。機嫌直せよ」


ぷっくりと頬を膨らませた幸村は、先ほどからベッドルームに閉じこもっていた。すっぽりと毛布を頭から被って、政宗の話を聞こうともしない。


「あ、あのように食べ物を粗末になさるなど!? 某、信じられませぬ!!!」

「だから、謝ってんだろ」

「政宗どのなど、知りません!!」


完全に臍を曲げてしまった幸村に、政宗はため息を付いた。確かにやりすぎてしまったのは認めざるを得ない。だけれども、幸村が可愛すぎるからいけないのだと反論したくなってくる。油に火を注ぐために口にしないけれど。


「詫びに、お前の好きなもん作ってやる」


がたんとドア越しに音がする。分かりやすいその反応に、政宗は笑みを浮べた。


「ハンバーグ……きのこのやつ。あと、スープ……」


聞こえてきた可愛らしいリクエストに、政宗の顔が緩む。こんなにも、誰かのために何かをしようと感じたことなど、幸村が始めてだろう。誰かを喜ばせる事が、こんなにも楽しいことなのだと教えてくれたのは、間違いなく幸村だった。


「分かった。あと、デザートは……」

「パフェ!!」


ばたんと扉が開いて、幸村は政宗に飛び込んだ。ぎゅっと抱きついて、ごめんなさいと口にする。気持ちを上げようとしていたのは、幸村だったはずなのに気が付いたらいつもと変わらなくなっていた。


「某、まだ政宗どのに気持ちを渡しておりませんでした」

「は? もう十分貰ってるだろ」

「そ、そうではなく!!」


赤くなった幸村が、真剣な表情になる。大きな目が、政宗の隻眼をじっとみつめる。
政宗の持つ肩書きや、その隻眼故に、まっすぐに政宗本人を見ることの出来る人間は極端に少ない。心を許す存在の中に入れたことが、とても嬉しい。


「政宗どの。某は、政宗どののことを好いております。これからもずっと、この気持ちを政宗どのに伝えてもようございますか?」

「はっ…なんだよ。そのカッコいい台詞……」

「ダメ…に、ございましょうか?」


不安そうなその瞳を政宗は、ふわりと抱きしめた。あまいにおいに包まれる感覚。包んでいるはずなのに、包まれているような不思議な感覚がした。


「ばーか。ダメなわけねぇだろう」


政宗に気持ちは伝わったのだろうかと、幸村は政宗の顔を見る。隻眼の瞳がとろけそうな笑みを浮べていた。その熱が幸村を高揚させる。


これほどまでに、誰かを思ったことが今まであったがろうか。
誰かに何かを仕えることに、ドキドキして、胸が高鳴って。


来年は、もっと驚かせることが出来たらいいのに。




「あの、そのですね……アーモンド、は……」


もじもじと言葉を口にした幸村に、政宗はぷっと小さくふきだした。桃色に染まった耳元で囁く。


「あれな……う、そ」

「政宗どのの、ばかぁあああああ!!!」


政宗は、ころんと落ちていたアーモンドを分からないようにソファの下に滑り込ませた。






end



長い……で、えろい。
チョコプレイです。
すっごく書いてて楽しかったです。そして、すこしアレだったので一部隠しました。
ちょいスカ気味(?)なので、お気をつけ下さい。隠すっていっても簡単に見つけられると思いますけどね。
本当はもっと濃厚にしようと思ったんですがね……一応やめました←←
隠し部屋見つからない場合は、お知らせ下さい。

Cioccolato……イタリア語でチョコレート









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