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□春を待つ
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渡したかった。


死が誰より近かったけれど。

でもどこか大丈夫だと思っていた。

いや、思いたかっただけかもしれない。








あの日を迎えることが待ち遠しくて、彼のことを思って作っていた。

寒い日が続くから。
他人の体調管理は厳しく言う癖に、自分には無頓着。下手をすると、食事も睡眠も忘れるほど。



ネイビーブルーの毛糸で作り始めたマフラー。
最初は、気恥ずかしくて迷いながら編み始めた。
初めての挑戦は、遠見先生の手ほどきを密かに受けながら始まった。


始めは編み目が揃わずに、何度も解いては編み直しを繰り返した。

秋の始めから作り始めて、終わる頃にはきれいに編めるようになった。

いざ本番と、マフラーを編み始める。
意外に楽しくて、きれいに幅も揃ってこれなら大丈夫と自画自賛して編んでいく。

竜宮島の冬は雪が降る。
春夏秋冬、四季折々を大切にしている為にそれはあると言っていた。

喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えながら。


「………少し長すぎたか」


編んでいるうちに夢中になりすぎたのか、予定よりかなり長くなってしまった。
二重に巻いてもまだ余りそうなほど長い。


「………まぁ、短いよりは」


ましだろう。
完成したネイビーブルーのマフラーを目の前に垂らす。

ぐるぐると巻いて紙袋に入れた。


「Happy Birthday」と手紙を書いてを添える。



ベタで、在り来たりかもしれないけれど、精一杯の気持ちを込めた。





だけど、そのプレゼントは渡されることはなかった。
帰ってこれなかった。
助けられなかった。

一人置いていってしまった。

自分だけが助かった。


黄金の敵。


失った。

渡される事のなくなったこのプレゼントだけが、手元に残った。


「なあ、誕生日はとっくに過ぎたんだぞ」


帰らない。
主のいなくなった部屋。
そこだけは、ずっと代わらずに同じ空間があった。

ただ、この部屋は誰もいない。


「これ、どうするんだよ」


誕生日は特に過ぎて、春になって、

夏を迎えて、秋になる。

そして再び冬が訪れても、


この部屋は主を失ったまま。




「ねぇ、そうし……」


紙袋を抱きしめると、ぐしゃりと潰れた。
渡される事のないこのプレゼント。


「もう、待つのは……」


ベッドの上、静かに抱きしめる。

ネイビーブルーは見えなくなった。
赤い目からも、涙は流れた。




渡したかった。

そのとき、あなたはどんな顔で受け取るのだろう。



「ねぇ、また春が来るよ……」




End



暗ッ!!!
ここまで暗くなるとは思わなんだ……
長いマフラーネタで盛り上がった事を思い出して書き始めたはずかι

早く帰ってこいや、総士←←






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