蒼穹

□Nature
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風と海の音。

潮と木々の匂い。



*Nature




竜宮島の全てが見渡せる山のてっぺんに一騎はいた。
視力を失ってから、ここに登ることはなくなっていたが、久し振りに登りたくなった。
見ることを失った赤い目は、今はすっかりよくなって、視界にははっきりと竜宮島のすべてを映し出している。


「空の青。海の青……」


同じ青い色でも、それはまったく違って見える。きっと、失う前には気付かなかった事。
細波の音が聞こえる。木々の擦れる音も。よりいっそう、聞こえる気がした。


「ちゃんと、おまえは戻ってきたんだな」


長い髪の幼馴染を思う。
相変わらず、不器用そうで表情も硬くて。一騎が言えたことではないけれど。


「何を言っている。僕の帰る場所はここだ」


風に靡いた長い髪を、総士はうっとうしそうに掻き揚げた。綺麗な飴色の髪だった。もしかしたら、記憶にあるより長くなっているかもしれない。


「二年間も、お前はいなかったじゃないか」

「それは……仕方がないだろう」


ばつが悪そうな顔を見て、思わず吹き出した。そのわけは、自分が一番知っている。
隣に立った総士は、珍しく私服を着ていた。久しく見ていなかったその姿に、なんとなしに平穏を感じる。もしかしたら、それは束の間なのかもしれないけれど。

いまあるこの平穏を、守りたい。きっと、二人なら。



「総士……おまえ、背伸びたのか?」

「そりゃ、二年もたっているからな」


立ち上がって視線を合わせると、記憶の中よりも総士の背は伸びていた。自分も伸びているはずなのに。


「不服そうだな」

「……俺だって背は高くなりたいさ」

「それは残念だったな」


少し笑ったその顔に、思わず手が出た。パシンとその手は受け止められてしまう。少しむっとした顔で総士を見た。


「おまえの行動は、だいたい予想できる」

「なんか、ずるいな」


さーっと風が舞い上がる。一緒に木の葉も巻き込まれて、思わず総士は目を瞑った。風がやんで、目を開ける。目の前には一騎の顔があった。


「近いぞ」

「驚いたか?」

「まあ、驚いたな」

「そうか!」


一騎はにこりと笑った。総士の記憶の中にある顔とは、少し違っている。どこか、柔らかくなったその顔。


「一騎」

「なんだよ、そ――ッ」


総士は一騎の腕を引っ張って、腕の中に引き込んだ。驚いた顔で、ぽかんとしている一騎にキスをする。見る見るうちに目がまんまるになって、一騎は顔を赤くした。


「驚いたか?」

「おッ!! そりゃ、驚くだろ!?」

「そうか」


触れられるその温かさは本物で、記憶の中と変わらない。
やっと触れることの出来た喜びと、記憶と同じあたたかいその声。

どこかぽっかりと穴が空いたような気持ち。
欠けたパーツが元に戻ったようで。
埋められていく。


「おかえり、総士」

「ああ、ただいま」


何度でも、その言葉を口にしてしまうのは、きっと……

もう、どこにも行かないで欲しいから。


ちがう。


この気持ちを忘れたくないから。







end



初心に帰って……?
久々に、天地を見たからでしょうか。やっぱりいいですよねー
総士と再会したときの一騎の顔が、ものすごく嬉しそうでホント可愛すぎる!!
あそこまでの笑顔って、なかったですよねー
どんだけ総士大好きなんだキミは!!

ホントに次いなくなったら、一騎発狂しますよ皆城さん。










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