蒼穹
□眠り姫
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「寝てる……のか?」
珍しくソファで転寝をする姿を見つけた。
*眠り姫
お風呂から上がったばかりの一騎は、髪をタオルで拭きながらリビングに入った。
総士が帰ってきてから随分と時も過ぎた。もうすっかりと目も元通りになったし、今までずっと手入れだけはしてきた皆城の家に、一緒に住むことになった。これは、本当に成行きに過ぎないけれど。おそらく、父親と遠見先生の仲が上手くいった所為が大きい。
仲良くやってるかなぁ。ぼんやりとそんなことを考えながら、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出した。
「総士、お風呂あいたぞ。お前も早く入ったら……」
コップに水を注いで、ちらりとソファの飴色の髪を見る。ソファの肘掛に頬杖を付いているその長い髪が、さらさらと肩からすべり落ちていた。ぱたん、と膝から読みかけらしい本が落ちる。
「寝てる…のか?」
一騎はコップを持ったまま、ソファに近づいた。俯いた総士の顔を覗き込む。長めの前髪が顔に掛かって、影を作っていた。
総士の寝顔を見るのは、久し振りな気がする。いつも一騎のほうが先に寝てしまったり(ダウンさせられるとも言う)、起きるもの総士のほうが早かったりで、あまり見る機会がない。総士の所為といえば、そうなのであまり気にしないのけれど。
じっとその顔を見る。気配に敏感な総士が、こんなにも近くにいるのに気付かないことは本当に珍しい。そんな珍しさもあってか、じっと一騎はその顔を観察する。
総士はとても整った顔立ちをしている。妹の乙姫もそうなのだが、美形という言葉がこれほどぴったりとくる人は中々いないだろう。もっとも、乙姫は年齢もあるが可愛いという言葉のほうが合っているが。
前髪をそっと避ける。左目にはいまだに傷跡が残っていた。随分と薄くはなったけれど、綺麗すぎるその顔にはあまりにも不釣合いだった。
指先でその傷を辿る。ぴくりと瞼が動いて、一騎はさっとその手をのけた。
すうすうと規則正しい寝息に、ほっと息をつく。
「おどかすなよ……」
そこに触れていた人差し指が、つんと鼻を突く。微かに開いた唇に、一騎は吸い寄せられる。だけれども、あと少しの距離がどうしても躊躇いを産む。吐息を感じるその距離に、一騎はさっと顔を逸らす。けれども、自然と身体が求めるように動いていく。
ソファに手を付いて、どんどんと距離は近くなる。ためらい勝ちに進む距離はなかなか狭まらない。あと数ミリのところで、一騎はやはり顔を背けた。
「…やっぱ、むり」
「何が無理なんだ?」
「え、わ――ッ!?」
ぐいと腕がとられて引き寄せられる。このままでは押しつぶしてしまうと、一騎は身を捻ってソファの背もたれにつかまった。目を開くと、総士の視線とぶつかる。近づいてきた唇が触れて離れた。力が抜けて、ずるずると支えていた手が落ちていく。
「お、起きてたのか!?」
「普通、起きるだろ?」
「あんなことされたらな」と耳元で囁かれて、一騎の顔がますます赤くなる。身体を支えるのも限界に来ていた手が、へなへなと落ちた。意外に強いの力で、抱きしめられる。
「で、何が無理なんだ?」
「……いや、べつになんでも」
見つめられると何も言えなくなる。俯いた一騎に、総士はくいと顎を持ち上げられた。まっすぐに見られることに耐えられなくなった一騎は、視線を彷徨わせる。
「どうせまた、この傷のことだろ?」
一騎の捉えた右手を、そこに導く。中指が傷を軽く辿った。
とっくに痛みもなくなって、消そうと思えばいつでも消せるといっていたその傷。だけれども、総士は消さないと言っていた。
これは、己を己だと認識させるものなのだと。同時に、絆でもあると。
「おまえが嫌なら、コレは消してしまおうか?」
その言葉に、一騎は首を振る。俯いた視線が、その傷を見た。
一騎の唇がそこに近づく。なぞるように口付けて、視線が重なった。
「…消さなくて、いい。そのままで……」
「そうか……」
掴まれたままの右手が、総士の指と絡まる。自然と唇が重なった。薄く開いた隙間から、温かい舌が入ってくる。
絡まったお互いが、溶けてしまうほどの温度。呼吸の狭間で、名前を呼ぶ。
お伽噺の眠り姫は、100年の時を一人で過ごしたという。
だけれども、そんな長い時間待ってはいられない。
もしまた離れなければいけないときが来ても、きっと茨を跳ね除けて探し出す。
きっと、その傷が導いてくれる。
End
昨日のスッキリでやってた、キスシーンのDVDをネタにしたんですが……なんか、別の話しになりました☆←←←
一騎はお姫様よりも王子様のほうが似合う子だと思います。皆城さんは姫です。
一総は、基本的に苦手なので書きませんがね。
姫が王子襲う話しだったら書きたい←←
眠り姫といえば、TOHを思い浮かべてしまう……リチアちゃん(;□;)