空に知られぬ雪

□序章
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序章 



−ザッ、ザッ…

陸奥の冬。
一人の子どもがおぼつかない足取りで山をさまよっていた。
先ほどから雪景色以外見えるものはない。
雪は降っておらず、木々の間から見える空は蒼い。


−ドサッ。
雪に足を取られて、前のめりに倒れ込む。すでに感覚がなくなった頬に雪が触れる。
今まで堪えてきた分の疲労が一気に襲いかかった。目蓋が重い。
もうこのまま目を閉じてしまおうか…。
何度もそう思ったが、たった一つの思念がそうする事を許さなかった。

「…平泉に…」

そう言って、子どもはゆっくりと起きあがり再び歩み始めた。
いつから一人なのか、はたまた始めから一人なのかそれさえ分からない。
ただ“奥州平泉”その地のみを目指して歩いてきた。



それから何とか崖の下まで来たとき、不意にどこからか馬の鳴き声がした。
(どこかに人がいるのだろうか?)
そう考えた直後、崖が崩れる音に顔を上げると黒い固まり―人―が落ちてくるのが見て取れた。
その瞬間、すでに悲鳴を上げている体に鞭を打って落ちてきたものをしっかりと受け止めた。
のは良かったのだが、思ったよりもそれは重く弱った体には支えきれずに受け止めたまま後ろへ倒れ込んだ。
そしてそのまま意識は真っ黒な世界に沈み込んでいった。




 

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