Hello 第2章 

□2人だけの約束
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はぁ。。。終わった。。。



やっとの思いで今日の仕事を乗り切ると
思わず安堵の溜息が出る。



初めての“二日酔い”に
身も心もやられていた。



今だ続く頭痛と吐き気に
全くと言っていい程食欲が湧かずに
食事という食事をしていない。



それよりももっと辛いのは
昨夜の事を“覚えていない”という事実。



記憶を無くしたなんて
今まで経験した事がない。



しかもあろうことか
“ほぼ全裸”の状態で目が覚めた。



もう、何でこんな事に。。。?



再び吐き出される溜息と共に
その場にしゃがみ込んだ。



「名無しさんちゃん大丈夫?
顔色が悪いけど…」



突然、頭上からする声に振り扇ぐと
フロアで一緒のギャルソンが
覗き込むようにして見下ろしていた。



『シニョンさん!!
平気です、ただの二日酔いですから…』



大丈夫だと手を振りながら立ち上がったけど
言ってしまった言葉に今更ながら
恥ずかしくて目を合わせられない。



シニョンさんはこのお店の中でも
古株のギャルソン。



年は私とそれ程変わらないのに
既に10年のキャリアがある。



仕事に対してストイックなほどに真面目で
尚且つプライドを持ってやっている人だ。



あぁ、二日酔いなんかで仕事に来るな
とか思われちゃったかな。。。



「なんだ、二日酔いだったのか…
てっきり病気にでもなったのかと思った」



情けない気持ちで俯いている私に
怒るどころか心配している様子。



その言葉に顔を上げると
安堵の表情で微笑むシニョンさんに
すみませんと謝った。



「ちゃんと仕事はしたんだから謝る事ないよ!!
俺なんかしょっちゅう“二日酔い”だぜ!?」



そう言って笑うシニョンさんに
ついつられて笑ってしまった。



「やっと笑ったな!!
今日1日中、ココにしわ寄ってたぞ」



不意にシニョンさんの人差し指が
眉間に軽く触れた。



『えっ!?』



シニョンさんを見つめたまま
思わず固まってしまう。



「あっ、悪い…つい触っちまった」



急いで引っ込めた手が
バツが悪そうに頭を搔いている。



どうしよう。。。何か言わなきゃ。。。



けれど心とは裏腹に
頭には何1つ言葉が浮かばない。



「ほんとごめん…嫌だった!?」



思い切り首を振って否定したけど
相変わらず言葉が出ない。



嫌じゃないって言ったら
“触ってほしい”みたいで変だよね。。。



気の利いた言葉が思い付かない自分に
不甲斐なさを覚えた。



「頼む、何か言ってくれない…?」



不意に真顔でそう言ってきたシニョンさんの瞳が
真っ直ぐに私を捉える。



シニョンさん。。。?



仕事の時のとは違う
初めて見る眼差し。



いつもみたいに気楽に笑って
話すような感じじゃないその雰囲気に
戸惑いながら答える。



『えっと…嫌って訳じゃないんですけど
急に触られると戸惑うというか…』



あぁ、もうっ、上手く言えない!!



きちんと伝えられない自分に
イライラが募る。



私の言葉に安堵したのか
良かったと目を細めて笑った顔が
いつものシニョンさんだった。



するとシニョンさんの右手が
ゆっくりと私の方へ伸ばされると
ポンポンと優しく頭を撫でた。



「何でも良いから食べて薬を飲むように!!




じゃあなと手を挙げて
更衣室へと向かう後ろ姿を見送りながら
胸の辺りを押さえる。



なんだろう。。。



シニョンさんに頭を撫でられた瞬間
何だか妙に胸がザワつく感じがした。



ジンギ君に触れられた時のドキドキとは
明らかに違うそれに正直戸惑う。



けれどそれは多分
いつもとは違うシニョンさんの一面を
見たからだと納得する事にした。



何だか疲れた。。。



早く帰ってベッドに横になりたくて
足早に更衣室へと向かった。



着替える為にロッカーを開けると
目の前の棚に置かれた携帯が
メールを知らせるランプを点滅させている。



あっ、ジンギ君かも。。。



今朝見付けたメモに“メールする”と
書かれてあったのを思い出した。



To 名無しさんヌナ
Title お疲れ様


体調はどう!?二日酔いになってない!?
かなり酔ってたから心配だよ…

お店はもう終わったかな!?

僕の方は早めに収録が終わって
今は宿舎にいるよ。

この後、少しだけ会える?
名無しさんヌナの顔を見たらすぐ帰るから。

帰る時メール下さい。


        ジンギ



ジンギ君。。。



心配でメールをくれたジンギ君を思うと
胸の真ん中辺りが温かくなるのを感じる。



さっきまでの倦怠感が嘘のように
軽くなった心と体。



すぐにメールを返して
素早く着替えを済ませると
急いでお店を飛び出した。
  
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