蒼穹

□夏の気分はきまぐれ
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意味もなく触れていたくなる。
暑さなんて、関係ない。



*夏の気分はきまぐれ





じめじめと暑い季節。梅雨もまだ明ける気配もなく、過ごし難いことこの上ない時期。
竜宮島の梅雨も例外なく、日本古来のそんな季節だった。島の空気になったというミールも、どうせだったらこの時期ぐらいは書き換えても良かったのではないかと思う。


「暑い……」


今日も今日とてうだるような暑さ。雨が降ればまだ増しなのかもしれないが、昨日降った雨によって湿度がました今日は暑さにプラスされて湿度が不快度数を急上昇させていた。
ここがアルヴィスの中であったなら、外の気候となんの関係もなく、一定の湿度と温度を保っている。
だけれども、それが学校ではそうはいかない。当然のように、空調を調節するようなものが置いてあるわけもなく、教室はむしむしとして蒸すような暑さだった。
が、総士が感じるこの暑さの原因は、なにも気候だけの所為じゃない。生徒会室で仕事をしていた総士を襲った暑さ。それは、背中にぺったりとくっ付いている一騎の所為であった。しかも、引き剥がそうにも頑固にしがみ付かれて取れそうもない。その上、ぎゅうぎゅうと締め付けられる始末。


「一騎。いい加減、暑いのだが」

「……やだ」


こんなやり取りと、かれこれ一時間ほど続けている。総士だって、一騎が抱きついてくるのが、嫌な訳ではない。だが、この暑さゆえに密着したこの格好は、冗談抜きで暑いのだ。
ぴったりと隙間なく背中にくっ付く一騎の心臓の音が伝わってくる。汗で張り付いたシャツ越しに。自分の髪が長い事が、これほど煩わしくなった事はこれまであっただろうか。
自分の腹の前に回された一騎の腕に視線を落とす。がっちりと汲まれていて、解けそうもなかった。


「で、一騎どうしたんだ?」

「……なんでもない」

「なんでもないのなら、そろそろ離れろ」

「総士は、俺に離れて欲しいのか?」

「……少なくとも、今は」


何度目かのやり取り。すると、一騎は意外にもあっさりと離れていった。背中に感じていた熱が急になくなる。汗でじっとりとした背中が急に物悲しく涼しくなる。背中に張り付いてしまった髪を掻き揚げて振り返る。一騎を見ると、明らかにふて腐れている。その分かり安すぎる態度に、総士はくすりと笑った。


「な、なんで笑うんだよ!」

「いや、僕に構って欲しかったのか?」

「なっ!? う、ん……」


図星を突かれた一騎はみるみる真っ赤になった。こくんと頷いて顔を見られたくないのか、顔をおもいっきり逸らす。一騎は、赤くなった顔を隠すように腕を上げた。


「……なら、最初からそういえば良いだろ」

「言えるんだったら、言ってる」

「それもそうだな」


顔を隠すために上げたその腕を、総士は掴んで引き寄せた。抱え込んで腕の中に収め込む。黒くて癖のすくないその髪を手で梳くと、一騎は背中に手を回してきた。ぴたりと、丁度心臓の辺りに呼吸が当たる。心地よく感じてしまう体温。じんわりと密着した箇所に汗をかく。だがしかし、それも悪くはない。


「暑くない?」

「暑い」

「なら、離れようか?」

「……嫌だ」


形勢逆転。くすくすと笑う一騎の声が聞こえた。
むしむしじめじめとして、不快なことこの上ない。流れる汗が背中を伝う。
外では、蝉の大合唱。ぴたりと密着して、うるさいほどに聞こえる心臓の音にはどうやら負けるらしい。


「やっぱ暑い!!」

「どっちなんだ、お前は」




End

クソ暑い中いちゃつく総一。
見てるこっちが暑くなります。でも、引っ付きたい気分の一騎さんです。
竜宮島の皆さんは、暑さ強そうですけどね。





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