7thB.V

□笑っていてね
1ページ/1ページ


この村に来て、フレディの凄さがよく分かった。

小さいのに、大人から慕われて、難しい話しも何食わぬ顔でこなしている。

本当にすごいと思う。



じぃと、レナは窓から外の様子を見ていた。
フレディと一緒にこの村に来てから、数ヶ月他ほどたったぐらい。
ここでの生活にも随分なれて、央魔として自覚も出始めてきた。

フレディたち人間とは違う存在であり、保護される側にある。
さらにレナの場合は特殊で、影となって具現化したもう一人のレナが消えずに存在しているということもある。


こうしてフレディの家に暮らし初めてそれがよく分かった。

一緒に着いてきてくれたアーウィンも変わらず側にいてくれている。


本当に何も知らないレナに、いろいろなことを教えてくれた。

特にフレディは、忙しいのに必ず気にかけてくれている。


「れなぁ……」

「なぁに?」


まだおしゃべりがあまり得意ではない影は、舌っ足らずな声で呼んだ。
一緒に外を見ていたのだか、飽きてしまったのかもしれない。


「ふれ、でぃ?」


影はフレディの方を指して言う。
最近だんだん言葉を覚えてきて、何かを指さしてはレナに訪ねてきた。


「そうよ。フレディ。何を話してるのかしらね」


影はこてんと首を傾げた。その仕草が可愛くて、レナは頭を撫でた。

まるで妹のよう。
一人っ子として育ってきたレナは、妹とはこんな感じなのかなと思った。


「私もフレディの役に立てたらいいのにな…」

「やく……?」

「そう。私、いつもフレディに助けられてばかりだから」


難しい顔で大人達に混じって仕事をしているフレディ。
手伝えることがあるのかも分からない。


「ねぇ。あなたならどうする?」

「う?」


影はにこにこと笑うだけで、答えてはくれない。
影もレナなのだから、レナに分からないことは分からない。
それは分かっているが、一緒に考えてくれたらと、影の額をつついてみた。


