7thB.V

□それぞれのナイトメア
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それぞれのナイトメア


「れなああああぁぁっ!!」

「きゃっ!? な、何!? ど、どうしたの!?」

 私が自室の扉を開いた直後、唐突にもう一人の"私"が、まるで体当たりをするかのような勢いで抱きついてきた。

「ううっ、れな、れなぁ……」

「なあに、どうしたの? ……泣いてるの?」

 蜂蜜色の髪に、私とお揃いの白を基調としたシンプルなワンピースにその身を包んだ少女は、ぱっと見には私と双子の姉妹のようにも見えるが、よく見れば目の色が異なっている。

 私は琥珀色、彼女は鮮やかな紅色の目。

 泣きはらして目が紅くなってしまった訳ではなく……『冥使』と祓い手らの呼称する存在が持つ、外見上の特徴の一つである。

 私が『央魔』と呼ばれる存在に覚醒した、あの14歳の誕生日とその後の数日間。そこで私は自らの真実を知り──"影"は私の中に取り込まれ、その肉体は滅んだ。

 その後、私とアーウィンは、"村"の祓い手であり次期大老師でもある、銀髪にグレーの瞳を持つ少年──フレディに伴われ、祓い手らの住む"村"へとやって来た。

 "村"では、しばらくの間、平穏な暮らしを送っていたのだが……ある時、何の前ぶれもなく"影"が私から分離してしまった。

 フレディが言うには、ある朝突然、二人揃ってベッドに眠っていたとの事だ。

 どうしてこうなったのかは、"村"の祓い手らにもアーウィンにも全くわからないらしい。なにぶん、私の存在自体が極めてまれなケースな上に、一度央魔として覚醒したあとに"影"が分離する事など、前例が無いのである。

 それで、いろいろと考えた結果……そのまま保護観察を継続してゆくと言うところで落ち着いたようだ。下手に元に戻すとどうなるかわからないし……そもそも、どうやって元に戻せば良いのかもわからない。

 幸い、私も"影"も健康状態には異常は無く、日常生活を送る分には何の支障も無かった。

 周囲では、突然の予期せぬ出来事に少し戸惑っていたようだが──私としては、妹が出来たみたいで嬉しかった。

 そんな訳で現在、もう一人の私……"影"が私の腕の中で泣きじゃくっている訳だが──





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