7thB.V

□bonbon au chocolat
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ふんわりと漂うあまい香り。
かしゃかしゃと生クリームをホイップして、ちょっとビターなチョコレートを加えた。






*bonbon au chocolat







「うん。おいしい」


チョコレート色になった生クリームを味見する。程よい甘さが口の中に広がって、レナはよしと頷いた。
キッチンに広がる甘い香りは、バレンタインの用意をしている所為だった。誰かのために何か作ること自体初めてで、なんだかとてもドキドキする。お菓子を作るのも久し振りで、上手く作れるだろうかと少し慎重だった。


「れなぁ?」


ふんふんと匂いを嗅ぎながら、影が入ってきた。レナと同じで甘い物が大好きな影は、匂いにつられてきたのだろう。赤い目がキラキラと輝いている。じっとレナの手元を見ていた影は、キッチンのシンクをつたって、ひょいとボールの中身を見つめた。立つ事がまだまだ苦手な影が、自分から立つことは珍しい。ふるふると震えながら、懸命に立っていた。


「はい、ごほうびね」


チョコ生クリームを指で掬って、影に差し出す。ふんふんと匂いを嗅いだ影は、ぺろりと指を舐めた。赤い目がまん丸になって、きゃあと笑う。影はぱくんとレナの指を加える。長い舌が指に絡んで、くすぐったい。


「きゃっ!? もう……私はまだ作るものがあるのよ。だから、もう少し待っててね」

「あうぅ……」


指をひっこぬくと、影はとても残念そうな顔をした。だけれども、まだ準備がのこっている。湯銭にかけていたチョコを生地に加えて、チョコのクッキーを作らなければいけない。生地はもう出来ているから、あとはチョコとナッツを加えるだけ。
レナに構ってもらえなくなった影は、不満そうに頬を膨らませている。立つのに疲れてぺたんと座り込んだ。


「ふふ。あとで手伝ってね」


影は不思議そうに首を傾げた。
チョコとナッツを加えた生地をさっくりと混ぜ合わせると、テーブルの上に生地の入ったボールを置く。影を手招きして、椅子に座らせた。


「あのね、この生地をこのくらいの大きさにして欲しいの」


生地をスプーンで掬って、オーブンの鉄板の上に置いてく。レナの様子を見ていた影は、ぎこちない手つきで、スプーンで生地を掬った。眉間に皺を寄せて作業する影に、レナはくすりと笑みを浮べる。
ずっと一人っ子で、リズといる時にも妹のようだった。だから、こうして教えながら一緒にやることがとても楽しいのだ。きっと、妹がいたらこんな感じなんだろうなと思うと、影が可愛くて仕方なくなってくる。


「あうぅぅ…れなぁ」

「そうそう、上手ね」


レナに比べると少しいびつなクッキーになりそうだけれども、一生懸命な姿がとても可愛らしい。ハニーブラウンの髪を撫でると、影はきゃあと嬉しそうに笑った。二人ですべての生地を並べ終えて、温めていたオーブンの中に入れる。後は、焼きあがるのを待つだけ。


「さあ、あともう一つね」


待っている間に、ボンボンショコラを作る。ガナッシュとミルクチョコにビダーチョコ、アーモンドチョコにラムレーズン入りのチョコ。いらんなものを詰め合わせたら、きっと喜んでくれるに違いない。
三種類のチョコレートの入ったボールを並べて、レナはよしと気合を入れた。
影はレナの様子をじっと見ている。オーブンからクッキーのにおいが広がり始めた。ふんふんと影はにおいを辿っている。早く早くと言っているようで、レナはクスリと笑った。
たっぷりと生クリームを加えたチョコを、手で丸めてお皿に並べていく。ころんとした形のガナッシュが出来上がっていく。
もう一つのボールは、ビターチョコ。一口サイズの紙の器にそれを流し込んでいく。


「じゃあ、あなたはこの中にレーズンを入れていってね」


影はレナの言われたとおりに、ちょんちょんとレーズンを入れていく。
あと一つはミルクチョコレート。レナは同じように器に移していってアーモンドを入れていった。


「れなー、れなぁ」

「あら、もうできたの?」


意外に手先の器用な影は、すべて終わってしまったとレナの袖を引っ張った。その様子は褒めて褒めてと言っているように見えて、よしよしと影の頭を撫でる。嬉しそうに笑う影がぎゅうと抱きつこうとした。


