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□曇り空
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見えなくなっていく目は、青空を映さなくなった。

すべてが灰色がかって、うっすらとモヤがかかったようだった。


あの激しかった戦いが嘘のように、今は穏やかな日々が続いている。

同化が進んで赤いままの瞳。
死んでいった仲間が大勢いるのだから、このくらいですんだのは奇跡に思えた。


竜宮島が守れたのなら。
みんなが平和に過ごせられるなら。







くるくると大きな鍋をかき混ぜれば、ふんわりとカレーのいい匂いが立ちこめる。
手探りで香辛料を選んで追加した。


「一騎カレー追加お願い!!」

「こっちも一騎カレーな」

「俺の名前メニューにしないで下さいよ」


面白がって付けられてしまったメニューの名前は、呼ばれるたびに恥ずかしさが増していく。


「一騎くん、こっちは一樹ケーキ!!」

「わかったよ、遠見」



平和な毎日。
まだまだフェストゥムとの戦いは続いているけれども、それでもみんな笑顔になった。


失ったものはあまりにも大きかったけれど。


子供を失ったもの。
親を失ったもの。
恋人を失ったもの。
友達を失ったもの。


先の戦いでみんなが傷ついた。




「疲れたでしょ、一騎くん。もう上がって良いって一緒に帰ろ!!」

にこりと真矢は笑った。
真矢だって、親友だった翔子を亡くした。
それでも笑顔で、人の心配ばかりしている。


「ごめん、今日は寄りたいところがあるから先に帰ってくれないか?」

「大丈夫?」

「平気だよ。そんなに遠くないから」



一人になった店内をぐるりと見渡す。
ぼんやりとしかこの目は映さないけれど、優しさがあった。


メニューにしても、わざと“一騎”の名前を入れて、みんなして名前を呼ぶ。


名前を呼ばれるたびに、
“お前はここにいる”
と言われている気がする。

“一騎”が消えないように。
一騎という個がなくならないように。

名前を呼ばれるたびに、揺れていたものが収まってくように感じる。

一度進んでしまった同化はなかなか治らない。
新しく開発された薬のお陰で、進行の速度は弱まったが、いつまた悪化するかは分からないのだ。


あの戦いから二年。
早かったような、長かったような。
あまりに穏やか過ぎてよく分からなくなっていた。






店を出ると、さわさわと風が吹いていた。
海からの風は、潮の匂いを含んでいる。
昔から変わらないこの風は、全身を包み込むようにそよいだ。


見えなくなってからも、変わらないその風と潮の匂い。

今日の海はどんな色なのだろう。

空の色は?


きっと彼の目もこんな風になっていたのだろう。

自分が傷つけて、逃げ出して。
彼の可能性を奪ってしまった。
気にするなと彼は言ったが、こうなってみて初めて分かった。



見えていたからこそ、空の、海の色を知っているからこそ。


もう一度分かり合えたら。今ならきっとよく分かる。



誰より厳しくて、優しかった。
だから誰よりも傷ついていた。


自分はどれだけ彼のことを知っていた?

知ろうとしていた?




「…そぉ…………」



小さく呟いた言葉は、何を残すわけでもなく消えていく。




彼が消えた世界。


分からない。

何のためにここにいるのか。

彼の目になるために存在していたのに。

身体だって満足に動かせず、いつ同化衝動が起こるのか分からないのだ。

真矢や剣司のように後輩に指導することも出来ない。


なんの役割も出来なくなった今、何のためにこうしているのか。


開いた目は赤く、正しく景色を写こともない。



本当に自分はここにいるのだろうか?





蒼穹が再び綺麗だと感じられる日は、もうこない。












ヤ・ン・デ・レ・wwwwww
暗い………鬱っ子全開で申し訳ないですorz

でもきっと映画序盤の一騎にはこんな思いもあっただろうと、、、、、
久々に書いたSSがナニユエこんなことになったのか理解不能です←←←←←







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