蒼穹
□特権は有効活用
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いつの間にか、夏の気配はすっかりと消えてしまっていた。
朝の冷えた空気は清々しい。
一騎はこの空気が好きだった。思いっきり深呼吸すると、冷たい空気が全身を巡る。
「気持ちいいなー」
どこまでも澄んだ青空はすっかり秋めいている。もう少ししたら、吐き出す息が白くなるだろう。
「そろそろ起こすか」
昨日、総士は晩ご飯を一緒に食べて、そのまま真壁家泊まっていた。
総士は放っておくと、ご飯もまともに食べないで仕事に没頭する。あまりにもそれがひどすぎて、今ではもう総士の体調管理は一騎にかかっていると言って良い。
真壁家に半居候中の総士は、今はまだきっと布団の中だ。
「寒いの苦手って、ほんと見た目通りなやつだよな」
低血圧気味で朝にも弱い総士にとっては、これからの季節は常に苦行のようなのだろう。
さて、今日はどうやって起こしてやろう。
自分の部屋のベッドの上は、やっぱり布団がこんもりとしている。頭の先まですっぽりと布団を被って、隠れ損ねた色素の薄い髪が見えている。規則正しく上下する白い塊に、どうしてやろうと一騎は思考を巡らす。
「総士ー朝だぞー」
試しに声をかけてみるも、当然のことながら反応はない。これはもういつものことなので気にしない。
「おーい。学校遅れる」
ゆさゆさと布団を揺さぶる。
当然だが反応はなし。
今度はきつめに叩いてみる。
だけれども、もぞもぞと身じろぐだけで総士は布団から出てこない。それどころか、さらに布団に潜り込んでしまった。
「おーい。朝ご飯食わないのか?」
ぴくりと白い塊は潜るのをやめて、もぞもぞと動き始める。総士は蓑虫のように顔だけ外に出すと、眠そうに欠伸をした。
「おはよう」
「・・・かず、き・・・・・・」
かろうじて反応はしているが、目は今にも閉じそうになっている。これでは、指揮官の威厳もあったものじゃない。
「学校。遅れる」
「・・・う、ん・・・・・・」
その声を最後に、寝息が聞こえる。気持ちよそうなその寝顔に、つられてしまいそうになる。
「こら! 起きろぉおおお!!」
「うわっ!?」
ばさりと布団を剥ぎ取って、外気で冷えた手を背中に入れ込んだ。よほど冷たかったのか、思いの外大きい声に一騎も驚く。
「一騎・・・おまえ・・・・・・」
「あ、起きたか?」
にかっと笑ってみせたら、ものすごく渋い顔をされた。裾から手を突っ込んだままでいると、総士はごろんと転がる。そうすると、自然に一騎まで巻き込まれて総士の上に倒れ込む。
「何するんだよ!」
「それはこっちのセリフだ」
総士の腹の上に乗り上げている一騎は、そこからどこうとしても挟まれた腕の所為で動けない。
総士を上から見下ろすのはなんだか新鮮で、照れくさくもある。
「一騎はあったかいな」
「おまえの体温が低いんだよ」
いつの間にか腰に手がまわって、ピッタリと身体がくっついていた。
完全に総士に乗り上げている。
「おまっ、離せ!」
「嫌だ。一騎、僕の湯たんぽになれ」
「はぁ!? ちょ、ご飯食べる時間なくなる!」
「あと5分なら大丈夫だ」
時計を見ると、確かにあと5分ほどならば、遅刻はしないだろう。
力ずくで腕ひっぺ返すことぐらい出来るけれど、まああと少しならば湯たんぽぐらいなっても良いか。
こうしてくっつかれるのは嫌いじゃない。というより、甘えられているのが
嬉しい。
「5分たったら起こすぞ。起きなかったら置いていくからな」
返事はない。
もう寝息が聞こえている。男一人が乗っているのは、重くないのだろうか。
顔をのぞき込むと、何とも幸せそうな顔をしている。少し幼く見えるその顔は、でもやっぱり綺麗で見飽きない。
「おまえ。この顔ほかのやつに見せるなよなー」
さて、あと4分ほど。
皆が知らない総士の顔を独り占めするのは悪くない。
「俺まで寝ちゃいそうだな」
まあ、一度くらい遅刻もいいかもしれない。
*特権は有効活用
この権利は誰にも譲ってやらない。
end
一騎の肉布団とか羨ましすぎて、皆城ギリィっ!!
きっと一騎たんは体温高い子なので冬は、皆城専用湯たんぽなんです。
人目はばからず一騎たんぎゅうしてれば良いんだ皆城めっ!!←