慈狂の花束
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「あ」
夏樹は小さく声をあげた。
失態…ケータイを忘れた。
どこだろうと記憶の回廊を渡る。
辿りついたのは冬樹の病室だった。
たしかケータイの電源を切って、冬樹の机のうえに置きっぱなしだったんだっけ…などとおもいながらため息をつく
「一日くらい大丈夫か…」
学校終わったら病院いかなきゃ、などを思い時が流れるのを待った。
ガラガラっと音をたてドアが開く。そこには、いるはずの彼がいなかった。
ケータイもいない。
冬樹もいない。
「冬樹?」
ベッドの上にメモがあった。
夏樹はメモをみてまたため息をつく。
それよりも、嬉しさが大きかった。
夏樹へ
ケータイ、忘れてっただろ?
俺少しでかけるから。
待ってて
by冬樹
たったそれだけなのに、夏樹は目から涙が零れおちた。
「冬樹っ…冬樹ぃ」
愛しい鏡の双子が、生きていたから。