7thB.V

□気が付けば...
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人に慣れない野生動物が、気まぐれで懐いた。
そうとしか考えられない。



*気が付けば...





見られている。あきらかに、それはこちらを見ていた。
赤い、血のような目で、こちらを見つめる。あの修道院の一件で、消えるはずだったそれは、何故か再びレナと分裂して、現在までいたっている。こちらに害はなく、それが今のところ懐いているのは、レナとおそらくフレディだけだろう。
部屋の中には、アーウィンと影だけ。今、レナとフレディはどこかに出かけている。寝ていた影を置いて、二人で出かけてしまったので、おそらく影はとても機嫌が悪い。ぷっくりと膨れた頬を抱えた膝の上において、こちらを見ている。いや、見ているというよりは睨んでいると言った方が正しいかもしれない。


「……何を見ている」

「…見テ、ナイ!」


アーウィンが読んでいた本のページから顔を上げると、ふいと顔をそらされた。ソファの上で膝を抱えた姿で、ゆらゆらと揺れている。レナと同じ色のハニーブラウンの髪が首筋で、同じように揺れている。置いていかれた事に、怒っているのは誰が見ても明らかだった。


「レナは起こしていた。起きないお前が悪い」

「ウ、ルサイ!」


ゔーと唸る姿は、やはり野生動物にしか見えない。いや、駄々を捏ねている子供と大差はない。やっと覚えた言葉もまだ不明瞭。最初の頃に比べれば、意思疎通が出来る分だけまだましとも言える。


「れなぁ……」


ぽそりと呟いた言葉が耳に入る。まるで、ひな鳥の刷り込みのように、レナの後ろをくっ付いて回っていた。もしかしたら、これほど長い間離れていたことはなかったかもしれない。
影は膝を抱えたまま、横に倒れた。スプリングの軋む軽い音がする。もぞもぞと動く影は、あの暗い鳥籠の中にいるときと同じように見えた。あの光の射さない暗い場所で、ずっと一人だった。たまに入ってくる餌に、本能的に襲い掛かる。それだけの生活。


「おい、寝るなら部屋に戻れ」

「……れなぁ」


影はこちらの話に耳を傾けようとはせず、くるりと背もたれの方を向いた。髪に隠れて顔は見えない。血の匂いしかしなかったそれは、今ではレナと同じような匂いがする。


「……これをやる」


アーウィンは、影に向かって何かを放り投げた。綺麗な放物線を描いて、それは影の丁度手元のあたりに落ちる。
もぞりと動いた影は、反射的にそれを掴む。ちらりとそれを一瞥して、赤い目がこちらを向いた。


「……れなぁ?」


首を傾げた影の手元にあるのは、影と同じ色をした髪の人形だった。手作りにも見えるそれは、レナが着ているネグリジェと、同じ洋服を着ていた。レナによく似た顔をした人形を、影はしげしげと見つめえてぎゅうと抱きしめる。


「……寝るなら、部屋へ行け」

「…ウン」


もぞもぞと起き上がって、影は立ち上がる。ぷらんと、手には人形を持っていた。
よたよたと歩き出して、ドアの前でぴたりとその足が止まる。


「…あーうぃん、れな……ア、リガ…ト」


小さく呟くようなその言葉を残して、影はバタンとドアを閉めた。
きゃははと言う笑い声が、廊下から聞こえてきた。
柄にもなく口元は、綺麗な孤を描いた。



End


久々にNPでSS書いてみました。
で、ツイッターの影レナbotちゃんが言ってる、アーウィンに貰ったレナ人形の話を勝手に捏造。作者さんに許可とってないので、事後報告してきます←
にしても、ちまちま手作りしているアーウィン想像したら吹いた←←







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