book4
□最高の日
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出勤すると、デスクの上に謎の張り紙がされていた。
パソコンの画面に張られている紙には、「1029」の文字。
「なんだこれ」
一応これでも、オーブではかなり位は上にある。こんな悪戯をされるような覚えも・・・・・・
「あいつらか」
ないと否定しようとしたところで、自分では到底適わない三人の顔が横切った。国のトップというより、もはや世界中を牛耳っているといっても過言ではない二人と一人。
そういえば、ここまで来る間にすれ違った人達が妙によそよそしかった気がする。
やたらと目をそらされて、苦笑いで挨拶された。
「あいつら。またなんかやらかしたのか」
張り紙を剥がすと、デスクトップにパスワードを入れろという文字が点滅している。
オーブ上層部のそれも最奥の執務室は、厳重なセキュリティで守られているはずだ。国の重要機密だって保存されているパソコンに、こんな手の込んだ悪戯を仕掛けようとする意味が分からない。
「まったく。何を考えているのやら」
そう思いながらも、素直にその悪戯に乗っかろうとしている。人が良いなと自分で褒めてやりながら、パソコンにパスワードらしき「1029」を入力する。
こんな稚拙でも、もしも罠だったらと考えないのは、この手書きの張り紙がどう考えても幼なじみの筆跡だからだ。
Enterキーを押すと、動画が再生される。
なぜかイスに縛られたキラの姿が映し出される。目隠しされたキラに隣には、よく分からないキャラクターの仮面をつけた二人が立っている。顔は隠れているが、ピンクの長い髪と、金髪は紛れもなくラクスとカガリだ。
「タスケテー」
「ふはははー。キラは預かった!」
「返して欲しければ、言うことをお聞きなさい」
「ワーコワイヨー」
キラ、学芸会でもここまで棒読みはしないぞ。
高笑いするカガリは、それはもうノリノリでキラの頭をポンポン叩いている。ラクスはラクスで、この為に用意したのか鞭を抱えてうふふと笑っている。
「これから指示する場所へ来い!」
「場所はーーー」
ひどすぎる三文芝居を見せられて、アスランは笑い出す。
腹を抱えて笑うアスランに、部屋の外にいたSPは驚いてドアを開けていた。
「すまない。緊急召集がかかった。俺はこれからプラントへ行ってくる」
「し、しかし今日のご予定は・・・・・・」
「これは上司の命令なんだ」
「・・・・・・かしこまりました」
SPは、それならば仕方ないという顔をする。
すぐに来い、飛ばしてこいとのご指示だ。これはMSを使ってでも、速攻で来いとのことだ。
「ではお気をつけて」
頭を下げるSPをコックピットから見て、MSを飛ばす。流石にジャスティスを飛ばすわけにはいかないと思っていたのに、整備員は迷わずジャスティスに乗せてくれた。
「ここまで仕込んでるのか・・・・・・」
自分で組んだはずのOSは、いつの間にか書き換わっている。
ピンクハロが画面でひょこひょこ飛んでいた。それに触れると画面が替わる。
画面に映し出されたのは、「HAPPY BIRTHDAY」の文字だった。
「あ・・・・・・そういうことか」
『今絶対、今日が誕生日だって気づいたでしょ! 自分の誕生日にまで律儀にびっしり仕事入れて。バカじゃないの?』
突然再生されるキラの声。
見透かされた言葉に、思わず笑ってしまう。
「いや。流石にさっきの動画で誕生日だって気づいたさ」
気づいたけれど、気づいたところで仕事を休む気はさらさらなかった。一つ年を取るだけで、もはや嬉しいという感覚もなかった。
『そんな仕事バカの堅物には、プレゼントなんて用意してやらないんだからね!』
「ひどい言われようだな・・・」
『こっちに着いたら覚悟してろよ! 今日は一日僕がこき使ってやる!!』
ぶつっと切れた音声に、アスランは口を震わせる。
どこまで手の込んだサプライズだ。ここまで用意するのは結構大変だっただろう。
「さて。キラはどんな可愛い我が侭を言ってくるのやら」
プラントに到着すると、まずはキラに殴られた。プリプリ怒るキラを宥めながら、ラクスとカガリに視線を移す。
「お前は。本当にバカなのか?」
「そうですわ。ふざけるのはそのデコだけになさいませ」
「キラは、お前の誕生日は休みを入れてたんだよ! それをお前はいつも通りに出勤しやがって!!」
カガリがアスランの予定に気づいたのは昨日だった。それから無理矢理休みをねじ込んで、例の動画を作ったらしい。
「可愛い弟に手出しておきながら、悲しませてんじゃねぇよハゲっ!」
「キラを泣かせたら、わたくし達が承知しませんわよ」
そう吐き捨てると、ラクスとカガリはアスランに何かを投げつける。二枚の封筒は、丁度アスランの顔に当たる。
嵐のように去っていく二人を見送って、後ろを見た。
「ところで。キラさんはいつまで引っ付いてるつもりだ?」
「アホのアスランが反省するまで」
殴られて、それからずっとキラは背中に張り付いている。
床に落ちた封筒を拾い上げて開けてみると、テーマパークの入場券とホテルの宿泊券が入っていた。
「僕の誕生日の時はお祝いしてくれたのに、何で僕には祝わせてくれないんだよ!」
「・・・・・・ごめん」
「この日に合わせてどれだけ計画練ったか!」
背中を叩くキラは、最後にバシンと平手打ちする。
「今から行くか?」
「当たり前だよ! 今日はお詫びに僕の言うこと全部聞いてもらうの!!」
「・・・・・・誕生日祝ってくれないのか?」
「今日明日、僕がずっと一緒にいてあげる。キミにはそれで十分! プレゼントなんてあげない!!」
腰に回った手が服を掴む。
自分はこれ程までに大切にされていたのか。
「ありがとうキラ」
「・・・・・・誕生日おめでとう。アスラン」
自分のことも大切にしていなければ、相手のことも大事にしているとは言えない。
アスランは腰にしがみついた手を解く。茶色い髪を撫でる。
「まずはキスして抱きしめて、それからずっと一緒にいること!」
可愛らしい我が侭が始まる。
「お安いご用です」
こんな誕生日も悪くない。
いや、”最高の日"だ。
fin
バカップルはいろんな人を巻き込みます。
でもアスキラなら仕方ないな的な感じに、周囲はなっているといいなと。
10年以上たっている作品なのに、今も誕生日を祝われるアスランすごいですねー
改めて、おめでとうアスラン!
末永くキラとお幸せに!!