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□離さない
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「そうし、、、」

「どうした?」


前を歩く総士の袖をつかんだ。
長い髪が翻る。

不安。
どうしたら、この不安はなくなるのだろう。


「一騎?」

「ごめん……なんでもない」

掴んでいた袖をはなす。
総士は困ったような顔になった。


「何かあったか?」


何もない。
ただ、無償に不安なだけ。


「一騎?」

「おまえは……」


また置いていかれるのはいや。
いなくなったこの島で、総士のことを考えるのはつらい。


「おまえは…ここにいるか?」


驚いた顔。

でも確かめたい。
今、ここにいる存在が正しいことを。


「あぁ。僕はここにいる」


俺の手を取った総士は、確かめさせるように握った。

「おまえのそばにいる」


総士の手は温かかった。

ここにいる。
俺のそばに確かにいる。


「よかった」


総士の胸に耳を当てる。
トクン、トクンと確かに鼓動が波打っていた。

人とは違うものだと総士は言っていたが、俺と変わらない音だった。


「総士……」

「どうした?」


総士の手が俺の髪を撫でた。

不安が薄まっていく。

2年間離れていたことが嘘のように、離れると不安になる。

こんなにも自分が総士に依存していたなんて思わなかった。


「一騎すまないな」

「なんで謝るんだ?」


腰に回っていた腕が総士との距離を0にする。


「おまえを置いていった」

「でも、それは仕方がない



ああしなければ、平和を取り戻すことは出来なかった。
みんなが必死だった。


「それでも……おまえ一人が犠牲になるのはもういやだ」

「一騎、、、」



光しか映すことのなかった目が、総士の顔を映し出した。
まだ完全に回復していないために近くしかはっきりとは見えない。

心配している顔。
きっと目のことを気にしている。


「ありがとう」


すべてのきっかけが総士だったことが嬉しい。


「もう、いなくなるなよ」

「わかった」

「絶対だぞ」

「……いなくなるときは伝えよう」


なんだそれ。
総士ならやりかねないと思ってしまうのが可笑しい。


「笑うのか?」

「笑うだろ、これは」


もしもまた誰かが犠牲にならなければいけないときは、絶対に一人ではいかせない。

誰かを選ばなければ行けないとき、絶対に総士は自分が犠牲になろうとするから。

そのときは、必ずついて行く。

絶対に離さない。






end






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