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□感情
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「一騎、少しここに座れ」



どうしてこいつは無茶ばかりするのだ。



「どうしたんだよ、突然」


きょとんとした顔。
全く分かっていないと言った顔の一騎は、僕に言われた通りに向かい側に座った。


「俺、何かしたか?」


僕の顔が険しかったからか、不安そうに眉が下がった。
その表情によけいに顔が険しくなるのが自分でも分かった。


「総士…あの、」


落ち着かない。
一騎の表情一つ一つに反応する。

今までこんなことなかったのに。

人ではなくなった自分は、今までとは違う別の感情を芽生えさせたのだろうか。


「目はどうだ?」

「前みたいにはまだ見えないけど……だいぶ良くなった」

「そうか……」


違う。
それも心配だったのだが、そんなことを言いたかったわけではない。

たとえば、一騎が険司たちと話していたり。
遠見や咲良と笑っているのを見ているとき。

僕の知らない2年間の話。


「総士?」


一騎は覗き込むようにして、僕の顔を見た。
さらさらとした黒髪と、大きな目が僕を見る。


知らない感情。
知らなかった感情。

いや、気付かないようにしていたのかもしれない。



「そ……」



驚いた顔。
琥珀色の目が見開かれた。
細い腕。
こんなに一騎は細かっただろうか。


「……痛い」


歪んだ顔。
そんな顔をさせたかった訳ではない。


「一騎……」


吸い寄せられるように薄く開いた唇に近づいた。
温かい。

ずっと触れたかった。


「ん……」


小さく零れた声すら愛おしい。

左手で一騎の頭を固定する。

深く。
もっと、深く。

歯列をわって、奥へ。

温かい。


甘い。

こんなに甘く、甘美なものなのか。


「はッ……そぅし、、」


少し唇を離すと、朱が差した頬があった。
潤んだ目。


「な、んで?」


乱れた呼吸で一騎が問うた。



「……わからない」



わからない。
だが、この感情に名前があるとしたら。



“  ”


なのだろう。



End



初☆総士視点です。
最後は、好きな言葉を入れてあげてください←



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