蒼穹
□call name
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“僕の名前を呼ぶ。
ただそれだけで、僕はお前に……”
*call name
「どう……した…んだ、そぉし?」
少しかすれた声。素肌にシャツ一枚だけを羽織った一騎は、いくら暖かくなったとはいえ風邪を引いてしまいそうだった。
ふわぁと欠伸をする一騎の頭を撫でてやると、ネコのように目を細める。黒く触り心地のよい髪に口付けた。
「なんでもない」
事情の後で、疲労が残っているだろう身体をベッドに寝かす。白く滑らかな肌に、先ほどつけた赤い痕が所々に散っている。
目を擦る一騎の手を取ると、不思議そうな顔をした。指を絡めると、ぎゅっと一騎は握り返す。僕の肩から滑り落ちた髪が顔に掛かって、一騎は擽ったそうに僕の髪を握った。
「一騎」
「ん?」
赤く色付いた唇に舌を這わせると、薄くその唇が開く。あれほど口付けを繰り返したはずなのに、飽きることなく行為を繰り返す。くぐもったその声に、接吻を深くする。
滑らかな肌を手でなぞると、ぴくりと身体が反応した。潤んだ瞳に僕が映る。
「そぉし……」
くんと髪を引っ張られる。ふにゃりと笑う一騎の顔は、普段よりも幼く見えた。
一騎の手がこちらに伸ばされる。その両手に吸い込まれるように、一騎を抱きしめた。春の外気に触れていた身体は、冷えてしまっている。枕に散った黒髪も。
「寒くないか?」
「もう、さむく…ない、かな」
擦り寄ってくる一騎の頬が、胸元に当たる。
肌に当たった温度が心地良い。熱伝導のように流れて、同じ温度になっていく。
「なあ、総士」
「どうした?」
一房流れた僕の髪を、一騎は手の中でくるくると遊ばせている。指で絡めた髪がするりと逃げて、一騎は僕を見上げた。
「今が、幸せすぎて……不安になる。おまえがまたいなくなったら、俺はきっと耐えられない」
「一騎……」
帰る場所を守ってくれていた肩は、こんなにも細く頼りない。いくらほかにファフナーに乗るものがいたとしても、一騎がいなければきっとこの島は破壊されていただろう。
「おまえは、ここにいる。もう、失いたくない」
一騎の言葉に頷くことはできない。この平穏がいつまで続くのかは、まだ分からないのだから。
もしかしたら、このまま何事もなく僕らは大人になることができるかもしれない。そうなれば、もう一騎はファフナーに乗らなくてすむ。そう考える事は、短絡的だろうか。
「一騎、僕は――」
一騎の指が唇をふさぐ。その指が離れた後に抱きしめられた。
「ごめん、総士。おまえはここにいるのにな」
結局はどうすることも出来ない。やって来る未来を予想して備える事はできても、回避する事ができるのかさえも分からない。その分からない未来に、怯える事はもしかしたら随分とおかしなことなのかもしれない。
「一騎。おまえも、ここにいる」
抱き寄せて、抱きしめ合う。
あたたかく心地良い居場所。同化では得る事のできない場所。
いつか、やつらにも分かるのだろうか。
「一騎、名前を…呼んでくれないか?」
「なまえ……そぉし、そうし、総士」
「もっと」
「総士、総士、そぉ……なんか、恥ずかしいな」
「だったら、僕も呼んでやろうか、一騎」
耳元で、名前を呼び合う。
そんな戯れも、ずっと続けられれば良い。
切に願わずにはいられない。
End
どうして、こいつらはどこか影を付けたくなるのだろうか……
完璧に幸せにはなれない感が漂う総一
それが総一クオリティー←←←