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□signal
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気のせいなのだろうか、最近一騎がよそよそしい。


あれだけべったりとくっついてきたのに、ここ数日まったくと言って良いほど一騎と話していない。
会話は普通にしているのだが、ごく普通の世間話まで…というよりも、事務連絡的なものが多い気がする。

なにか、怒らせることをしただろうかと思考を巡らすが、思い当たる節はない。

ある日突然ぱったりと。

いや、それまでが異常なまでに傍にいた気がする。
あちら側から帰ってきて、再会しそれ以来ずっと。

つねに一騎はにいた。
いろいろ事情が事情だった為に、忙しかった所為もありアルヴィスの中を行き来していた。
そのときも、一騎は後ろを着いてきていた。

まるで刷り込みされた子鴨みたいで可愛らしかった。


時々立ち止まって後ろを向くと、少し驚いた一騎の赤い目が慌てていて。
思わず抱きしめたりしてしまったり。
そうすると、更に驚いてあたふたしたしたり。




なのにだ。
最近まったく一騎に触れていない。

接触を試みようとするときに限って、誰かしらの邪魔が入る。
一騎から用事があるからと言われる始末。

妨害されているとしか思えない。



あれだけ一緒にいたにも関わらず、避けられてさえいるのは納得も行かない。

何かこちらに非があって、怒っているのならば言えばすむことではないだろうか。

今日もまた一騎は用があると、話しかけようとした瞬間に行ってしまった。

もうそろそろ我慢も限界にきている。

除け者にされることも、理解されないことも承知してはいるが、一騎にまでされるとは。



アルヴィスの中を歩きながら悶々と考えていたら、ふと足が止まった。


自分の思考の中にあって、無意識すぎて意識していなかったことを意識してしまったことに。

たどり着いた結論に。



「ハハハ…」



歩みを止めて出た答えは、すべての言行を示していた。


「一騎、遠見。いるのだろ?」



物陰に隠れていた二人が顔を出す。
気まずそうな一騎と、呆れた遠見の顔。



「おまえの入れ知恵だな」

「そうだよ、皆城くん」


悪びれもない遠見は、流石天才症候群の能力といったところだろう。
見抜く力は伊達ではない。一騎の運動能力と合わせれば、気配を読んで行動することもたやすいに違いない。


「やれやれ、やっかいな組み合わせだな」

「…あの、ごめんな…総士」

「一騎が謝ることないんだよ! 元はといえば皆城くんの所為なんだから!!」

「……まぁ、今回は完全に僕が招いた事態だがな」

「おかげで気づけたでしょ皆城くん」


にこりと笑う遠見に、やはり彼女にはかなわないと苦笑いするしかない。


「どういうことなんだ…?」


一騎だけが会話について行けていないらしい。
自分自身のことなのに、一騎もその感情には気づいていなかったということらしい。

本当に遠見だけには頭が上がらなくなりそうな気がしてきた。


「一騎くんはもっと皆城くんとお話したほうが良いね」

「え、でも遠見が距離を置いた方がって」

「うん。でもやっぱり一騎くんには皆城くんが必要みたいだしね。皆城くんにもね」


トンと遠見は一騎の肩を押した。
一騎を抱き留めると、はっと気づいて離れようとする。
もちろん離してはやらない。


「なッ、総士!?」

「なんだ?」

「なんだじゃないだろ!?」

「やっぱり、一騎くんと皆城くんは二人一緒じゃないとね」

「遠見!?」


くすくすと笑っている遠見に、一騎の顔が赤くなる。


「それじゃあ、私は行くね」

「なにか返さないとな」

「んー…良いってそんなの」


遠見は手を振って去っていった。
とても嬉しそうな彼女。
やはり、頭が上がりそうにない。




「あの、総士?」


居た堪れないといったように、身じろいだ一騎が顔を見上げてきた。

ああ、やはりこの顔だ。


あまりにも近くにいすぎて、気付かなかった事。
いや、気付いていたのかもしれないが、分かろうとしなかった事。


隣にあたりまえにあった存在がこれほど大きかった事。


離れていた間、戻ってくる事に必死になって、何のために戻ってこようとしていたのか忘れていた。

一騎はずっと待っていてくれたというのに。


一騎が何も言わずに、隣にいたのは何のためだったのか。

一騎自身が無意識だった所為でもあるのだが、気付いてやれなかった。



「一騎。思ったことは言ってくれ」

「どう言う事だ?」

「僕は、遠見とは違って察する事は得意ではないのだからな」

「…うん」


おずおずと一騎の腕が背中に回った。

温かい腕だった。

ずっと伸ばそうとしていた手。

僕に向けられようとしていた腕。


どうして一騎は後ろにいたのか。

少し後ろにいて、何を思っていたのか。


「ちょ、いい加減離せよ」

「いやだ」


構って欲しいのに、言わなくて。
構うと嫌がって、離れようとする。

しかも、これが意としないところだから、本人は気付いていない。


「おまえは、本当に面白いな」

「な、なんだよそれ」



ぷくりと頬が膨れる。
その仕草も可愛らしい。


解り難い一騎なりの、サイン。



「愛してる」

「な!? なんだよ、いきなり」

「一騎はどうなんだ」

「そ、それは……」


小さくて聞き取り難かったが、懸命に伝えようとしてくれる。
この大事な存在を失わないように。





End


ツンデレな一騎にしようとしたのに、撃沈orz
なんだかよく解らないものが出来上がりました。
まあ、いつもなんですがね


総士は、一騎が自分のそばにいることが当たり前で、なんでも分かっていると思い込んでいるのですが、それは当たり前ではなくて、
もちろん、一騎の気持ちすべてを見抜けるなんてことは不可能なんですよね。

しかも、一騎はどっちかと言うと自分の感情を押し込めてでも、総士と同調するだろうし。

真矢ねえさんは、「一騎くんのこともっと見ろやこの野郎」的なことが言いたかったんです。

解説と言う名の長い言い訳おわり。



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