長編

□風の声
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今日も風が吹く。

どこから吹いてくるのかなんてわからない。


きっと1人1人に吹いているのだろう。

そして1人1人に囁いているのだろう。


その人の運命を導くかのように・・・・・





【風の声】
第1話 始まりの風





“春が夏にバトンタッチしているみたい。”


今日はそう言い表したくもなる気候だ。

朝は快適な気温だったのに、今ではYシャツの中に隠された肌が汗ばんでいる。


視界は一面の青で埋め尽くされて

背中にはひんやりとしたコンクリートの感触。


そう、私は今屋上で寝転んでいる。


屋上と言っても、ここなら誰にも邪魔されない。

校舎内と屋上を繋ぐ扉のさらに上、

扉の横に付いているはしごを上ってきたところ。

そこに私は今寝転んでいる。


こうしていると自分は小さいなーなんて柄にもないことを考えてしまう。


世界が回るのに全く関係がない、こんなちっぽけな自分のことを考えていると

何もかもがどうでもよくなってくる。



ふと、真っ青だった視界に1つの小さな雲が入ってきた。

空へ手をのばし、それを掴もうと手を握る。

当たり前の如く、雲は私の手に動じることなく流れていってしまった。



「はぁ・・・」



馬鹿なことをしたという自嘲と、

雲を握れなかったという代わり映えのない世界が何だか空しくて

ため息が出た。


それと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


数秒間ぼーっとしていた。

が、次の授業に遅れると何かとめんどくさいということを思い出し、

起き上がって

とりあえず下へ降りるため、はしごに足をかけた。


はしごを握る手が汗ばむ。

やっぱりこういう日は屋上じゃなくて

中庭の木陰にでも行くんだったと少し後悔した。



と、急に視界が暗くなった。

空には数える程度の雲しかないのに、それの悪戯で太陽が隠れたのだ。

今まで明るい空を眺めていた私にとって

この陰で視界をかなり暗くするには十分だった。


突然光がなくなったため目がチカチカした。



がくん



「・・・・・・っ!!」



足を滑らせた


ただそれだけのこと。


もうはしごの半分ほどは降りてきていたから

普通に着地すれば良かった。(多少足に痛みが残るだろうけど)


しかし


私の下には見知らぬ男子がいた。
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