7thB.V

□Scarlet mood
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「起きなさい、レナ……」





*Scarlet mood





アーウィンはソファーで眠る、明るいブラウンの髪を見つけた。気持ちよさそうに眠る顔はとても幸せそうで、まるで猫のように丸まっている。
しかし、日当たりのあまり良くないこの部屋で寝ていては風邪を引いてしまう。
ヒトよりも身体が丈夫とはいえ、央魔になりたてのレナはあまりヒトと変わりない。その上、央魔の中でも、レナは特殊な身体の持ち主ゆえもある。もともと一つだった身体が、二つに分かれて存在しているのだ。より冥使の特徴を持つ影と、よりヒトに近いレナ。
二人とも央魔には変わりないが、いまだにレナの身体は不思議が多い。


「レナ、起きなさい」


身体を揺さぶると、レナが身じろいだ。しかし、起きる気配はない。アーウィンの手から逃げるように、ころりと寝返りを打つ。レナはまるで、胎児のような姿で丸まった。
はぁとため息が漏れる。風邪を引かれても面倒なので、アーウィンはレナを抱き起こして運ぼうとした。緩やかに波打つ髪が腕に触れる。


「うー…」


レナの瞼がぴくりと動いた。ふるふるとゆれる長い睫毛。その瞼の下から現れたのは、ルビーのような真っ赤な瞳だった。
アーウィンは、目を見開いた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返したレナは、じたばたと暴れ出す。


「レナ……ではないですね」

「アァッ!! アー!?」


レナとまったく同じ容姿をした影だった。言葉を教えられなかった影は、まるで動物のようにアーウィンを威嚇する。開いた唇から、長く真っ赤な舌が伸びた。


「まったく。おまえを見分けられなかったとは……」


ヒトより優れた嗅覚を持つ冥使は、匂いで見分ける事ができる。しかし、レナと影の違いはほとんど見分けが付かない。


「ゔぅー、あぅッ!!」


腕に噛み付こうとするのを押さえ込んで、ベッドに放り投げた。ぎゃあと、影は転がって獣のように四つんばいになった。


「やれやれ。本当に獣のようだ……」

「あ゙ぁあああ!!」


飛び掛ってくる影に、アーウィンは片手で押さえ込んだ。細い肩をベッドに押さえつける。影の赤い目を見下ろすとじたばたと暴れ、押さえ込んでいた腕に長い舌が巻きついた。
にいと赤い目が歪められる。


「やめなさい」

「ぎゃあ!!」


アーウィンは影の舌を掴んで払いのける。赤い目を影に向けると、白く細い首に手を掛けた。力を入れると、ぐっと影の口から苦しそうな声が漏れる。首を絞める手をがりがりと掻き毟る影をして、その手を緩めた。影はぱっと、ベッドのふちに飛びのいた。


「これからは、おまえの教育もしないといけないな」

「ゔぅぅ……」


引っ掻かれた傷を見て、アーウィンはにやりと笑った。影は警戒するようにこちらをにらんでいる。背を向けた瞬間に襲ってきそうな、そんな雰囲気だった。




「あら、アーウィン。こんなところにいたの?」


ピンと張り詰めた空気が緩んだ。ドアを明けたのは、もう一人のレナ。


「れなぁ!!」


影がレナに向かって飛びついた。影はきゃあと倒れたレナに抱きついている。


「あら、あなたもいなの?」

「れなぁ。れなあ」


甘えるように擦り寄る影に、アーウィンはため息を付いた。あの赤い瞳が、嬉しそうに弧を描いて、猫のように見える。


「どうしたの。何かあった?」

「あうー。れなぁ」


よしよしと影の髪を撫でたレナは、アーウィンを見た。アーウィンは無表情にこちらを見るだけで、何も言わない。


「あのね。フレディが探していたの」

「そうですか」


それだけ言うと、アーウィンは部屋を出て行った。影と二人きりになったレナは、抱きついたままの影に目を向けた。


「ねぇ。何かあったの?」

「あー…うぅーあぅ…」


まだ言葉が喋れない影が何を言っているのかは、はっきりと分からない。しかし、もともと同じだったからなのか、なんとなく伝わってくるものはあった。


「アーウィンも、あなたともっとお話できたらいいのに」

「あー!! やぁ…」

「でもね。伝えられない事は、とても悲しい事よ」


影はことんと首を傾げる。あの暗い場所で生まれた影は、ヒトとして持つべきものを教えられてこなかった。誰とも関わりのなかった影は、ヒトとの関わり方を知らない。何故か、最初からレナだけには、関心を持っていたが。


「きっと、ちょっとびっくりしただけなんだよね」

「うぅ。れなぁ」

「だけど、どうしたら良いのか、分からなかったんだね」


にこりと笑ったレナにつられるように、真っ赤な瞳が細められた。


「れなぁ」

「ごめんねって。アーウィンにあやまらないと」

「あうぅ…」


ぷくりと膨れた頬をレナは、つんと突っついた。レナよりも少し痩せている影だが、それでも頬をふくふくとしていて気持ちがいい。


「もちろん。アーウィンもやりすぎだよね」

「うあー。あー…」

「さあ、行こうか」


立ち上がってドアを開ける。まだ立って歩く事のできない影に合わせて、レナはゆっくりと歩いた。

フレディに貰った絵本を、こんど影に読んであげよう。
言葉を覚えた影が、アーウィンやフレディと話しているところを見てみた。


「もしかしたら、あなたとアーウィンって意外に気が合うかもしれないね」


レナの言葉に、影は顔を顰める。
冗談で言ったことなのだが、レナ以外に誰かに反応を示したとこのない影が始めて反応をした。もしかしたら、もしかするかもと、レナはふふと未来を想像して笑みを浮べるのだった。





end


アー←影レナみたいな?
影が一方的にアーウィンに突っかかってそうだなと。
レナが一番なのは変わりないですがね。
バイオレンスな感じになりそうですが…アーウィン、ドS全開な感じ。
影レナちゃんは、ツンデレ気味?






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