Hello 第2章 

□僕だけが知っている
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1人では到底歩けない名無しさんヌナを
停めてある自転車の後ろに何とか座らせた。



『名無しさんヌナ、大丈夫!?』



俯く顔を覗き込むようにして様子を窺う。



僕の呼び掛けに顔を上げると
ニコっと笑って答える。



「うん、らいじょーぶっ!!」



ロレツの回らない口調で言うけど
全然大丈夫じゃない。



『とにかく早く連れて帰らなきゃ…』



自転車のサドルにまたがろうとした時
座っている名無しさんヌナの体がグラっと傾いた。



慌てて片腕で抱きとめて
何とか地面にぶつからずに済んだ。



ふぅ、危なかった。。。



両脇に手を添えて抱き上げると
もう一度荷台へ座らせた。



これじゃ自転車には乗れないな。。。



仕方なく荷台に名無しさんヌナを座らせたまま
自転車を押して歩く事にした。



時々、振り返っては
ちゃんと座っているかを確認して
名無しさんヌナのマンションを目指す。



「…く〜ん」



名無しさんヌナの声が
微かに聞こえた気がして咄嗟に振り返る。



『...?』



けれど名無しさんヌナは俯いたままで
何もしゃべらない。



あれ!?、気のせいかな。。。



確かに聞こえた気がしたけど
また前を向いて歩き出す。



「…ンギく〜ん」



今度は間違いなく名無しさんヌナの声が聞こえた。



『なぁに?』



歩きながら顔だけ後ろに向けると
名無しさんヌナはニコっと笑う。



「ううん、なんでもな〜い!!」



何で呼ばれたのかいまいち分からないけど
名無しさんヌナの笑顔につられて笑ってみる。



また前に向き直ってからしばらく歩くと。



「ジンギく〜ん」



またまた僕を呼ぶ名無しさんヌナに振り返る。



『ん?なぁに?』



するとさっきと同様にニコっと笑ったきり
何でもないと言う。



何だか今日の名無しさんヌナは
いつもと違う。



その後、何度かこのやり取りを繰り返しながら
僕達はゆっくりと帰る。



角を曲がるとようやく
マンションの建物が見えた。



自転車を停めて名無しさんヌナの前にしゃがみ込むと
両手を後ろ手に広げる。



『名無しさんヌナ、僕の上に乗って』



けれど名無しさんヌナは大丈夫と言って
僕の背中を押しのける。



危なっかしくてとてもじゃないけど
歩かせる事なんて出来ない。



『ダ〜メ!!僕の言う事聞いて』



譲らない僕に観念したのか
もぞもぞと身動きをして
荷台から背中へ乗り移った。



良かった、デニムで。。。



軽い名無しさんヌナを背中に感じると
立ち上がって背負い直す。



すると僕の頭の上で嬉しそうな声が聞こえた。



「うわぁ〜、高〜い!!」



僕より頭1つ高くなった分
いつもと違う目線にはしゃいでいるみたい。



『だって今の名無しさんヌナは
180p以上の目線だもん』



そう言うと喜んでいるみたいで
両足をバタバタと揺らしている。



あはっ、何か可愛い。。。



名無しさんヌナをしっかりとおんぶして
エントランスへと入ろうとしたら
何かが目の前に飛んで行くのが視界に入った。



『あっ…』



僕の2m先に転がる名無しさんヌナの靴。



バタつかせてる足から靴が脱げて
ぽーんと前方に飛んで行ったらしい。



「あれっ!?靴が消えちゃった…」



名無しさんヌナは裸足の足を前に伸ばすと
指を曲げ伸ばししながら不思議そうに見つめてる。



『あはっ、消えたんじゃなくて飛んで行ったんだよ』



顔を後ろに向けながら教えてあげる。



「飛んでったの…?」



更に不思議そうな顔をして
僕の目を覗き込む。



その顔があまりに可愛くて
つい笑ってしまう。



転がってる靴のとこまで行くと
おぶったまま拾い上げた。



『ほらっ、ここまで飛んで来たんだよ』



名無しさんヌナに見せると
ほんとだと笑って靴を受け取った。



もう一度背負い直すと
そのままエレベーターに乗って
名無しさんヌナの部屋に向かう。



「ふん♪ふ〜ん♪…」



ご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら
また足をぶらつかせ始める。



今日の名無しさんヌナはほんと子供みたい。。。



ぶらつく足を見つめながら思わず微笑む。
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