DREAM 恋海 ナギ
□出会い
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シリウス号はモルドーの港に停泊する事になった。
「よし、それじゃあ皆割り振られた物買い出しした後は自由行動だ。まあ俺は酒場にいるがな!はっはっは」
船長は豪快に笑いながら湊町に消えていった。
「それじゃあ、くれぐれも騒ぎを起こさないようにね。特にハヤテ」
にこにこと笑いながら、船番のソウシは船室に帰っていく。
ハヤテはぶーぶー言いながら街に出る。
シンは娼舘に情報収集だと出かけていった。
「…調達する食料もたいしてないな」
行く場所もなく、やはり市場を宛もなく歩いていると、裏の路地に人だかりが出来ているのが目に入る。
「…闇市か?」
ここモルドーの自由貿易区では海軍の手も届かないこともあり、闇市が頻繁に行われている事で有名だった。
またどこぞの曰く付きの宝だの、絶滅危惧種の動物の取引だろうとちらりとだけ目を向けた時、人だかりの奥に真っ赤な色彩が見え、立ち尽くす。
目を凝らすと、その人だかりの目の向ける先には真っ赤な民族衣装を身に纏った鎖に繋がれた少女がいた。あれは…着物とかいう民族衣装だったか?
思考を巡らせていると、鎖につながれた少女を指差し、商人らしき男が声を張る。
「珍しいヤマトの女だ!しかも上玉だよ!」
…人身売買ってことか。
少女は微動だにせず、どこか遠くを見つめている。
「しかもこいつはあのモルドーの軍隊が恐れている存在だ!」
商人はニヤニヤと手を叩いた。
「こいつには懸賞金がかかっている。でも海軍に付き出すのは生きてないと意味がない。殺されない理由は、こいつがドクロ島の場所を知ってるとか知ってないとか…」
人だかりの男から声が上がる。
「金貨500,000枚!」
これを期に次々と高値をつけられていく。最終的には金貨100,000,000枚で声が止んだ。
「他は誰もいないかね!?」
商人が声を張り上げる。
少女に目を向けると目が合った。
「(くさりをはずして)」
彼女の唇がそう動いた気がした。
「よし!それじゃあそこの旦那!の金貨100,000,000枚で…―」
途端に煙幕があがり、商人や観客を覆った。
「誰だ!くそっ!」
客が逃げ惑い、その道が混乱する。
その間をすり抜け、少女の元へ辿り着く。
助けたいとか同情ではない。
気づいたら走っていた。
無言の少女を担ぎ上げ、その場を走り去る。
「裏切りのナギだー!!」
背中で商人の怒鳴り声が聞こえる。
追っ手が見えなくなった所で少女を降ろす。
少女はナギをじっと見つめている。
「…ありがとう。」
小さく呟いた声は見かけとは違う少し大人っぽい声。
「あぁ。」
自分でもどうしたのかわからない。
何故、この少女を盗み出したのか…。
「あの…」
「…なんだ?」
「鎖。外してもらえますか?」
手首と足首にはめられた枷。
鍵がついているようだった。
「あぁ。鍵あけのうまいやつがいる。あと、その服も目立ちすぎる。とりあえず、来い。」
再び少女を担ぎ上げ船に戻ると
皆帰ってきていた。
「わぁ!」
驚きで声をあげたのはトワだった。
「トワ。こいつの鎖外してやれ」
「はっはい!」
「ナギ。お前本当だったんだな」
シンが怪訝そうにナギを見る。
「街で裏切りのナギが女を盗み出したと流れてた」
「…そうか」
無関心そうに答える俺にシンはため息をつく。
「なんで女なんか…。邪魔だしな、海の藻屑にするか?」
ふとシンが少女に触れようとした時、気づいたらシンの腕に掴みかかっていた。
「っ…ナギ」
「…」
睨み、掴みあう二人が拳を握り締め、振りかざした時、俺の腕にそっと手が触れられた。
不思議な感覚に陥り、腕から力が抜けていく。
ふと見ると、少女に触れられた瞬間シンも地に膝を落としていた。
「…っ!?な、なんだ?」
少女は軽く微笑んだ。
「はっはっは!!面白い宝を盗み出したな、ナギ!」
「船長!」
「おい女!名前は!」
「…ジュン。」
にやりと船長が笑う。
「お前、シリウスの船に乗ってみないか?」
こうして、始まったお前との航海。
どこまで続くのかという不安と、どこかわくわくする気持ちを感じていた。