「あぅ……いや!」

「あ、ごめんね。ただちょっとイタズラしたくなっちゃった」

「れなぁ!!」

「きゃあ!!」


つついたのが余程いやだったのか、影はレナを突き飛ばした。
突然の反動で、影ごところんと仰向けに倒れ込む。

見下ろす赤い目が、お返しだと言わんばかりに細められる。
レナはどうしたら良いのか分からず、ぎゅっと目を瞑った。


「れーなぁ!!」

「やぁ、やめてったら!!」

影の髪が顔にかかってくすぐったい。
レナの反応が面白かったのか、影はきゃははと笑った。


「もう!! 重いからどいてったら」

「やっ!!」


ぐりぐりと首筋に頭を押しつけられると、本当にくすぐったい。

ばたばたと暴れるのだが、力は影の方が強くて退けられない。
影が飽きるまで、付き合うしかなさそうだ。


「れなぁー、れな!!」


お仕舞いには、ぎゅうと抱きつかれて、完全に動きが封じられてしまった。


まるで人形にされたようだわ。
レナはふぅと息を付いた。


隣で寝ころんで笑っている無邪気な影。
悩みがなさそうで羨ましい。


「ねえちゃんたち、何やってるの?」


話し合いの終わったらしいフレディが、大量書類を置きながら言った。


「んー何してたのかしら?」

「ふれでぃ!!」


フレディを指さして、影は言う。
今度は、人を指さしちゃいけませんと教えなくっちゃ、とレナは頷いた。


「どっちにしろ、そんなとこらで寝ころんでると風邪引くよー」

「はーい」

「…はぁい!!」


レナのまねをして返事をした影に、フレディはくすりと笑った。


「ホント、ねえちゃんたちって可愛いよね」


フレディの言葉に、レナはぷくりと頬を膨らます。


「もう。どうせ子供っぽいとか思ってるんでしょ」

「そんなことないよー」


膨らませた頬が、つんつんとつつかれた。
くすりと笑ったフレディの顔に、また子供みたいなことをしてしまったと頬が赤くなる。


「れな、かわいい!」

「君も可愛いよ」

「かわいい!?」


フレディに頭を撫でられている影はとても嬉しそう。だけど、フレディの顔は何だか疲れているように見えた。
目が少し充血したように赤い。


「フレディ。お仕事大変ね」

「あーあれ? そんな大した量じゃないし、急ぎじゃないから平気だよ」

「そう…ならいいけど」


あんまり無理はして欲しくない。
だけど、フレディは笑って平気だといつも言うのだ。


「私に出来ることがあったら言ってね」

「えーねえちゃんに手伝って貰ったら、よけいに時間がかかっちゃうよ」


そんなことない、と言い掛けて、レナは言い換えた。

「そうね……私がいても迷惑かけちゃうだけだしね」
「違うって!! そういう意味じゃないよ」


フレディは、あー…と声を出してがしがしと頭を掻いた。


「あのさ……ねえちゃんが側で手伝ってくれるのはすごく嬉しいよ。だけど……」

「そうよね…冥使の私が、祓い手の手伝いなんて……」


出来ない。
そう言い掛けたとき、フレディはぎゅうとレナを抱きしめた。


「あーもう!! ホントねえちゃんは人の話を聞かないね」


突然のことに、レナはぱちぱちと瞬きを繰り返す。

外にいた所為か、すこしフレディの身体は冷たい。
同じぐらいの体温なのに、なんだか温かい。


「ねえちゃんが側にいると、気になってオレが集中出来ないから!!」


その言葉にレナは顔が熱くなるのを感じた。


「そ、それじゃあ手伝えないじゃない!!」


顔を上げて抗議しようとしたのだか、フレディはレナの頭を抱きしめたままで動けない。


「フレディ!!」

「だめ!! 今オレの顔見たらダメ!!」

「どうして、フレディ! フレディったら離してったらッ!!」


じたばたと身をよじると、すこしだけ隙間が出来た。そこからちらりとフレディを見ると、首筋が赤くなっていた。

もしかして照れているのかなと、顔を真っ赤にしたフレディを想像してみる。
普段大人びているから、きっと年相応の顔をしているはず。

レナは暴れるのをやめて、フレディを抱きしめた。


「なッ! ねえちゃん!?」

「フレディだって可愛いわよ」

「れなぁ!! ふれでぃ!!」
「きゃあ!!」


突然どんと何かがぶつかって来て、視界が反転する。フレディが下地くらいになってくれた為、痛くはなかった。
そろりと目を開けると、ちょっと拗ねたような赤い目があった。


「いったー…もう。こっちのねえちゃんも本当に突然だよね」

「フレディ、大丈夫?」

「まぁ……でもそろそろどいて欲しいかなー」

「あ、ごめんなさい!! 重かったよね」

「…以外に重いんだね」
「し、失礼だわ!! 二人分だから仕方ないじゃない!!」

「れなぁ…ふれでぃー」


フレディは、二人の顔を見て声を立てて笑った。
影もつられるように、きゃははと笑う。


「もう!! 二人とも笑い過ぎよ」

「ねえちゃんは何もしなくても良いんだよ」

「それじゃあ、役に立たないわ」

「こうやって、オレを笑わせてくれたらいいんだよ」
「それはそれで難しいかも……」


レナはうぅと唸った。
面白いことなんて、言えないしとつぶやくのを聞いて、フレディは吹き出す。


「大丈夫。そのままで十分面白いよ。ねー?」



影に同意を求めても、影はくてんと首を傾げるだけだった。


フレディの言葉は納得できなかったけど、フレディが笑ってくれるのは嬉しい。


これからもその笑顔が見たいな。


レナは銀色の頭を抱きしめた。



end





……思いの外長くなったよι

影レナが途中で本気で消えかけましたが、、、

フレディさん、レナの胸が顔に当たってワタワタしてたら良いと思います!!
しかし、影レナの呼び方をどうしようか……



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