蒼穹

□夏のにおい
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今年もまた、U計画の時期がやって来た。今はもうない、日本の伝統を今に残す竜宮島の盂蘭盆の季節だ。




*夏のにおい




島中が、祭りの雰囲気でどこかそわそわとしだす。今年はどんな屋台がでるのか、カラオケ大会の出場者は誰なのか、くじ引きの景品はなんだろうと。
第二次蒼穹作戦以降、フェストゥムの襲撃もぱたりとなくなった。そこから1年がたった今、島は再び平和を取り戻しつつあった。


「一騎くん。今年は浴衣着てよね」
「え、ああ……気が向いたら」
「えーなんで! 皆城くんも、操くんだって、一騎くんの浴衣姿見たいよね、ね!?」
「ユカタ? 真矢なにそれ??」


何故だか、ちゃっかり島に残った操は、もうすっかりこの島に溶け込んでいた。
真矢の浴衣の説明を真剣に聞いていた操は、子供のようにキラキラと目を輝かせ始める。


「俺も浴衣着たい! 一騎と総士とおそろいする!!」
「こうなったら一騎くんも皆城くんも、着るしかないよねー。私、お母さんに着付け頼んでくる」
「遠見!?」
「じゃあ、夕方に三人で家にきてね」


にこりと笑った真矢は、さっさと家のほうへ行ってしまった。
残された一騎は、ちらりと総士のほうを見る。日本の夏特有のむしむしとした暑さの中、総士は涼しそうな顔をしている。


「おまえ、浴衣持ってたか?」
「たしか実家に置いてあるはずだ」
「あ、俺浴衣持ってない」
「俺が貸してやるよ」
「やったー。一騎ありがとう」


操は、ぎゅうと一騎に抱きつく。人間のような形をしていても、構造はまったく違う操の身体は、ひんやりとしている。


「おまえ、気持ちいな」
「え、そう?」


ぴたりと引っ付いてきた操に、一騎も身体を寄せる。操の身体は、こちらの体温が移らず、冷たい抱き枕のようだった。


「来主、今夜一緒に寝るか?」
「一騎んちでお泊り!? するする!!」
「……おまえら、浴衣取りに行かなくていいのか?」


表情の変化に乏しい総士の顔が、不機嫌になっている。親しいものにしか分からないような微妙な変化だが、一騎にはよく分かる。


「羨ましいのか?」
「僕が何を羨ましがると?」
「……俺が来主を独り占めしてるのを?」
「違うよねー総士。俺が一騎を独り占めしてるのが、羨ましいんだよねー」


にこりと笑う操に、総士は一瞬目を見張る。はあとため息を付くと、総士はすたすたと歩き出した。操は、あははと笑って総士の後を追いかける。


「来主、あんまり総士を苛めるなよ」
「んー。天然な一騎も悪いと思うけどね。総士は大変だねぇ」
「……来主、あんまり調子に乗ると今日の祭に連れていかないからな」
「えー総士のいじわるー、一騎と二人っきりになりたいからって、俺を邪魔者扱いするな!!」
「な、違う! 僕はそんなこと考えてない!!」


自分の左手をぶんぶんと振り回す操に、総士は振りほどこうと手を掴む。操は負けじと、今度は腕に抱きついた。
島中探しても、総士にそんなこと出来るのは操ぐらいしかいない。それを考えると、思わず吹き出してしまう。


「一騎、笑ってないでコイツをなんとかしろ」
「いいじゃないか。仲良しっぽくて」
「総士と仲良しはいいけど。俺は一騎と仲良ししたい」
「おまえはもう黙れ」
「ほんと、お前ら仲良いな」


一騎は総士の右側に並んだ。あいている総士の手を掴むと、操と同じひんやりとしている。けれど、すぐに一騎の体温がその手に移って、温くなる。


「俺と同じ」
「何がだ、一騎?」
「なんでもないよ」
「というか、来主いいかげん腕を離せ、重いだろうが」
「じゃあ、質量を変えればいいの?」
「そういう問題じゃない」


じんわりと汗をかいた手は、それでも離しがたい。
浴衣を着て、みんなでお祭に行って、屋台を楽しんで。去年は楽しめなかったことが、今年は楽しみで仕方がない。


「一騎、浴衣は何色?」
「紺と茜色があるぞ。どっちがいい?」
「んーじゃあ、俺は紺色がいい」
「分かった」


浴衣は確か、父の部屋の箪笥にあったはず。去年は着ていないから、下の方になってしまっているかもしれない。


「総士の浴衣は?」
「たしか、深緑だった気がする」


空を見上げると、太陽はまだ天高く昇っている。日はまだまだ落ちそうにない。日陰を歩いていても、それぐらいでは暑さは少しか和らがない。


「総士、暑くないのか?」
「暑いな」
「手、離す?」
「一騎のしたいようにしろ」
「あ、そう」
「じゃあ、俺もこのままー」
「おまえは離せ。今すぐに離れろ」
「やだよー」


手は繋いだまま。
去年は考えられなかった光景。
フェストゥムとの戦いで、犠牲になった人は大勢いる。竜宮島の人々だけではない。世界中でもたくさん。
お盆には、死者の霊がふるさとへと帰ってくると言われている。
きっとみんな、竜宮島に帰ってくる。


「楽しみだな。お祭」
「俺、やきそばとたこ焼きとカキ氷とわた飴と――」
「どんだけ食べるんだよ、おまえ」
「あ、盆踊りもやる!」
「翔子や衛たちも来るかな?」
「もしかしたら、来てるかもな」


浴衣を着て、みんなで騒いで、そしてまた帰っていくのだろうか。
竜宮島の夏は、今年も暑くて変わりない。





End


久々すぎて、書き方を忘れています。どうしましょう。
総一……と言っていいのか、一騎と総士と操の親子っぽい話になってればいいなと。
天地から1年後の話です。
ところで、エグゾって今年やるんですかね? 来年ですかね? そして、公式ラジオはどうn(ry




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