treasure&gift

□coloratura
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真夜中のテグミン、2番街。
昼は賑わっている2番街は嫌に静まり返っていた。そんな中、水道のみが強い速さで音を立てている。
雨上がり独特の刺激臭が鼻を掠める。
湿り濡れたレンガを踏み締めて、小柄な少年……アヴィスは闇に溶けた街を眺めていた。夜風が少し冷たくて、彼は自らを抱きしめる。
温めてくれる人なんて僕には居ない。それもそのはず、僕は普通は温めてくれる人達を殺してしまったのだから。あれは自己防衛だった、そう言い聞かせてみても罪悪感ばかりが心を支配する。
そんな葛藤は夜の2番街で毎日行われていた。

「こんな所に居たのか、アヴィス……風邪を引くぞ」

後ろから聞き慣れた低音で、あまり呼ばれない名前が聞こえた。

「もしかして、デューラ?」

振り向いて顔を見ると、やはりデューラだった。暗がりで見る彼は、何だか恐ろしさを感じさせる。震えるアヴィスに、居心地の悪そうな表情を見せた彼は背中を向けた。いつもは鬼畜な彼の人間らしいところを垣間見たような気がして、少しくすりと笑ってしまった。
風邪を引くのは君も同じじゃない、と勇気を出して言ってみると、デューラは喉の奥で笑って、ああそうかもな、と言った。吹き付けた風が緑の絹糸を弄ぶ。伏せ目がちになりながら、アヴィスが切り出した。

「……ねぇ、僕がもし罪人だったとしたら、デューラはどう思う?」
束の間の無言が流れ、アヴィスは心で諦めていた。
ああ、きっと君も僕のことを軽蔑するんだろうな。これはもしも話、なんて生温いものじゃない。実際に自分は罪人なのだ。それも親を手に掛けてしまった。きっと君にもこれを話した時点でさえ、軽蔑されてしまう。始めから判りきっていることだったのに、何故か淡い希望を抱いていた。そういうところ、僕はまだまだ甘いのかな。
そんな思考を脳でしながら、アヴィスは彼の次の言葉を待つ。変にそわそわした。
この人はどんな反応をするんだろう。どう僕を罵倒するんだろう。それとも……いや、この先は考えない方がいい。外れたときの失望感は、もう経験したくない。
ピンクの大きな瞳が揺れる。暫くして、考えていたデューラの口が言葉を紡いだ。

「……別に何とも思わないが」
「は」

えっ、なんだよその答え!!
再び束の間の無言が訪れる。アヴィスは目を丸くして驚いたようだった。
なんて顔してるんだ、と困ったように笑いながら、デューラはぶっきらぼうに続ける。

「まあ、その……なんだ……。過去やなんかで人を評価するのが、俺は嫌いなだけだ……そんなに驚くほどのことではないだろう」

そこまで言って、何だか自分らしくないことを言った気がしたのか、彼は斜め上を向いてしまった。

「ぷ。何それ、デューラって意外とイイ奴だね」
「意味がわからん。というか、意外とはなんだ意外とは!」

軽く頭を小突かれてペロリと下をだすアヴィスに、俺は帰る!と言って背を向けた。おやすみ、と言うとまたぶっきらぼうにおやすみが返ってきた。
アヴィスは柔らかく笑い、印象が変わりつつある彼の背中が、闇に包まれて見えなくなるまで眺めていた。

「(デューラになら、いつか僕の過去を話せるかも……ね)」

そう思って彼の足跡を辿る。
レンガを踏む足取りは心なしか軽かった。
coloratura
( 閉ざしたはずの黒に色がつく )











白樺様からいただきました!
シリアスがいいなぁとメールで零したら、こんな形にしていただきました!

ありがとうございます!
 

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