蒼穹

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※学パロ





この感情に名前をつけてしまった瞬間に、僕は冷静ではいられなくなってしまうのだ。



本来の一騎は、明るくて感情豊かだった事は知っている。それが変わってしまったのが、自分の所為だということも。
左目に出来た傷は、僕から視力を奪っていった。それと同時に、一騎の何か大切なものまでも奪ってしまった気がする。伏せ目がちで、人と距離を置くようになったのはきっと僕の所為だった。
幼い頃の未熟すぎた心では、僕も一騎もこの傷に対処することはできなくて、わざと距離を置く事でしか、お互いを保つ事が出来なかった。それが一層、一騎を追い込んでいったことも知らないフリをして。一騎が負い目を感じていたことを知っていて、わざと突き放して、幼い僕は優越感に浸っていたのだと今なら分かる。

とっくの昔に痛みは消えて、恨みや憎しみなんてものは存在しないことも気付いた。
あるのは、喪失感と空虚感だけ。
いつも隣にいてくれた存在が、どれほど大きいものだったのか思い知らされる。


ぽっかりと空いた隣の席は、今日も埋まらないままだった。


ガラリとドアが開けられる。
黒い髪と、伏せられた顔。お互いをみることはなく、朝のホームルームは進んでいく。

頬杖を付いて、空を見た。空の色は、あの日あの場所の空の色と同じ色をしていた。
だらりと落ちてくる髪を耳にかける。あの日以来伸ばし始めた髪は、随分と長くなった。始めは傷を隠す為だったけれど、今ではそれほど深い意味はない。


「では、このプリントをまわしてください」


先生のその声に、前から回ってきたプリントを受け取る。
内容は、進路について。
隣の席をちらりと見る。純粋に一騎がなんと書くのか気になった。
白紙のままのそれ。シャープペンを持ったままの手が、動く事はなかった。


「書けた人は提出。書けなかった人はじっくり考えて、明日までに提出してください」


先生の言葉に、一騎はシャーペンを置いた。机の端に置かれたシャープペンが、少しの振動でコロコロと転がって床に落ちる。僕の足元にきたシャープペンに、一騎はまだ気付かない。


「これ、落ちたぞ」

「え、あ……」


黒い髪の間から見えた目は、記憶の中よりも大きい。
僕の手元を見て理解した一騎は、シャーペンへと手を伸ばす。オレンジ色のシャープペンは、よく見れば幼い頃、一緒に買いにいったものだった。色違いのものが、僕のペンケースの中に入っている。


「あ、りがと……」


一騎の手が、僕の手に触れる。その手は一瞬で離れていこうとして、僕はふいにそれを掴んでしまった。


「え?」

「あ、いや……すまない」

「ありがとう……総士」


するりと離れていった手とチャイムの音が重なる。
ばたばたと走り去った後ろ姿を見送って、僕はペンケースを開けた。
おそろいシャープペンの色は、青色。

汚れてしまったその青色のシャープペンは、捨てる事のできないもの。





“慌てて離した手”








その行動の意味を理解するのはもう少し先。






to be continue...


設定がいまいちよく分かり難い……
普通の学生の総一です。一騎が総士に傷を負わせたことをだけを盛り込んだもの。

お互い不器用すぎるゆえに出来た距離。総+一ですかね?

5に続きます。







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