空に知られぬ雪

□弐
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第一章『風花』 弐




「この度の事、なんとお礼を言ったらよいものやら…。
よくぞ、泰衡を助けてくれた。
そなたがおらなんだら、今頃どうなっていたことか…」


泰衡が意識を取り戻した直後、顔色を変えた秀衡と郎等達がやって来た。
その状況は誰が見ても倒れている子どものおかげで泰衡が助かったのだというものであった。
秀衡は大いに感謝し、その子どもを伽羅御所まで連れ帰り回復をまって、面会したのであった。

「いいえ。俺もとっさの事でありましたので、
気を失ってご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

「そのようにかしこまらずとも良い。
顔を上げよ。名は何と申す」

顔を上げたその子どもに少しばかりその場にいた人―秀衡と泰衡―は驚かされた。
秀衡に対する受け答えから判断した年齢よりも、上がった顔は遙かに幼かったのだ。

「…蘇芳と申します。年は十一にございます」

真っ直ぐに見据えた瞳は吸い込まれそうな*天色だった。

「蘇芳よ、そなたには本当に礼を言う。
しかし何故そなたのような子どもがあのような場所に一人でおったのじゃ?」

「私は平泉という場所を目指しておりました。
しかし、道に迷ってしまい、空から降ってきたそちらのご子息殿を受け止めた次第にございます」

「平泉にどのような目的で目指しておったのじゃ?」

秀衡がそう訪ねると蘇芳は少し困った様子で答えた。

「それが、俺にも分からないのです。
気がついたら一人で、野山を彷徨っておりました。
覚えている事と言えば自分の名と、“奥州平泉”に何があっても行かなければならない事、それだけでした。
ですので、俺は一刻も早く平泉に向かわなければなりません。
ですが、ここの土地に不慣れなため、いま居る場所がどこだか分からないのです。
ここは一体どこなのでしょうか?」

蘇芳がそう訪ねると、秀衡は凄みのある顔を歪まし眉間に指をあてて何かをこらえるような仕草をした。

(なにか、いけない事を言ってしまったのだろうか?)




*天色…水色のような色(この文字の色です)






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