「あ、ダメよ!! チョコがこぼれちゃうわ」

「うー…れなぁ!!」


影は不満そうだけれども、せっかく作ったチョコが台無しになってしまうのは悲しい。すべて出来上がったチョコを持って、レナはそっと冷蔵庫の中に入れた。


「はあ、おわったぁ」


知らない間に肩に力が入っていたようで、レナはんーと伸びをした。後は、片付けをするだけとテーブルの上を見て、レナは目を丸くした。
ボールに残っていたチョコをぺろぺろと舐める影が、レナを見てにこりと笑っている。口の周りには、べったりとチョコが付いていた。


「れーなぁ!!」

「きゃあ!?」

ボールを持ったまま飛びついてきた影に、レナは尻餅を付いた。飛びついた拍子に上に乗っていたボールまでひっくり返ってきて、二人の上に落ちてくる。
ぽかんとレナは影を見た。ハニーブラウンの髪がチョコレート色に染まる。白い頬に付いたチョコがたらりと垂れた。


「きゃはは、れなぁあ!!」


ぎゅうと抱きついた影が、頬に付いたチョコを舐める。ハッと我に返ったレナが影のほうを見ると、影も同じようにチョコレートまみれになっていた。べたべたになった髪からもチョコレートが垂れてくる。


「やぁ、ちょっと! くすぐったいよぉ」

「れなぁ、れーなあ!!」


影は舐めるのをやめようとしない。赤い舌がぺろぺろとチョコを舐めていく。くすぐったくて身を捩るが、抱きついた影は離れてくれない。


「やーだってばぁ!!」

「やあ!! れな、れなぁ」

「ちょ、ねえちゃんたち何やってんのさ!?」


がたんという音を聞いて飛んできたフレディは、二人の様子に目を丸くする。心なしか顔が赤くなっているような気がした。


「フレディ、助けてぇ」

「やあ、れな!!」

「や、じゃないのー! はーなーれーてぇええ」

「やぁーあぁああ!!」


レナが引き離そうとすると、ますます影はぎゅうとレナにくっ付いてしまう。服までチョコレートまみれになった二人が抱きついたままという光景は、様々な経験をしてきたフレディも始めての光景だった。
ぎゅうと抱きついた影は、レナの首筋に付いたチョコをぺろんと舐める。首筋に顔を埋めるその様子に、フレディは目を逸らした。いくら大人ぶっても12歳には少し刺激が過ぎるようだった。


「きゃっ!? ひゃんッ……やぁっ!!」

「んー、れなぁ……」

「いい加減にしなさい」

「ぎゃあ!? 」


べりっと影が引き剥がされた。ばたばたと手足をばたつかせる影を、片手で摘んだアーウィンの姿に、レナはうるんだ瞳を向けた。


「ありがとぉ、アーウィン」

「まったく……あなた達は、何をやっているのですか」

「やーあ! ゔぅぅぅ!?」


暴れた影は、アーウィンの手から逃れるとぎゅうとレナに抱きついた。抱きついて、威嚇するように唸る。アーウィンは、はあと息を付いた。チョコまみれの二人が動くたびに、キッチンがチョコまみれになっている。もう既に乾いてしまったチョコもある。


「二人とも、早くお風呂で洗ってきなさい!!」


二人してお風呂場に放り込まれてしまった。
鏡の前に立って、改めて自分の姿を見る。服も髪もかなりチョコが付いていた。


「もう、あなたの所為で怒られちゃったわ」

「うぅ……れなぁ…」


同じように影にもかなりチョコが付いている。特に服にたくさん付いてしまっていて、洗濯でも落ちるかどうか分からない。
怒っている雰囲気が伝わったのか、影はしゅんとしていた。レナはその様子に、悪戯っ子の笑みを浮べると、ぺろんと影の頬を舐めた。


「お返しよ」

「きゃあ、れなっ!!」


きゅっと影は抱きついた。
ふわりと香るチョコレートのにおい。


ぺろりと舐めたチョコの味は甘いミルクチョコレートだった。







「なに、顔を赤らめているんです?」

「うぅ…だって、あんな、あんなぁあああ!!」


わあと頭を抱えたフレディは、耳まで真っ赤になっていた。
これは、良いものを見たとアーウィンはニヤリと笑うのだった。







end


レナレナチョコまみれ。友人リクです。
相変わらずのレナレナですが……こんなんでいいですかねぇ?
書いてる方はむっちゃ楽しいです←←
なんとか、バレンタインに間に合いましたねぇ……
……あ、あれ? これっとバレンタインなのか……はい、気にしない←←←

そういえば、オーブンのクッキーすっかり忘れ去られてますけど……きっと美味しくできたと思います!!
ちなみに……ボンボンショコラとは、一口サイズのチョコのことです。ボンボン オ ショコラとも言います。

bonbon au chocolat……フランス語で「ボンボン オ ショコラ」です。









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